Fate / SAO CCC   作:YASUT

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“狂戦士”・バーサスⅢ

 

「――ここは我が国、神の国。水は潤い、実り豊かな中津国(なかつくに)――」

 

 キャスターは真名を唄う。

 鈴の音のように静かに、けれど確かに。

 

 彼女の声を背景に、バーサーカーに立ち向かう。

 

「――国がうつほに水注ぎ、高天(たかま)巡り、黄泉巡り、巡り巡りて水天日光。我が照らす――」

 

 剣を握る手が軽い。

 体が軽い。

 普段の自分とは雲泥の差。

 スローになった世界で、自分だけが加速しているみたいだ。

 

「――豊葦原瑞穂国(とよあしはらみずほのくに)。八尋の輪に輪をかけて、これぞ九重(ここのえ)(あま)()らす――!」

 

 ――吸い込まれそうな黒い空。

 ……幻のように揺らぐ赤い鳥居。

 

 呪符に囲まれた狭い空間だが、ここでは常世の理は遮断される。

 あらゆる事象の原則たる等価交換。

 それを完全に無視した神秘の世界。

 

 

「――水天日光天照八野鎮石」

 

 

 これがキャスターの宝具。

 対象に無限の魔力・活力を供給する結界。

 

 

「――――――――は」

 

 

 瞬間。

 岸波白野の肉体は、別物のように変わる。

 

 感覚はより鋭敏に。肉体はより強靭に。

 魔力は潤い、魂が活性化する。

 

 

「■■■■■――――!!」

「チッ……!」

 

 

 バーサーカーの突きが干将を弾き飛ばす。

 次の攻撃に備え、アーチャーは再び剣を投影――

 

「何……!」

 

 ――する前に。

 岸波白野(じぶん)の体が、バーサーカーの前まで接近していた。

 

「貴様、何をして――」

 

 アーチャーの声が途切れる。

 それよりも速く、バーサーカーの強撃が襲い来る。

 

「――――っ!」

 

 ――なんだ、これは。

 体が羽のように軽い――軽すぎる。

 これほどの身体能力は経験がない。

 どうやら、加減を間違えて突っ込みすぎたようだ。

 

「――けど、これなら」

 

 焦る必要はない。視力も同様に強化されている。

 岸波白野の目は、既にバーサーカーを捉えている。

 

 ――コードキャスト実行。

 

 gain_str(16);

 

 瞬時に魔力を通し、プレイヤー《Hakuno(ハクノ)》の能力値を変化。

 剣を持つ右腕にノイズが奔る。

 

「――――う、ヴ」

 

 唐突に吐き気が込み上げてきた。

 失敗した。多すぎた。扱いきれない。

 ――構うものか。

 路頭の瓦礫を踏み砕き、その狂剣を弾き飛ばす……!

 

 

「――――――ッ!!!」

 

 

 方天画戟と片手剣が衝突する。

 視界が揺れる。激痛で腕が焼ける。

 これ以上の能力はもう無理だと、この体(アバター)が悲鳴を上げている。

 

 ……それがどうした。所詮は()腕だ。

 だったらこの程度の無茶、いくらでもやり遂げてやる――!

 

 

「っ――、こ――のぉ!!」

 

 

 硝子の割れる音と共に、バーサーカーの武器を弾き退けた。

 ――ここだ。

 タイミングは今、ここしかない。

 

「遠坂!」

「言われなくても!」

 

 遠坂が後方から宝石を放り込む。

 大した魔術ではない。

 構造は至ってシンプルだが、桁外れな密度の小爆発。

 自分を巻き込むことなく、バーサーカーにだけ当たる絶妙なコントロール。

 その爆風を受けて、バーサーカーはようやく体勢を崩した。

 

「ハッ……!」

 

 その隙を、双剣を投影し直したアーチャーが突く。

 バーサーカーは体勢を崩しながらもそれを防いだ。

 だが、アーチャーの攻制は覆らない。

 今までの仕返しと言わんばかりに、今度はアーチャーが怒涛の連続攻撃に移る。

 純粋な力比べでは圧倒的にバーサーカーが上。コードキャストでサポートしてもまだ上だ。

 

 けれど今は違う。

 アーチャーは双剣を巧みに操り、バーサーカーを果敢に攻め立てる。

 

 これがキャスターの宝具・水天日光天照八野鎮石。

 サーヴァントの動力は魔力だ。どれほど強力な能力を有していても、リソースたる魔力がなくては発動すらできない。

 キャスターの力は無限の魔力供給。

 勿論、それでサーヴァントが強くなることはない。

 あくまで燃料が無限なだけで、最大出力までは変わらないからだ。

 

 ――要するにキャスターの宝具は、百パーセントの力を常に(・・)発揮させる能力。

 

 アーチャーの場合、投影魔術に制限がなくなった。

 大量に魔力を使い、より精巧に剣を作れるようになった。

 

 元の世界ならきっとこうはいかない。得物のランクが上がったところで、本人の能力が足りていないと宝具(たから)の持ち腐れだ。

 しかしここはゲームの世界。良質な武器には、それに見合っただけの付随効果がある。

 強力な武器を装備すれば、単純にそれだけ強くなれる世界なのだ。

 

「抜かせてもらう……!」

 

 大振りの二連撃がバーサーカーにヒットした。

 強化されたアーチャーの腕力に押され、バーサーカーは距離をとった。

 ――まだ終わらない。

 こちらにはまだ、四十人のプレイヤーが残っている。

 

 

「行くぞ、アスナ!」

「うん!」

 

 

 キリト、アスナを先頭に、待機していた全員が突撃する。

 彼らは魔術師(ウィザード)ではないが、宝具の恩恵は少なからず受けている。

 魂と生命力の活性化。それは即ち、最速の瞬発力。

 ゲームとしての処理は完全(オール)クリティカル判定と、スキルの冷却時間(クールタイム)消滅。

 自軍メンバーが多ければ多いほど、彼女の宝具はバランスブレイカーとなる。

 

「■■■■■■――――!」

 

 ソードスキルを連続で受け、バーサーカーは苦しげに叫ぶ。

 数の力。MMO最大の武器にして、強力なボスに対抗できる唯一の手段。

 いかに優れた武将であっても、個人である限り、戦争そのものには敵わない。

 

「……さてと」

 

 自分も参加しなければ。

 プレイヤー一人一人をコードキャストで強化し、ステータスを底上げする。

 そのためには、礼装をもっている自分が――

 

「…………あれ」

 

 礼装を取り出そうと思ったが、右腕が動かない。

 バーサーカーの時に酷使したせいか。

 そういえば、弾きのける直前に硝子の音を聞いたような……

 

「ご主人様、ご無事ですか!?」

 

 そうこうしていると、キャスターが慌てて駆け寄ってきた。

 ……よかった。まだ宝具は解けていないようだ。

 

「……動かないのですか?」

「……ああ」

 

 頷きで答える。

 だらんと垂れている腕を見て察したようだ。

 ……しかし、これは参った。

 右腕――というより、右肩から下が一切動かない。

 このゲームでは、体の一部が破損すればステータス異常として表示されると聞いたが……それらしいアイコンも映っていない。

 

「あーあ、随分派手に壊しちゃったわね」

「遠坂……?」

「ちょっとごめんね」

 

 遠坂が自分の右腕をグッと握った。

 だが何も感じない。

 強いて言うなら、右肩辺りがチクチクする程度か。

 

「結構な力で握ってるんだけど……どう? 何も感じない?」

「……ああ。これ、どうなってるんだ?」

「やっぱりか。どうもこうもないわ、派手に壊れちゃってる。

 ……まぁ、細かい話は後にしましょう。とりあえず、今は礼装出して」

「……分かった」

 

 左手でメニュー画面を開き、ストレージから文字化けしたアイテムを取り出す。

 

「確かに受け取ったわ。貴方はゆっくり休んでなさい。くれぐれも魔力は使わないこと。キャスター?」

「言われるまでもありません。ささ、ご主人様は私と後ろへ。二人で高みの見物と参りましょう」

「あ、待てキャスター」

 

 静止の声を聞かず、キャスターは右腕を引っ張る。

 右腕の感覚がないので振り払えない。

 

「キャスター……?」

「ご主人様、急いで。この私では、今の貴方を庇いきれません」

「庇う?」

「……あれを」

 

 手を引かれながら振り返る。

 一騎当千の武将と、それに群がるプレイヤー達。

 本来ならバーサーカーが全て蹴散らすべきなのだろうが、プレイヤーは全員キャスターの宝具とコードキャストで強化されている。

 統制のとれた彼らならば、バーサーカーとも互角に戦うことができる。

 

 ――バーサーカーが、宝具を使わなければ。

 

 

「■■■■■■■!!!」

 

 

「っ――!」

 

 全身の皮膚が騒めく。

 長い間忘れていた恐怖に、思わず立ち止まる。

 

「ご主人様……! いえ、これは――」

 

 キャスターも足を止め、驚きの声を上げる。

 あれほど暴れ狂っていたバーサーカーが動きを止めた。

 プレイヤー達はこれをチャンスと見たのか、各々ソードスキルで斬りかかる。

 攻撃が当たる度、微かだがバーサーカーの体力が減少する。

 

 ……バーサーカーはそれを物ともしていない。

 HPゲージが減ろうとお構いなし。

 直立不動のまま武器を構え直す。

 

 方天画戟は計六つの攻撃手段を備えている。

 あれはその一つ、『射撃』

 宝具は戟刀の型を崩し、弓へと姿を変えた。

 

「申し訳ありません、ご主人様(マスター)!」

 

 ぐわん、と強烈な浮遊感。

 バーサーカーを中心とした戦闘が、遠い出来事のように遠ざかっていく。

 

「キャスター!?」

「ここは危険です! 暫く辛抱を!」

 

 抱き抱えられているのか、彼女の吐息が直に浴びせられる。

 ――何時になく切迫した声。

 キャスターに運ばれながら、離れてしまったバーサーカー達を見る。

 動きが変わった(バーサーカー)を警戒したのか、プレイヤー達は全員攻撃を止めていた。

 やがて、バーサーカーの手の中から光が生まれる。

 ……呂布奉先に魔術の心得はない。

 つまりあれは――

 

「宝具……! キャスター、離し――」

 

 離すようキャスターに呼び掛ける。

 だが遅かった。

 バーサーカーは弓を構えたまま――――跳躍(・・)した。

 

「なっ……!」

 

 長身のアーチャーすら超える巨体が消える。

 そしてどこまでも上へ、高く、高く、高く。

 サーヴァントであることを考えれば当然の身体能力。

 ……そんなこと、彼らが知るはずもない。

 

「――――――――」

 

 バーサーカーは無言のまま、空中で矢を番える。

 狂戦士とは思えないほど静かに。

 

 矢。

 そう評したが、あれはどう見ても矢ではない。

 見た目は槍。

 破壊力は大砲――それ以上だ。

 

 ……なんてことだ。

 狂化し、ゲームの存在(ボス)になった影響で彼の武術は消えたと思っていた。

 

 けれど違った。

 たとえ万夫不当の武術を損なわれても。

 宝具のキーたる弓術だけは、損なわれてなどいなかった。

 

 軍神五兵(ゴッドフォース)の破壊力は月の聖杯戦争で経験済みだ。

 それが今、この状況で、空中から撃たれたらどうなるか。

 誰が狙われるかは関係ない。

 対象に当たろうと外れようと、ヤツの砲弾は(ココ)を粉砕する。

 

「――っ」

 

 嫌な映像が頭を過ぎる。

 

 ――崩落する足場。

 ――堕ちていくプレイヤー。

 ――助けを求める声。

 

 それだけは駄目だ。

 

 サーヴァント・狂戦士(バーサーカー)

 本来ならこのゲームに存在しない異世界の魔物。

 

 あれは自分達魔術師(ウィザード)が解決すべき問題だ。

 一般人である彼らを巻き込むわけにはいかない。

 ましてや、死なせるなど以ての外。

 

「っ……、あれは――」

 

 跳躍し、はるか上空で弓を構えるバーサーカー。

 プレイヤー達はそのデタラメさに呆然としている。

 

 しかしその中に一つだけ、俊敏に動く影があった。

 赤い外套を纏う長身のそれは、紛れもなくアーチャー。

 

 アーチャーはバーサーカーの位置を確認しながら移動する。

 ……いや、違う。

 彼が確認しているのは弓の向き。

 あの矢は直線に進む――そう仮定し、着弾地点がどこか見極めようとしている。

 どうするつもりか知らないが、あのサーヴァントは宝具を受け止める気らしい。

 なら、今の自分がすべきことは……

 

「キャスター、止まってくれ!」

「ご主人様!?」

 

 急ブレーキをかけてキャスターが止まる。

 

「っ――!」

 

 余程のスピードで走っていたのか、急停止の反動が全身を襲う。

 流石だ。たとえ紙耐久でも、敏捷Bはホンモノらしい。

 

「あの、ご主人様……?」

「キャスター、あれを止めるぞ」

「なっ――止めるって、いくら何でも」

「危険なのは分かってる。だからこそ止める。今は時間がない、速く」

 

 ゲームの世界故の恩恵か、バーサーカーの落下速度は若干遅い。

 今からならギリギリ間に合う。

 

「――――はぁ。承りました。ご主人様(マスター)、指示を」

「直ちにUターン。アーチャーをサポートする」

 

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