ああいう元気なタイプは見てて楽しい。
ディアベルからの質問を終え、自分達はギルド《ドラゴンナイツ》をあとにした。
「――ここまでだな。
遠坂凛。これは君に返しておこう」
アーチャーは懐から一つのペンダントを取り出し、遠坂に手渡した。
中心には高価なルビーの宝石が嵌められている。
バーサーカーと戦う直前、遠坂がアーチャーに渡した物だ。
「律儀なのね。てっきり捨てられると思ってたんだけど。で、これを返すってことは、やっぱり」
「ああ。申し訳ないが、ここで契約は解消させてもらう。私は私で、やるべきことがいくつかあるのでな」
「……そう。ここで逃すのは惜しいけど、令呪がないからどうしようもないか。
それじゃあアーチャー、お疲れ様。貴方がいてくれて本当に助かったわ。また近いうちに会いましょう」
その言葉を聞き届け、アーチャーは霊体化して去っていった。
……結局、彼についても謎が深まっただけだ。
剣を作る能力自体は以前から知っていた。それが“投影”と呼ばれる魔術であることも。
投影魔術は、魔力を使って物体を複製する魔術だ。複製するのだから、その物体についてある程度知識が必要になってくる。
つまり宝具を投影するのなら、その宝具について並以上の知識がないといけない。
――“エクスカリバー”
聖剣というカテゴリで最も代表的な剣。
劣化した投影品とはいえ、あれほどの剣ならばバーサーカーを倒せたことは分かる。
問題は、何故あの男が複製できるのか、だ。
投影できるということは、最低でも一度は目にしたことがあるということ。
だが肝心の聖剣は、ベディヴィエール卿によって湖の乙女に返還された筈なのだ。
「……結局、何者だったんだろう」
きっと彼はまた、これまで通りの日常に戻るのだろう。
各地を転々とし、プレイヤー全体の強化を図る。ゲームの死者を減らす最も確実な手段。
だが、このゲームのプレイヤーは総勢一万。この人数を考えれば、こうしている間にもどこかで誰かが亡くなっているかもしれない。
彼の敵はボスでもサーヴァントでもなく、時間だ。助けを求める人達を、最速かつ確実に救う。
助ける対象が親しい人間だけ――一部の人間だけだったら、また違っていただろう。
しかし、アーチャーは全員を助けようとしている。
ならば、止まることは許されない。脱出する方法が“ゲームクリア”である限り、彼は無限地獄のように戦い続けるのだろう。
手伝いたい、と思った。
――それは無理だ、とも思った。
ボランティアと考えれば自分にもある程度は手伝える。
けれど、あの男はとうにその域を超えているのだ。
親しい者のためならば、岸波白野はどこまでも戦える。
非力であることは百も承知。
その上で、どんな要求にも答えて見せよう。どんな無茶もやり遂げても見せよう。
必要とあらば、自分の命さえチップにする覚悟がある。
だが――流石に顔も見たことない他人のために、そこまで本気にはなれない。
「……はぁ」
どうしようもない。アーチャーにはそう結論付けて、なんとなく空を見上げた。
切り替えよう。
アーチャーはこのキャスターとは違って、正しくサーヴァントだ。真名を探ろうと追跡しても、容易には暴けない。
考察するだけならば幾らでも可能だが――双剣“干将・莫耶”に始まり、盾の宝具“
何故、どうやってこれらが結びついたのか、自分には全く分からない。考えたところで徒労に終わるのは目に見えている。
「それにしても……魔術、か」
ディアベルをリーダーとするギルド《ドラゴンナイツ》。あそこでの話し合いで、気になることがまた一つ増えた。
――ヒースクリフ。
キリトによるとそのプレイヤーは、《魔術》のスキルを使う中年の男性だったという。
外見は小説にも登場する典型的な“魔法使い”だったらしく、分かり易い目印として赤いローブ着ていたらしい。
これはあくまでも推測だが――その男はきっと、茅場昌彦だ。
以前自分達は茅場昌彦と対面し、このゲームにコードキャストとは別物の、《魔術》スキルの追加を要求した。
このことは自分達以外は誰も知らない。岸波白野・遠坂凛が《魔術》スキルの会得方法を知り得ない以上、キリトが見た男は茅場昌彦である可能性が高い。
茅場昌彦以外のプレイヤーという線もあるが、これは考えにくい。もしそうだった場合、プレイヤー間に情報が一切流れていないのはおかしい。
おそらくこの《魔術》というスキルは、キリトが持つ《二刀流》と同じ類のものだろう。
すなわち、一人のプレイヤーしか扱えない
ログインとログアウトが自在である彼なら、専用スキルの作成は造作もない。
だが……それがどうしたというのか。
仮にヒースクリフが茅場昌彦だったとしよう。
しかしそれで、自分達は何をすればいいのだろうか。
ヒースクリフが茅場昌彦であることを公開するべきか……?
……無理だ。
そんな突飛な話、誰が信じるというのだろう。そもそも彼らはヒースクリフという名前すら知らないのだから。ビーターの異名を持つ
……仮にこれを信じたとしても、プレイヤー達は何か変わるのか?
茅場昌彦がプレイヤーとして参加している以上、目的はゲーム攻略のはずだ。
この状況を作り出した敵ではあるが、最大の戦力であることもまた真実。
ならば下手に情報を撒いて混乱を誘うより、敢えて黙っていたほうがプレイヤーにとっても、自分達にとっても都合が良い。
「……はぁ。どこかで見られてるんだろうな」
「? 誰によ」
「茅場昌彦。きっと、この状況は意図的に作られたものだから」
自分達はヒースクリフの正体を見破り、他のプレイヤーは正体を知らず。
事情を知る者からすれば敵ではあるが、知らない者からすれば味方だ。
そして、敵か味方か曖昧な状態のまま、茅場昌彦本人がプレイヤーとして参加する。
「そうかもしれないわね。ヒースクリフは茅場昌彦でーす、なんて言っても普通は信じないし……というか、どっちかというと信じてくれない方がいい。
あ、どうしよう。神父服とか似合うかも」
「麻婆豆腐が好きそうだな」
「愉悦とか言いそうよね」
神父服を来て、教会に佇む茅場昌彦。
それを想像しようとして――――出来ないことに気づいた。
「そういえば顔、見たことないな」
「あ。そっか、前に見たのは別のアバターだったわね。まあ、そのうち拝めるんじゃない?
目撃者はあの《二刀流》のビーター様よ。噂はすぐ広まって――――あ」
「……遠坂?」
ピタリ、と遠坂は足を止める。
「……前言撤回。ヒースクリフの顔が見たいのなら、今のうちに見といた方がいいわ」
「? どうしてそう思う?」
「注目を浴びるからよ。有名人になって近づけなくなるか、誰かさんみたいに姿を暗ますか。どちらにせよ、簡単には会えなくなる」
「成程。なら、一応探してみようか」
尤も、そんな目立つ格好で外を出歩くとは思えないが。
「あ、いましたよ
「え?」
キャスターが指差す方向を目で追う。
「――あ」
その先には、一人の男がいた。
髪は灰色で長い。前髪はオールバック風で、後ろで一つに纏められている。
簡素な革の鎧を装備し、その上から全身を隠す赤いローブ。
背中には身の丈程もある大きな杖。先端には鈍く光る赤い
如何にも魔法使いですと主張するような、実に分かり易い格好だった。
「“分かりやすい”を通り越してもはや宣伝ね。他の人みんな固まってるじゃない」
男はそんな周りの反応を気に止めず、掲示板に何かを貼り付けている。
一通りの作業が終わったあと、魔法使い(仮)はマイペースにこの場を去っていった。
……クエストか何かだろうか?
「とりあえず見てみましょう」
掲示板の前まで歩を進めメニューを開くと、手元に掲示板を模した画面が現れる。
これは混雑しないための機能で、感覚としてはチラシに近い。
三層でギルドが解禁されたせいか、掲示板にはメンバーを募集するものが殆どだ。
その中で、つい先ほど貼られたであろう赤いチラシに目をつける。
「……“血盟騎士団”? で、ギルドマスターは……ヒースクリフ、か」
「やっぱりさっきの男だったのね。何が目的なのかしら……」
「普通に攻略ギルドを作りたいだけでは?」
「何のために?」
「それは…………」
……なんだろう?
「…………」
「…………」
「…………行ってみようか」
「…………そうね。他にやることもないし」
◆
――で。それがここらしい。
ギルドホームは予想以上に早く見つけられた。
全体的な大きさはそこまでじゃない。そこらに並ぶ宿屋と同じくらいか、少し小さい程度。これならまだ《ドラゴンナイツ》の方が大きい。
目立つ要因となっているのは、その建物が《ドラゴンナイツ》張りに派手であることだ。
騎士と言えば鎧。鎧と言えば白銀。《ドラゴンナイツ》が青と白ならば、こちらは赤と白。
何より注目を惹くのは、特徴的なエンブレムが描かれた旗。
穢れ無き白の生地に盾のマーク。その中央では赤い剣と杖が十字に交差している。
「おー、如何にもそれっぽいですね。剣と盾、そして杖。勇者一行の三種の神器が揃い踏みです」
「これ、魔術を使えますって言ってるようなものじゃないか。どうしてこれまで噂にならなかったんだ?」
「建てられて間もないからじゃない? なんとなく新品って感じがするし」
……確かに、言われてみればそんな気がしないでもない。
何の気なしに遠坂は入口を開けようとする。が――
「開かないわね。ロック掛かってる」
「なら留守か」
「うーん…………ちょっと待って」
遠坂は左を確認し、右を確認し、最後に念を入れて背後を確認した後、片手を宙にかざした。
しばらくして。
「いるわ」
そう、力強く断言した。
「……そうか」
誰がとは訊かない。既に分かりきっている。
そして、おそらくは誘っている。
以前の彼のように、ロックを解除して入ってこい――と。
遠坂は入口に手をかけ、簡単な暗号を呟く。
――ガシャンと。
撃鉄が落ちるような音と共に、鍵が解除された。
遠坂は振り返る。
“――準備はいいわね?”
無言のまま首肯する。
そして彼女は、まるで立て篭った犯人を追い詰めるかのように勇ましく扉を開けた。
内装はカラーリングこそ異なっているものの、以前訪れた《ドラゴンナイツ》と似通っていた。
一際大きなホール。
中央には会議で使われるであろうテーブル。
そして――その向かい側に、一人の男が席に着いていた。
こちらの来訪を確認して、男は待っていたと言わんばかりに微笑を浮かべ、自分達を歓迎した。
「ようこそ、我が血盟騎士団へ。君達も入団希望者かな?」
「いいえ、違うわ」
遠坂が一歩前に出る。
「そうか。確かに、まだ団員の募集は始めていないからな。ならば血盟騎士団ではなく、私個人に用があるということかな?」
「ええそうよ。単刀直入に訊くけど――貴方、茅場昌彦さん?」
「……如何にも。君達の予想通りだ」
「――――!」
顔色一つ変えず、男は遠坂の問いに肯定した。
どうやらこの男は――ヒースクリフは、自分が茅場昌彦であることを隠す気はないらしい。
「随分と正直ね。私達が言いふらす可能性は考えていないのかしら?」
「無論、考えてあるとも。君達が言いふらしたところで、おそらくは誰も信じないということもね」
「……本当にそうかしら。この会話が全て録音されているとしたら、貴方はどうするの?」
「どうもしない。確かに私は事件の首謀者だが、同時にこのゲームを知り尽くした人間でもある。君達がこのことを言いふらせば、様々なプレイヤーが出てくるだろうな」
「…………」
余裕の表情を崩さないまま、ヒースクリフはそう言った。
……この男の言う通りだ。
ゲーム内に茅場昌彦がいると知って、冷静でいられるはずがない。
攻略・生還のために護衛するか。
先のことを考えず、溜まった鬱憤を叩きつけるか。
利用するため、自分達と同じように接触を試みるか。
……一つだけ確かなのは、プレイヤー間で混乱が生じ、ゲーム攻略に支障を来たすということ。
「やっぱりそういう魂胆なワケね。私達を疑心暗鬼にすることが貴方の狙い? となると、早々にクリアされたくない理由でもあるのかしら」
「そんなことはない……と言うと、嘘になってしまうか。私は“血盟騎士団”という攻略ギルドを作りたいと思っている。願わくば、このギルドを結成する前にクリアされるのは止めてほしいところだ」
「それはどうして? ここは貴方達が作った世界よ。今更一緒にプレイしたところで、何の面白みもないと思うけど」
「君達が参加しているのだからその限りではないだろう。それに、特殊な環境下での人の営みは面白いものだ。その輪に加わりたいと思うのは、そこまで不思議ではないだろう」
「……じゃあ貴方としては、自分が茅場昌彦であることを知られたくないのね」
「どちらかといえばそうだ。そちらの方が精神的にも余裕ができる」
ああ……この男はきっと、どちらでも楽しむ。
明日、他のプレイヤー達に追い詰められたとしても。
最期まで肩を並べ、戦友として戦い続けるとしても。
どちらに転んでも、この男は“そういうもの”と割り切って愉しむだろう。
理不尽な状況を陥ることも、逆に圧倒的な力で蹴散らすことも、どちらも“ゲーム”に違いないのだから。
「……分かった。なら、ヒースクリフが茅場昌彦であることは伏せておくわ。
貴方もそれでいい?」
「……そうだな。それが妥当だと思う」
公表したところで旨みはない。
皆を混乱させるより、“血盟騎士団”なるギルドを立ち上げて攻略に参加してもらったほうが、自分達にとっても都合がいい。
今のところ殺意は感じられない。背中を狙われることもないだろう。
「感謝する。ついでと言っては何だが、私からハクノ君に頼みがある」
「……頼み?」
名指しされて前に出る。
ヒースクリフは、自分の隣に控えるキャスターを確認した後、
「ハクノ君、君に
正面から堂々と、明確な果たし状を送られた。
「もし君が勝ったなら、私から新たなサーヴァントの情報を提供しよう。ただし、私が勝ったなら――君には、血盟騎士団に入ってもらう」
「戦いの伝導に集いし
「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!」
「観よ、これぞ
「「アクショ~ン!!」」
「「デュエル!!」」
UBWと遊戯王見てて思ったが、白野とキャス狐と凛、一端離れ離れにさせたら面白くなるんじゃね?(やるとは言ってない)