Fate / SAO CCC   作:YASUT

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ちょっと駆け足な気もするが許しておくれ




第二層――攻略完了

 アイテム欄から礼装《鳳凰のマフラー》を取り出し、首元に巻き付ける。

 右手にはこの世界の武器、《アニールブレイド》

 少々心もとないが、この二つが現時点での最善の装備だろう。

 

「よし――行こう、キャスター!」

「はい!」

 

 交戦中のナトとバランの隣を走り抜け、一気に真のボス――《アステリオス・ザ・トーラスキング》の元へ辿り着いた。

 それを視認したアステリオスは、手にある巨大なハンマーを振りかざす。

 ――まずは一手。

 キャスターは足を止め、アステリオスと一定の距離を保つ。

 自分は更に加速し、接近する。

 

「炎天よ、はしれ!」

 

 振り下ろされた槌が爆風によって弾かれる。

 剣を水平に構え、無防備な胴体をそのまま斬りつけた。

 

「っ……」

 

 走る勢いはそのままに、アステリオスから距離をとる。

 渾身の一撃を与えたはずだが、敵の体力はさほど減っていなかった。

 

 ……ゲームであることの縛り。

 生身の体の戦いでは、必ず“一撃必殺”が存在する。

 いかに強い人間――たとえサーヴァントであっても、首を撥ねられたら死は免れない。

 だが“この世界”では、そもそも首を撥ねることが出来ない。

 心臓を貫かれようと、脳が弾けとぼうと、体力ゲージさえ残っていれば“生きている”と判定され、殺すことも殺されることも出来ないのだ。

 

 ――つまるところ、この戦いは持久戦。

 

「っ――この!」

 

 何度目かの斬撃を浴びせた後、足を止めずに走る。

 当然敵は狙いを定めハンマーを振るうが、キャスターの呪術によってそれは止められ、体力もまた削られる。

 これによりヘイトは逆転。

 敵は遠距離攻撃を行うキャスターの方向を見るが、それよりも速く、更にソードスキルをお見舞いする。

 

「っ……はは。今更だけど、ビルド間違えたかな――!」

 

 再び構えをとり、今度はソードスキル《スラント》を背後から叩きつける。

 《Damege Per Second》……一秒あたりのダメージ量(DPS)は、サーヴァントであるキャスターの方が圧倒的に高い。

 そのため、敵の注意もキャスターに集まりやすい。もう一度こちらに引き付けるためにはソードスキルを連発し、最低でも今の呪術以上のダメージを蓄積させる必要がある。

 キャスターを攻撃に専念させるためには、自分は彼女を守る(タンク)になるべきだったと今更ながら後悔する。

 

『……ご主人様(マスター)、頃合かと』

 

 遠距離からキャスターの声が届く。

 返事の代わりにアステリオスから離れ、キャスターのいる位置まで戻ろうとする。

 

「■■■■■――――!!」

 

 獣の咆哮を背中で受ける。

 ハンマーによる攻撃が来る――そう思って心の準備はしていたが、違っていたようだ。

 アステリオスは自分を追いかけることなくその場で立ち止まり。

 

「なっ――」

 

 ……代わりに、大きく息を吸っていた。

 かなりの量を吸っているらしく、牛男の鍛えられた胸筋が強調されている。

 

「この構え――ブレス、か?」

 

 この手のファンタジー獣のブレスは何かしらの攻撃属性を持っているものだ。

 これまでナト、バラン、そしてアステリオスは、電撃(スタン)系統の攻撃を多様してきた。

 ということは、電撃ブレスか何かだろうか。

 ――なんにせよ、強力な遠距離攻撃であることは間違いない。

 

「お下がりください、ご主人様(マスター)!」

 

 キャスターは自分の前に躍り出て、武器である蒼い鏡を具現化させた。

 その一瞬で彼女の考えを理解する。

 岸波白野が盾になれない以上、やはりそれが最適解か――!

 

「よし。キャスター、頼む」

「お任せあれ!」

 

 鏡はキャスターの正面で静止する。

 呪言を唱え終えた瞬間、群青の薄い膜が自分達を覆った。

 ――《呪層・黒天洞》

 魔力障壁を展開し攻撃を防ぎ、自身の魔力へ変換する防御型の呪術。

 

「■■■■――!!」

 

 暗いフロアの中が一筋の雷光によって照らされる。

 電撃のブレスは、黒天洞を張るキャスター目掛けて一気に発射された。

 

「っ……!」

 

 魔力の壁が振動する。

 運用次第では英霊の宝具さえ防ぐ呪術だが、レベルがリセットされた今ではどこまで持つか分からない。

 ……それを補うことが、今の自分の務め。

 キャスターの体力は少しずつ減少し――代わりに、もう一つのゲージが回復する。

 

「――ここだ」

 

 マフラーに手をかけ、コードキャスト《heal(16)》を実行する。

 減少しつつあったキャスターの体力は、一気に回復した。

 

「嬉しゅうございます!」

 

 次に、回復用のポーションを取り出して一気に煽る。

 プレイヤー“ハクノ”の残り体力は五割強。

 今のうちに自動回復(リジェネ)を掛けておけば、HPを回復しながら戦うことが出来るはずだ。

 ――視界を覆っていた雷撃が止む。

 

「次、行くぞ!」

 

 キャスターが黒天洞を解いた瞬間、自分はアステリオス目掛けて駆け出した。

 この手の大技の後は、反動でしばらく動けないのがお約束ってもんだろう……!

 

「食らえ――……!」

 

 再びソードスキル《スラント》をお見舞いする。

 クリティカル判定が入ったらしく、敵のHPが若干多めに減少する。

 ……これで何度目だろうか。

 斬っても斬っても大した変化はなく、ボスもただ暴れるばかり。

 こう何度も同じパターンが続くと、本当にダメージが入っているのか不安になってくる。

 

「頑張って下さいご主人様ー! ラス(イチ)ですよ、ラス(イチ)!」

 

 これまでのキャスターの呪術が効いていたらしく、今の一撃で敵の体力は三分の一を切った。

 

 

「――――」

 

 

 呼吸が止まる。

 心臓が大きく鼓動する。

 ――ラスト一本。

 それを聞いて、第一層のボス戦が脳裏を駆け巡った。

 三分の一を切った瞬間、《イルファング・ザ・コボルドロード》は行動パターンが変わった。

 だとしたら、今回もそうだ。

 体力が三分の一を切れば、アステリオスだって何かが変わるに決まっている――!

 

 

「■■■■■■――――!!!」

 

 

 二本目のゲージを空にしたことで、獣の瞳は赤く染まっていく。

 アステリオスのけたたましい絶叫が響き、体の動作の一切が停止した。

 

「っ――――」

 

 一秒にも満たない僅かな時間。

 されど、決して逆らうことはできない。

 ……どうやらこれは、状態異常の一種のようだ。

 強烈な咆哮。それ自体の攻撃力は皆無だが、確実にプレイヤーを硬直させる、ということか。

 

 硬直が解けた時には既に、アステリオスは攻撃に移っていた。

 まもなく“ハクノ”はハンマーによる攻撃を受け、大ダメージを受けるだろう。

 それで自分が死ぬことはない。

 だがもし追撃されれば、その先は――

 

 ――ならば、受ける(・・・)のみ。

 

 剣を盾代わりに構え、攻撃に備える。

 とはいえ、やはりダメージは免れない。

 ここは着地まで見据えて――

 

 

「だーかーらっ! 油断するなって言ってんでしょうが!!」

 

 

「え……っ」

 

 流星。

 そうとしか思えない小さな球体が視界を過ぎる。

 やがて球体は弾け、目の前にエメラルドの防壁が出現した。

 ハンマーによる打撃攻撃は、鉱石の盾によって阻まれる。

 

「さあ、俺に続けヤロウ共――!!」

「っ!?」

 

 一人。

 

「ラストアタック、決めてやるぜ!」

 

 二人。

 

「っし、行くぜゴラアァ――!!」

 

 三人。

 剣士達は次々と自分を追い越していく。

 ……全員、見覚えがある。

 ディアベルが率いる三十六人のメンバーだ。どうやら彼らは、自分の知らない間に《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》を倒したらしい。

 

 

「作戦変更、総攻撃開始! α()隊からソードスキル使っていけ!!」

 

 

 ディアベルの指示で、分かれていたはずのタンク組とダメージディーラー組が入り混じる。

 やがて彼らは新しく列を作り、アステリオス目掛けて突撃する。

 

 

「■■■■■――――!!」

 

 

 ハンマーの第二撃。

 最初の列の六人はそれを見切り、スピード型の剣士は回避、防御型の剣士は各々の武器で防御した。

 当然それだけで勢いは殺しきれず、六人とアステリオスの間に大きく距離が出来る。

 だが、敵がハンマーを振り抜いた瞬間――

 

「今だ、行けェ――!!」

 

 後ろに控えていた六人が、一斉にソードスキルを繰り出した。

 様々な斬、突、打が炸裂し、体力ゲージが一気に削られる。

 彼らの持つ武器は殆どがアーチャーによって作られたもの。つまり、現時点での最強装備――いや、それ以上だろう。ならば、チーム全体の総攻撃力は計り知れない。

 一度に大量のダメージを受けたせいか、アステリオスは僅かなスタン状態に陥った。

 

 瞬間、ピタリと流れが止まる。

 

 ソードスキルを使った六人は列の後ろへ。

 次の六人は構えこそ取るものの、ソードスキルは発動させない。

 

 

「■■■■■――――!!」

 

 

 硬直時間が終了し、再びアステリオスが動き出し――

 

 

「ハッ、待ってましたよっと――!!」

 

 

 再び、各々のソードスキルが炸裂する。

 またもや大量のダメージを受け、アステリオスが仰け反る。

 

 これまで三人だけで戦ってきた自分達と違って、彼らのチームワークはずば抜けていた。

 同タイミングでソードスキルを浴びせ、一度に大量にダメージを受けたことで硬直(スタン)が発動。

 その間に隊が入れ替わり、敵の硬直が切れた瞬間に再びソードスキルを食らわせる。

 

「……凄い」

 

 きっと、全ての隊の攻撃力が均等になるよう、自分を追い越したあの一瞬で入れ替わったのだ。

 ダメージを与えすぎることがなく、少なすぎることもまた無い。

 結果――敵の硬直(スタン)は半永久的に続き、攻撃が全く途絶えない。

 このゲームではどのスキルにも必ず冷却時間(クールタイム)が存在し、同じスキルを連続して放つことは出来ないようになっている。

 これもまたゲーム故の縛りであるわけだが、彼らはこれをチームで戦うことで克服していた。

 

 

「――――■■■■■――――!!!!」

 

 

 しかし、それも無限には続かない。

 何度も喰らえば耐性だって付く。

 追い詰められたアステリオスは突然、無造作にハンマーを振るった。

 その一撃で、攻撃に転じるべく構えていた六人がいとも簡単に弾き飛ばされる。

 

 たった一撃で、戦況はガラリと変わる。

 

 まずは六人。

 追い打ちと言わんばかりにアステリオスは眼を光らせ、息を吸い込む。

 

「まずい――っ!」

 

 ディアベルは舌打ちするが、六人は間に合わない。

 ブレスを喰らえば麻痺は免れない。追撃されれば確実に命はない。

 

 ――だが。

 彼にとっては、想定内。

 

 

「悪いが、それは読めている」

 

 

 放たれた矢は絶妙な速度でアステリオスの脳天を射抜く。

 それがヤツにとっての弱点なのか。

 電撃のブレスは鳴りを潜め、再び大きく仰け反る。

 

 生まれたのは絶好の攻撃チャンス。

 そして――

 

「氷天よ、砕け!」

 

 彼女はそれを見逃さない。

 冷気は氷の矢へ形状変化し、アステリオスを貫いた。

 

 ――敵の体力が底をつく。

 

 討伐された牛の王は、最後に低く唸りを上げ、元のポリゴン片へと還っていく。

 やがて、勝者である剣士達を称えるかのように、“祝い”を意味する英語が目の前に浮かんだ。

 

 

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