まあ、「設定は生えるもの」らしいし、別にいいカナー( ´・_・`)
コロシアム。
ベンチに座ったまま顔を上げ、周囲を確認する。
コロシアムと言ってもその造りは簡素だ。
街に備え付けられた大きな平地に、観客が手出しできないよう
ここは一層の《はじまりの街》にあらかじめ備え付けてある、プレイヤー対プレイヤー用の闘技場なのだそうだ。
「よう。ちょいと目ェ離していた隙に、随分面白いことになってんじゃねえか」
「……ランサーか」
振り向くとランサーがいた。
どうやら今はオフのようで、派手な極彩式のアロハシャツを着用している。
彼の性格を考えるとなるほど、中々似合っている。
だが油断はできない。この男はどれほど親しい人間であろうと、“敵”であれば殺す人種だ。
「そう警戒すんなって。別に今殺ろうってわけじゃねぇ」
「……本当か?」
「本当だ。不意打ちなんて真似をするつもりはねえから、安心して戦いな」
「…………はぁ」
「そう落ち込むなよ坊主。客に囲まれて決闘なんざお前にとっちゃ最初で最後かもしれないぜ?」
どこか楽しそうに笑うランサー。
彼にとって戦いとは楽しいモノなのだろう。
「――――」
二度目の溜息を吐きつつ、今度は客席を見渡す。
満漢全席とはいかないが、それでもそこそこ客が集まりつつある。
決闘開始まではまだ時間がある。その時が近づくにつれて、客も少しずつ増えていくことだろう。
「そういや嬢ちゃん達はどうした? ここには……まだいないみてぇだが」
「別行動、らしい」
「? なんで」
「サーヴァントを寄せ付けないためじゃないかな」
「あー……ナルホド。……そいつはつまり、オレは邪魔だって言いてえのか」
「いや、そこまでは。ただ、安心できないのも事実だ。マスターがマスターだけに」
ランサーが己の意思で介入してくることはない。これは信じられる。
だがマスターのほうは別だ。もしかしたらランサーに余計なことをさせて、会場を混乱に陥れようとするかもしれない。
自分が殺されるのは勿論嫌だが、そっちの方もお断りだ。
「……反論できないのが辛いな。んじゃ、嬢ちゃんに監視でもしてもらうか。それなら坊主も心おきなくやれるだろ?」
「それは……そうかもしれないが」
「決まりだな。まー、精々頑張りな」
最後に一言残した後、ランサーは霊体化して消えていった。
……やはり彼も観客なのだなあとしみじみ思う。
この戦い――ヒースクリフとの決闘の本質は、“血盟騎士団”の宣伝にある。
ギルドマスターが実用的なレアスキル持ちなら、入団希望者は殺到するだろう。
勝敗の有無は飾りでしかない。
勝てばヒースクリフがサーヴァントの情報を提供してくれる。負けたら自分は“血盟騎士団”のメンバーとなる。
勿論勝つ方がいいのだが、負けたとしても
勝っても負けても構わない。それがこの戦いにおける自分達の方針なのだ。
……そのせいか俄然やる気が出ない。
そして、それはヒースクリフも同じだ。
向こうは全力で潰しにかかってくる。圧倒するか拮抗するか。それくらいの違いでしかない。
抵抗してもいいし、しなくてもいい。どちらに転んでも構わない。ただ、利益のカタチが少し違ってくるだけ。
――そう。要するに、これはショーなのだ。
舞台。演劇。八百長。
観客を楽しませることが目的であり、勝ち負けは二の次。
「駄目ですっ!」
「っ!?」
バン、と背後から両肩を叩かれる。
あまりに突然だったので、猫のように丸まっていた背筋がピンと伸ばされた。
「……って、キャスターか。驚かせないでくれ」
「それはそれは申し訳ありません。今のやる気/zeroなご主人様にはちょっと刺激が必要かなーと思いまして。実際、執筆などに行き詰まった時なんかはいいらしいですよ? 全く別のことをしているうちに、ふわっとアイデアが来るとかなんとか」
「へえ、そうなのか」
確かに気分転換は大事だ。どんなに好きなことでも、休みなしで続ければ飽きてしまう。
「……まあ、それはそれとして。えっと、キャスターは勝ってほしいのか?」
「モチ。どんな勝負であれ、自分の主に勝ってほしいと思うのは当然でしょう」
「キャスターは手伝ってくれないのか? 呪術はまずいとしても、簡単な肉体強化とか」
「むー、難しい注文ですね。出来なくはないかもしれませんけど……その、私はやることがありますから」
「そうか」
おそらく、ランサーを初めとしたサーヴァント達の警戒だろう。
それなら仕方ない。
「というわけでご主人様、程々に頑張って下さいね。やる気が出ないのはよく分かりますけど、折角注目を浴びるわけですし」
「……そうだなぁ」
今一度席を見渡すと、そこそこ客が集まってきていた。
プレイヤーとしての自分は、使い魔を連れた剣士として有名になってしまった。
ヒースクリフは《魔術》スキルを
どちらも知名度は高いから、客はもう少し集まってくるだろう。
この人数の中で一方的に屠られるのは些か抵抗がある。
「……なら、一つ頑張ってみるか」
「はい! 頑張って下さい、
ベンチから立ち上がり、たった一人の声援を受けながら歩を進める。
相手は“剣士”ではなく“
◆
時刻は正午。
コロシアムの中央に立ち、観客席を見回す。
「――――」
案の定、観客席はその殆どが埋まっていた。
どこを見ても人、人、人。
ここが一層だからか、攻略組のメンバー以外も多く集まっているようだ。
三六〇度、全方位をざっと見回してみる。
客席の空気は、一言で言うなら半信半疑。
半分くらいは“魔法使い”を信じ、残り半分は“魔法使い”を疑っている。
しかしその空気も、対戦相手の登場で一変した。
――ヒースクリフ。またの名を茅場昌彦。
全身を包む真紅のローブと、背中には身の丈ほどの巨大な杖。
杖の先端にはやはり、赤く輝く宝石がある。
ヒースクリフはコロシアムの中央まで歩み出た後、ざっと観衆を見渡して苦笑する。
「予想以上に人が集まっているな。攻略組の半数が関の山と思っていたが」
「そう思うよ。で、これで満足なのか?」
「まさか。君を血盟騎士団に入れるまでは、満足できないさ」
「……だと思った」
背負っていた片手剣を抜き放ち、鞘は地面に捨てる。
同時にヒースクリフもまた、巨大な杖を構えた。
瞬間、ざわついていた客席は静まり返る。
絶えなかった雑音が徐々に小さくなり、やがて無音と化す。
「さて、ハクノ君。今から私と君の
私が君に勝てば、君はメンバー一号として我がギルドに入団する。君が私に勝てば――」
沈黙の中、ヒースクリフはそこで言葉を切る。
……ああ。
その沈黙の意味は――
「――分かっている」
「よろしい」
ヒースクリフは頷いた後、数歩下がって左手を掲げた。
プレイヤー“ハクノ”の視界に、
オプションを初撃決着モードに設定し、両手で剣を握る。
――カウントダウンが始まった。
開始まで十秒。
「……――は」
肺に溜まった空気を吐き出し、意識を研ぎ澄ます。
より薄く。より鋭く。より疾く。
――七秒。
脳内でシミュレートする。
敵は剣士ではない。
ヒースクリフの戦闘スタイルが遠距離攻撃主体ならば、まずは距離を取るはずだ。
――五秒。
フィールドは円形。下は砂。距離を取るのはさほど苦ではない。
問題はその手段。足で逃げるのか、それとも空間移動でもするのか。
「ハクノ君。今のうちに言っておくことがある」
「?」
――三秒。
デュエルが始まる直前、ヒースクリフが話しかけてきた。
警戒しつつ、耳を傾ける。
「この
「……そうか」
――一秒。
全力。
それがどういう意味だったのか、考える時間はもうない。
地を踏みしめる。
腰を落とし、何が起きても対処できるよう構える。
――零。
「っ――!?」
それは唐突に。
赤雷となって刃を向いた。
「くっ――!!」
咄嗟に剣で受け止める。
赤い刃は鋼と衝突し、異質な火花を散らした。
……危なかった。
まさか、魔術師が剣士よりも
「いい反応だ。余程場数を踏んでいると見える」
「っ……これは」
刃を受け止めつつ、ヒースクリフの得物を確認する。
振るっているのは巨大な杖。
ただし先端の宝石からは、赤色の刃が生えていた。
杖の部分が柄となり、宝石の部分が鍔となり、先には《魔術》で生成された雷の刀身。
その様はまるで、魔術で作られた薙刀だ。
「驚いてもらえたかな」
余裕げにほくそ笑むヒースクリフ。
一般常識として、
純粋な力勝負ならこちらに部があるはず――なのだが、目の前の
「っ……武闘派の魔術師、ということか。見世物として、それでいいのか」
「これでいいのだよ」
ヒースクリフは自分にしか聞こえないよう、小さな声で囁く。
「私が知らしめたいのはこのスキルの万能性だ。伸び代は少ないが、初めから強力な早熟タイプ。まずはこれで、プレイヤー達のハードルを下げる。
――そして、それだけではない」
杖に力が篭もり、僅かに押された。
刃の形をとっていた赤雷が唸り、徐々に姿を変え始める。
「っ――!?」
電撃は鞭のようにしなり、剣ごと自分を弾き飛ばした。
剣の腹で雷を受け止め、後方へ飛ばされつつ体制を立て直す。
視線を戻した時には既に、ヒースクリフは杖を下ろし、空いている手をこちらに向けていた。
彼が使うスキルは《魔術》。
ならば、次に来る攻撃は――
「このスキルは《魔術》だ。その真髄は、遠距離攻撃にこそある」
「っ……!」
掌から赤い閃光。
軌道は直線。その威力は地を剥がし、空気を裂き、肉を焦がす。
その攻撃を間一髪回避する。
が、完璧とはいかず雷光は肩を掠め、体力ゲージが三割削られた。
「やはり速いな。元々反応速度が優れているのか、それともこの程度の攻撃には慣れているのか。いずれにせよ、君に《二刀流》を授けなくて正解だった」
二刀流……両手に剣を装備するスキル。
確かにあれば便利かもしれないが、おそらく自分では使いこなせない。
何故なら岸波白野は剣士ではなく――
「――いくぞ」
起動させる。
停止していた魔術回路に熱を入れ、魔力を廻す。
その様子を確認したのか、ヒースクリフの顔から笑みが消えた。
構える時間を待たず地を蹴り、一気に肉薄する。
自分が持っているコードキャストは、その大半がサーヴァント専用。
けれど、こうして自分自身に使えるものもある。
"move_speed()"
初歩の初歩、かつ限定的な強化の魔術。
強靭になった足腰は粉塵を巻き上げ、爆発的に加速する。
ヒースクリフは後方に飛び退きつつ、先ほどと同じように手をかざす。
距離が詰まるにつれ、ヤツの掌に赤い電気が現れる。
――この一瞬が勝負を決める。
左腕に魔力を奔らせる。
コードキャストによる魔力弾。
種も仕掛けもない、ただの塊に過ぎないそれを、ヒースクリフの足元に叩きつけた。
「何……!」
攻撃のエフェクトと巻き上がった砂煙により、互いの視界は一色に染まる。
赤い光は一点に収束し、曇った視界に風穴を開けた。
が、貫いたのはそれだけだ。そこに自分はもういない。
超人じみた脚力を生かし、即座に背後を取る。
「っ――!」
ヒースクリフが反応する。杖が再び雷を帯び、迎撃の刃が形成された。
――遅い。
敵が何かするより速く、このソードスキルは赤い背中を切り裂く。
勝利を確信する。この一撃で決まると。
「――見事だ、ハクノ君」
だが男は、こちらの予想とは全く逆の表情を浮かべていた。
笑っていたのだ。
まるで、自身の勝利を確信したかのように。
攻撃の直前。ソードスキルが発動し、今まさに標的を捉える瞬間――
視界の隅に、有り得ないものが映った。
「――え?」
一筋の亀裂。
自分が握っている剣は、いつの間にか崩壊を始めていた。
「っ――……!?」
唐突な変化に思わずブレーキを踏む。
否、踏んでしまった。
ソードスキルの動作に逆らった反動で、体が硬直する。
折れかけの剣から光が消え、中途半端な姿勢で“ハクノ”は停止した。
そして、
その一瞬の隙を、ヒースクリフが逃すはずがない。
「がっ――ぁ?」
強烈な浮遊感と、相反する微弱な痛み。
脇腹に薙ぎ払いを受けて……三メートルほど吹き飛ばされたらしい。
心なしか客席が騒がしい。さぞかし豪快だったろうな、と他人事のように思う。
地面に手をつきながら、ヒビが入っていた自分の得物を確認する。
吹き飛ばされた時の反動のせいか、剣は腹の部分からポッキリと折れてしまっていた。
「……なんで」
――何かが起きた。
……何が起きた?
あの状況、あのタイミングで急に剣が折れるなんて、有り得ない。
耐久値は事前にチェック済みだ。少なくとも、一回や二回の
……魔術スキルの刃と打ち合ったから、だろうか?
いや、打ち合ったのは精々数回。これだけで折れるのは不自然すぎる。
となると考えられるのは、《魔術》スキルが余程武器破壊に特化しているのか、それとも――
「……まさか、第三者か?」
例えば、観客席から武器をピンポイントで狙ってきたとしたら?
普通なら不可能だ。たとえヒットさせたとしても、一撃で壊すには針の穴を通すコントロールと、並の剣戟を軽く超える破壊力が必要となる。
だが。
『――――やれやれ。相変わらず詰めが甘いな』
それが出来る人物を、少なくとも一人知っている。
……アーチャー。
もし彼が狙撃手ならば、この程度は難なくこなせるだろう。
しかしそれだと疑問が残る。何故彼がヒースクリフの味方をしたのか……。
「…………あ」
しばらくして、目の前にメッセージが表示された。
――“YOU LOSE”、と。
敗北を示す簡素な宣言。
初撃決着モード。勝利条件は相手に強攻撃を与えること。もしくは相手のHPを半分まで削ること。
アンドではなくオア。どちらかを満たせば決着となる。
明確にダメージを受けたのは二度。一度目は大きく削られたが、あれは強攻撃判定されなかったらしい。
「……そうか」
……いろいろと、考えるべきことは山程あるが。
つまるところ。
――岸波白野は、茅場昌彦に負けたのだ。
実はこのランサー、ホロウエリアでサーヴァントと一戦交えた後だったりする。
……という設定。具体的には決まってない。
ヒースクリフに「赤い雷」を使わせたのは大体モードレッドの影響。
キャラクターの性格とか口調とか忘れ気味だし、またCCCプレイし直すべきか……