Fate / SAO CCC   作:YASUT

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ネタが切れたらとりあえず言峰。


“言峰綺礼”・幕間

 

 第三層の街の中央には、巨大な転移門がある。

 いや、厳密に言うなら転移()というのは間違いだ。階層を跨いでワープ出来るから、門としての役割を果たしているから便宜上そう呼ばれているだけであり、外見的には転移()か、もしくは転移石版(・・)と呼ぶほうが正しい。

 ゲーム“ソードアート・オンライン”の三層のテーマは“自然”のようで、この街から一歩外に出れば何千、あるいは何万の木々と対面できる。プレイヤー達はこの街を拠点にレベルを積み上げ、鬱蒼と生い茂る森を越え、次の村へと拠点を移す。

 しかし、次の村までの間には巨大な大河が流れており、向こう側へ行くには一つしかない(・・・・・・)橋を渡る必要がある。

 それとは別に“新しく橋を建造する”、自身を高レベルまで育て上げ“大ジャンプで一気に渡る”等の手段もあるにはあるのだが、その域に達するまではかなりの時間を要するだろう。

 よって今は正攻法――橋を守護する狂戦士(バーサーカー)を倒す以外に手段はない。

 

 

 だが言峰綺礼という男は、彼らが負けることは微塵も心配していなかった。それどころか、どうやってかの猛将・呂布奉先を退けるか気になっているほどだ。

 岸波白野と遠坂凛。月の聖杯戦争にて監督役を、月の裏側では購買店員を勤めた彼は、この二人を他人としては異様なほど――気色悪いほどに熟知している。

 弱小マスターと弱小サーヴァント。そんな二人が紆余曲折あって頂点に立ったのだ。大物喰らい(ジャイアントキリング)は彼らの十八番だと断言していい。

 言峰綺礼が気にしているのはもっと別のことだ。結果はどうあれ、あの三人は確実に生還する。攻略組と呼ばれている集団が壊滅しようと、彼らはバーサーカーから逃げ延びるだろう。

 だから、彼が今から行うことを目撃されるわけにはいかないのである。

 

「――――」

 

 言峰は転移門の前に立ち、ざっと周囲を確認する。

 現在、高レベルプレイヤーの多くはバーサーカー討伐のため出払っている。

 人は疎ら。よほど神父服が珍しいのか、興味深そうに言峰を眺めている者もいるが、その程度の視線ならば問題は無い。

 

「……ふむ。では、行くか」

 

 石版状の転移門に触れた瞬間、青白い四角形のメニューと、その中に転移先の街の名前が表示される。

 一つ目は一層《はじまりの街》。二つ目は二層《ウルバス》。どちらもその階層で一番最初に訪れる街の名前だ。

 ――通常のプレイヤーならば、これだけだ。ここが三層であり、まだ四層が解放されていない以上、現在の行き先は二つしかないはずだ。

 言峰は右手で大きくスライドし、項目欄を流す。そして、その最後を、慣れた手つきでクリックした。

 必要以上に警戒したのはこのためだ。一応メニュー画面は本人しか視認できないよう設定されているが、魔術師(ウィザード)やサーヴァントの場合はその限りではない。彼らに手にかかれば、視界をジャックすることも不可能ではないからだ。

 しばらくして、言峰の体が青い球体に包まれる。転移する際に起きるエフェクトだ。これが発生してしまえば、もう視界を乗っ取られる心配はない。乗っ取られたところで映るのは一面青の背景なのだから。

 

 

 ◆

 

 

 言峰が次に目を開けるとそこは、完全なる別世界だった。

 先程までの青空とは裏腹に、こちらには何もない。空には太陽どころか雲すら無く、在るのは無感情な闇だけだ。現実世界なら宝石箱のような星々が見えて然るべきかもしれないが、生憎とここには星一つ無い。

 それどころか、この手のゲームには必ずある武器屋、道具屋、宿屋――明確な足場すら存在しない。

 遠くから第三者の視点で眺めてみれば、言峰綺礼が浮いている、と感じるだろう。

 ここにはあるのは、たった二つの物体(オブジェクト)のみ。

 言峰の真後ろには大きな石版がある。ここに来る前、三層でも見た転移門だ。

 そしてもう一つ。深い群青色をしたコンソールが、その対極に位置していた。

 コンソールの上には透明なスクリーンがあり、おそらくは何らかの規則性がある、無数の英数字が表示されている。

 

 言峰はコンソールの前まで歩み寄り、備え付けてあるキーボードを操作する。

 スクリーンに投影されていた文字の羅列は消え去り、また別の画面が表示された。

 左側には英数字の羅列。

 しかし先ほどまでとは違い、一番上には“A”“k”“i”――“アキ”と読める文字がある。

 右側には、“アキ”と思わしき人間の全身。腰には短剣、上半身は皮、下半身は鎧、というチグハグな装備。

 ……そう。これはこのゲーム内に確かにいる、“アキ”というプレイヤーのアバターデータだ。

 

「では、再開するとしよう。確か以前は――ここからだったか」

 

 以前ここを閲覧した時、言峰はプレイヤーに一つ一つ印を付けた。

 その基準は“生きていること”。

 HPゲージを一度も零にせず、脱出という目的を果たすため奮起する者。

 現実から目を背けて蹲る者。誰よりも現実を直視(・・)し、生還を諦め、亡者のように生きる者。

 一言にプレイヤーといっても色々だが、彼らは皆生きている。言峰はそんなプレイヤー達に印を付け――度外視(・・・)すると決めた。

 彼らを愉悦(オモチャ)にするのはいい。それはただの趣味、嫌がらせの範囲のことでしかない。心底嫌われるのは目に見えているが、そんなことには慣れている。寧ろ、嫌われるくらいの方が刺激があって退屈も紛れるというものだ。

 だが――決して、傀儡(オモチャ)にすることだけは許されない。言峰はそう決めていた。

 理由は至極単純。彼らに――岸波白野と遠坂凛に敵視されるからだ。

 生者(プレイヤー)を意のままに操る。そんなことをすれば遠くない未来、二人が解放のために攻めてくるだろう。ランサー一騎では些か心許ない。

 だが、これが死人ならどうだろう。いや、正確には死人ですらない。

 印を付けていないプレイヤーは既にこの世から亡くなっており、残っているのは“そういうプレイヤーが存在した”という記録のみ。

 外見、装備、レベルこそ全く同じだが、彼らには生物に必要不可欠な“意識”がない。即ちそれは生物ではなく、コントローラーを駆らなければ何もしないただの分身(アバター)だ。言峰綺礼とはまた違う、SAO製のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)と言ってもいい。

 言峰の目的はそれらを従えること。しかし、記録を元にプレイヤーを再現するなど、通常なら不可能だ。

 ……そう、通常ならば(・・・・・)

 

 ――ここは、《ホロウ・エリア》と呼ばれる場所。全てが揃い、全てが偽物の虚ろなる庭。

 

 一層の《はじまりの街》を出発し、百層攻略を目指す世界を“表”のソードアート・オンラインとするなら、《ホロウ・エリア》は“裏”のソードアート・オンライン。

 ここには異分子を除く全てのデータが記録されており、存在(・・)している。

 平たく言ってしまえば、もう一人の自分が暮らすもう一つの世界、というわけだ。あらゆる数値をコピーした、偽物のプレイヤーしか存在しない世界。死者と生者の区別すらなく、前者は死した瞬間を保存し、後者は現在のデータを更新し続け、目的もなく未実装のダンジョンを闊歩する。

 この世界にいる死んだプレイヤーの偽物(アバター)を従えることが、言峰綺礼の一先ずの目的だ。

 生きている者では意味がない。何故なら、この《ホロウ・エリア》の外へ連れ出せない。

 このゲームにドッペルゲンガーは許されない。同じID(プレイヤー)が、表世界に二つ在る事は許されない。

 

 言峰はキーボードを操作し、画面に文字を打ち込む。画面が一転し、広大なフィールドマップが表示された。

 

「――――」

 

 それを見て、言峰は静かにほくそ笑んだ。

 ここ、《ホロウ・エリア》は実験場も兼ねている。

 クエスト、ボス、スキル。

 このゲームを構築する全ての要素はまず、ここに保存されているデータを使ってシミュレーションされる。

 例えばエクストラスキル・《二刀流》。

 一度全ての偽物(プレイヤー)に覚えさせ、一瞬でマスターさせた後、実験を開始。その結果から、最も使いこなすことが出来ると判断されたプレイヤーに譲渡される。

 他二つも同様。

 クエストならば、その階層の攻略推奨レベルの偽物(プレイヤー)データを使って試行。結果によってそのクエストが高難易度か低難易度かに分別された後、ようやく実装される。

 ボスならば適正レベルのデータを用いて実験が繰り返され、“撃破可能”とされるまで弱体化させられた後、“ソードアートオンライン”に召喚される。

 つまり、現在確認されている全てのサーヴァント――キャスター、アーチャー、ランサー、バーサーカーの四騎は、初めは全員ここにいたということだ。

 そしてそれは、残る三騎も《ホロウ・エリア》にいることを示している。

 

「ランサー」

「――あいよ。ここにいるぜ」

 

 言峰が呼び掛けると同時、背後に青い槍兵が姿を現す。

 手には赤い魔槍・ゲイボルグ。口角は吊り上がり、視線は獣のように鋭い。いつでも戦闘に入れるという(てい)だ。

 胸にあるのは期待と興奮。強者と存分に戦えるかもしれないという、戦士故の喜び。

 

「こいつは――期待しろ、と受け取っていいんだな?」

「目星は付けた。後は接触あるのみ。

 ――さて、念願の《ホロウ・エリア》初探索だ。もし仮に、万が一、他のサーヴァントと遭遇するようなことがあれば――その時は、好きにするがいい」

「……気味悪いな。性悪のてめえにしては、ちぃとばかし気前が良すぎるんじゃねーか?」

「勘違いしてもらっては困る。お前はただの護衛だ。仕事を放棄すれば、もう一度その槍を喰らうことになるぞ?」

「チッ……、言われずとも分かってるさ。ま、こっちもようやく希望が見えたんだ。多少のパシリくらいは我慢してやる」

 

 言峰はキーボードを操作し、転移先を選択する。最後に中央のボタンを押した瞬間、言峰とランサーが青い光に包まれる。

 光は球体となり、二人を覆い尽くす。

 完全に見えなくなるその瞬間まで、彼らは薄く笑っていた。

 

 

 

 




ホロウエリアとは、とあるゲーム――というか、“SAO HF”に登場するフィールドです。
クリアしたのは結構前なので所々うろ覚え。
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