Fate / SAO CCC   作:YASUT

21 / 29
注意!
キャス狐に対する自己解釈多めです。


“狂戦士”・協力要請

 

 “てづくりこ~ぼ~”

 

 それが赤いマッチョ……もとい、アーチャーが営む工房の名前である。

 三層に上がり、彼はとあるきっかけで《ベンダーズ・カーペット》なるアイテムを手に入れた。

 職人型プレイヤー愛用の一品で、何かしらの店を開く時はまずこれで自分の土地を確保する。

 

 アーチャーはカーペットを敷き、鍛冶専用の道具を並べて鉄を打つ。

 黒い肌と白い髪はここでは目立つため、人目につく場所での投影は控えている。

 

「何やってんだ、オマエ」

「む――?」

 

 呆れるような声が聞こえ、アーチャーは顔を上げる。

 そこには、

 

 いかにも暴力団関係っぽい男が立っていた。

 

 ――要するに、ランサーである。

 

「…………。

 見ての通り、剣を作っている。調子に乗りすぎたせいか、大繁盛だ」

「物好きな奴だな。んなもん、お得意の手品で一気に作っちまえばいいじゃねえか」

「それではあまりにも風情がない。思えば生前、魔術以外で刃物を作ったことがなかったのでな。こうして鍛冶屋の真似事をしている。

 ……もっとも、それも流石に飽きてきたが」

 

 アーチャーは、はあ、と溜息をつく。

 彼のやっていることは本当にただの真似事だ。

 剣に向けて槌を振り下ろすだけなのだから。

 

「そういう君は何をしている。相変わらず、どこぞの神父にこき使われているのか?」

「まあな」

「む…………そうだったか。それは大変だな」

 

 アーチャーは人事のように呟く。

 彼にマスターはいない。この世界では魔力の心配がいらないため、自由に行動するだけならば主人(マスター)はいない方が都合がいいのだ。

 

「あーあ、遠坂の嬢ちゃんの隣が恋しいねぇ……この際あの坊主でもいいか。とにかく、あのクソ神父から今すぐ解放されたい」

 

 羨ましいねえ、と愚痴るランサー。

 アーチャーはそれを無視して、手元に視線を戻す。

 

「つれないねえ。愚痴の相手する余裕もねえのかよ」

 

 無視。

 黙々とアーチャーは鉄を打つ。

 その様子をランサーは興味深そうに眺める。

 

 そうして打つこと五本目。

 アーチャーは怪訝な顔つきでランサーを睨む。

 

「……いい加減そこを退け。営業妨害だ」

「んなこたねーよ。細かいことに気がつくてめーのことだ。そのへんも上手く考えてやってるだろ?」

「…………」

「おい。なんだその沈黙。

 ……まさかお前、片っ端からやったのか? 来る奴ら全員?」

「当然だろう。私が育った国にはこんな言葉がある。

 ――『お客様は神様です』とな。

 私は贔屓などしない。我が“てづくりこ~ぼ~”は、どんな注文にも答えてみせる」

「そうか、そりゃいい。なら、俺用の槍も作ってくれ」

「断る」

「はぁっ!? 客は神様じゃねーのかよ」

 

 この場合は比喩ではなく、本当の意味で神様である。

 

「自前の槍があるだろう」

「確かにあるけどよ。これもいい機会だ、二刀流を試してみたくてな。槍の」

「しかし断る。あちらが先客だ」

 

 ランサーはアーチャーの視線を追う。

 目に映ったのは、ベンチに座る一組の男女。

 赤いケープの少女と、黒コートの少年。

 二人は雑談しつつ、“てづくりこ~ぼ~”の様子をちらちら伺っている。

 

「? あれは客じゃねーだろ」

「いいや客だ。“てづくりこ~ぼ~”は時間厳守。ここで信用を失うわけにはいかん」

「時間?」

「ああ。馬鹿正直にやっていてはキリがないからな。こちらで時間を指定して、持ち主に取りに来てもらっている……っと、あの二人はこれとこれだったな。

 ほら邪魔だランサー。お前のような輩が彷徨いていては、近寄るに近寄れんだろう」

「んだそりゃ。あれか、フリョウってやつか?」

「間違いではあるまい?」

「いいや違うね。どちらかというと暴走族――いや、マフィアくらいはいってるだろ」

「余計タチが悪い……はぁ」

 

 アーチャーは両手を、誰にも見えない位置で構える。

 ――投影(トレース)開始(オン)

 

「っ――!! てめえ、まさかそれは――」

「釣竿だ。とりあえず、これで時間を潰せ」

「おっ、気が利くね。見直したぜアーチャー」

「言っておくが、タダではないぞ」

「わーってるよ。ほら」

 

 ちゃりん、という音。

 アーチャーの手のひらにコインが数枚落とされる。

 

「……む。確かに」

 

 意外と稼いでたことに驚く赤い人。

 

「そんじゃあなっ」

 

 ランサーは釣竿を担ぎ、去っていった。

 その足取りが軽く見えるのは気のせいではない。

 

「…………」

 

 赤い店主の重い溜息。

 その場凌ぎで釣竿を渡したはいいものの、これといった釣り場はまだ見つかっていない。

 次にランサーが来た時どう追い払うべきか、とアーチャーは思案する。

 

「あの、すいません」

「ああ、すまない。待たせたか」

 

 客は二人。赤いケープの少女、その一歩後ろに黒コートの少年。

 強化された突剣(ウインドフルーレ)片手剣(アニールブレイド)を二人に返す。

 ――否。もはやそれらは名称を変えていた。

 形こそ同じではあるが、突剣は血のように赤く、片手剣は漂白剤(ブリーチ)のように白い。

 

「凄い……重さが変わってない」

「重量が変わらない範囲内で、可能な限り強化してみた。それ以上の性能を求めるなら、君達の筋力値も上げなければならないだろう」

「――――」

 

 黒い少年は信じられない物を見たように、片手剣を色々な角度からチェックしている。

 

「……ありがとうございました」

「ああ。

 ――またのご来店、お待ちしております」

 

 赤ケープの少女は礼儀正しく一礼した後、人ごみに紛れていく。

 黒の少年は、信じられないだの、何者なんだあのNPCだの、ぼやきながらその後を追っていった。

 それを最後まで見送ったあと、再び手元に視線を。

 

「アーチャー」

 

 戻す前に、よく知っている顔が目に映った。

 

 

 ◆

 

 

「――――あ」

 

 見つけた。

 商店街の一角。NPC経営の武器屋・防具屋に紛れて、彼は店を開いていた。

 名前は……てづくりこ~ぼ~、というらしい。

 今は黒い少年と赤い少女……キリトとアスナだろう……に剣を渡している。

 彼らもあの鍛冶屋を利用していたのか。

 

 

「……やっぱり、アニールブレイドより滅茶苦茶強くなってる。ベータテストの時とは大分変わってるのか……? それとも……」

 

 

 ブツブツ呟きながら、二人は街に戻る。

 どのような理由かは知らないが、幸いにも『てづくりこ~ぼ~』はガラガラだ。

 頃合を見て声をかける。

 

「アーチャー」

 

 何気ない一言。

 だというのに、彼は。

 

「――――」

 

 普段より少しばかり目を開いて、驚いているようだった。

 それは――まるで、懐かしいものを見たかのように。

 

「……アーチャー?」

「……ああ、すまない。久しいな。確か……二層のボス戦以来か」

「? 何かあったのか?」

「いや、特には。ただ――そうだな。懐かしかっただけだ」

「懐かしい? 

 ……よく分からないんだけど」

「気にするな。大したことではない。

 それで、私に何の用だ? 武器の強化なら予約をとってもらう必要があるが」

「それはまたいつか。今回は別件だ。……悪いけど、時間あるかな。ここはちょっと……」

 

 辺りをざっと見渡す。

 ここは装備関連の店が集中している。

 そこまで混んでいるわけではないが、やはり人は多い。おいそれと話していいのか悩みどころだ。

 

「――そうか。問題はない。この時間は既に空けてある」

「助かる」

 

 アーチャーと共に人気のない場所へ移動する。

 ……といっても、ここは一万人が閉じ込められたゲームの世界。

 人気のない場所なんてそうそうあるはずもなく、あったとしても些細なきっかけで集まってくるかもしれない。

 

 だから作った。彼女達が。

 

 狂戦士(バーサーカー)に専用スキル《狂化》があるように、魔術師(キャスター)には《陣地作成》がある。

 キャスターのそれは正直

 

『お前それでもキャスターか!』

 

 と問い詰めたいくらい低レベルなのだが、それでも一応、こうして役に立つのだ。

 ……まあ。

 人払いだけが目的なら、遠坂一人でも簡単に出来るらしいが。

 

「魔術による人払い……いや、陣地作成によるものか。

 ……しかし、改めて考えると酷いものだな」

「いきなり駄目出しですか、アチャ男さん」

「君は一応キャスターだろう? 工房を作って引き篭もり、権謀術数の限りを尽くすのが本来の戦い方だ」

「失礼ですね! 私だって時間をかければ、もう少しまともな物は作れますっ!」

「工房の話をしているのではない。私が言っているのは、君の扱われ方のことだ」

「は? どういう意味ですか、それ」

「何故、たかが人間に仕えている?

 玉藻前にとって工房とは戦う場所ではなく隠れる場所……自分だけを守るための場所だ。

 君は生前、姿を隠すために工房を作った。だがそれも長くは続かず、やがて陰陽師に暴かれ、人里から逃亡した」

「……まぁ、そうですね」

 

 キャスターは無表情だ。

 喜怒哀楽、感情表現豊かな彼女が、だ。

 ……珍しいこともあるものだ。

 

「……何が言いたいのですか、貴方は」

「らしくないではないか? 君のような臆病者は戦場には出向かず、自分の工房で震えつつ引き篭っているべきだ。

 何故キャスターとして振舞おうとしない? もっと言ってしまえば、何故岸波白野から逃げようとしない?

 私にはそれが不思議でならん。君の主人は……少々違うようだが、在り方は“人間”そのものだぞ」

 

「――――アーチャー」

 

「! ご主人様……」

 

 ――黙ってくれ、と。

 柄にもなくそんなことを言いかけた。

 

 ……アーチャーから目が離せない。

 

 頭の中はしっかり冴えている。

 でも、目だけが別物になった感じ。

 

 ……そうか。

 

 ――――岸波白野は今、アーチャーを睨んでいる。

 

「む、怒ったか。まあ、当然といえば当然かもしれないな。

 キャスターがお前から解放されるには、逃げるよりも殺す方が手っ取り早い。

 主人であるお前を殺せば、彼女は自由になれる。己の生死がかかった話を目の前でされているのだからな」

「違う。そうじゃなくて――」

「違うものか。マスターならば、サーヴァントの素性と過去は知っているだろう。

 玉藻前は化物だった。いや、正しくは“人間ではなかった”。

 それだけで一度全てを失ったのだ。そんな存在(もの)が、我々人間を恨んでいないとでも?」

「――いや、それは」

 

 違うとは言えなかった。

 自分には、それを否定する資格がないからだ。

 

「玉藻前の伝説は一部では有名だからな。私もそれなりに心得ている。明らかに東洋人であり、かつマスターであるお前なら尚更だろう。

 

 ――お前は彼女に無理をさせていると、これまで一度も考えたことはなかったのか?」

 

「っ――」

 

 アーチャーの瞳に初めて力が奔った。

 鷹の眼力に思わず怯む。

 ……無理をさせているか、だって?

 

 ……ある。あるに決まってるだろう。

 何度も考えた。後悔もした。

 キャスター――玉藻前は本来、戦う人間ではない。

 このアーチャーやバーサーカーとは根本からして違う人間なのだから。

 彼女にとっては、武器を取るという行為自体が間違っている。

 

「――――確かに、その通りですね」

「キャスター……」

 

 アーチャーの言葉に頷くキャスター。

 やはり彼女も、心の奥ではそう思ってて――

 

 

「あーあ。ご主人様、いい加減私を襲ってくれませんかねー」

 

 

「………………え?」

 

 襲うって……何?

 アーチャーに視線で尋ねる。

 

「――――」

 

 ……駄目だ、完全に呆けている。

 

「これまで散々アプローチして来ましたけど、いい加減ネタ切れなんですよねー。いえ、アーチャーさんの言った通り引き篭もり(ヒッキー)でしたから、私。

 恥ずかしながらベッドインした後ならともかく、そこに至るまでの知識が乏しくてですね。ご主人様から手を挙げて下されば、あとは如何様にも出来るんですけども」

「――待て、待ってほしいキャスター。それ、何の話?」

「何って決まってるじゃないですかー。夜這いですよ、夜這い」

「本当に何の話!?」

「その反応……やはり、気づいていらっしゃらなかったようですね。寝巻きをわざと崩したり、腕を絡めたり、顔を急接近させてみたり……とまあ、色々やってたんですよ?

 ですが、そろそろ無理が来てるのです。ネタ切れもですけど、それ以上にこっちの我慢が効かないのです。もうこうなったら、いっそ直接襲うしか――」

「それは本当に勘弁してくれ」

「ええそうですそれしかありません。もとよりご主人様は奥手な殿方。小手先のアプローチが通じるはずもなかったのです。ここはやはり一肌脱ぐしかありません物理的に」

「…………」

 

 駄目だコイツ。早く何とかしないと。

 

「……そうか。分かった、もう止めない」

「マジですか!?」

「ああ。――さて、と」

 

 魔術回路を起動する。

 全身の魔力をただ一点、右手の甲に集中させる。

 残されたただ一画の令呪が、淡く光を放つ。

 

「――聖杯(ムーンセル)の誓約に従い、第百二十八のマスターが命じる」

「ウソウソ嘘です! ごめんなさい口が滑りましたっ!」

「分かればよろしい」

 

 右手を下ろした瞬間、令呪の光が薄まっていく。

 ……よかった。こんなことで令呪を使わなくて。

 

「やれやれ。……主従仲がいいのは微笑ましいがね」

「……アーチャー」

「勘違いしないで貰いたいのだが、私は君達が一緒にいること自体は否定していない。願わくば、今のようなやり取りが続いてほしいとも思う」

「私は困ります。いい加減そろそろ次のステップに――」

「君は黙ってなさい」

「はい」

「…………こほん。まぁつまり、私が言いたいのはだな……その、なんだ」

「……」

 

 どうも歯切れが悪い。

 こちらもどうしていいか分からない。キャスターのペースにすっかり乱されてしまった。

 ……いつものように、乱されてしまった。

 

「……全く、素直じゃないですね」

 

 アーチャーが何かを言う前に、キャスター自身が答える。

 

「アーチャーさん。やっぱり貴方はヒトですね」

「……それは、どういう意味かね?」

「そのままの意味ですよ。狭量で、浅はかで、愚か。貴方の考えは、早計にも程があります」

「……む」

 

 言葉こそ辛辣だが、その音はとても穏やかだった。

 ……アーチャーの言ったことはあながち間違いでもない。

 キャスターはかつて人に憧れ、人になりたくて転生し、そして奪われた。

 ただ、その末に何を想ったのか。

 

 人を恨んだ、とは口にしない。

 彼女は、自分にとっていい事しか話さなかった。

 出来るだけ軽く。岸波白野が気に病まないように。

 事実、本人にとっては軽いことなのだろう。それはもう過ぎたこととして割り切っている。

 だが――その段階に至るまで、彼女はどれほど苦しんだのか。

 

 そう考えると、敢えて傷に触れようとするアーチャーに、憤らずにはいられなかった。

 

「ねえ。いい加減終わったかしら?」

「おや凛さん。終わるも何も、始まってすらいないですよ?」

「貴女には聞いてないわよ。岸波くん、いい?」

「……ああ」

「そ。じゃあ、貴方は頭冷やしてなさい。私が話付けるから。

 ――アーチャー。話ってのは他でもないわ」

 

 そう切り出して、遠坂はアーチャーと取引を始めた。

 元々は万が一に備えて遠坂は待機、実際に相手するのは自分とキャスターだったのだけど。

 ……あの程度の煽りに乗せられるなんて。まだまだ修行が足りない。

 

「はぁ……」

「お疲れですか? 冷えピタシート要ります?」

「いや、いいよ」

 

 

「……ありがとうございます、ご主人様(マスター)

 

 

 




・補足
アーチャーは要するに「無理してるんだったら戦わなくていいよ」って言ってるだけです。
“てづくりこ~ぼ~”というのは、とあるゲームの店の名前です。店主の声がアーチャーそっくりです。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。