オリジナル設定が結構あります。
…………突っ込み所満載だけど。
救世主は語る。
「戦いが君を成長させた。過酷な生存競争の中で、最弱であった君は最強へと至った。
その尊さを知る君が、闘争を否定するのか?」
生存競争。それこそが、人類が生き残る手段。
人間はもっと凄い生き物だ。
なのに、この時代の人間は諦めている。
未来を―――――諦めている。
彼の願いを叶えれば、それは変わるだろう。
きっと人類は、より良い方向へと進む。
多くの損失と、それ以上の報酬が得られる。
だけど。
「違う。否定はしない。
―――――だけど、賛同もまた、できない」
自分達は既に過去の人間。
それを選ぶのは自分達ではなく、今を生きる者達であるべきだ。
彼の守るべき時代は―――――とうの昔に過ぎ去った。
そうして、二体の亡霊は剣をとる。
◆
恐怖という感情が岸波白野の体を支配した。
……………いや、違う。
これは恐怖ではない。
そんな小さなものではない。
これは、“畏怖”だ。
これまでの七体のサーヴァントとは、文字通り規模が違う。
その知名度故に、東洋人で彼を知らない人間はまずいないだろう。
大自然を思わせる緑の髪。
背後には黄金の円環。
この世の全てを見通した眼。
その男は何もしていない。立ってすらいない。
ただ座禅を組み、宙に浮いているだけ。
だというのに、そこには一切の隙が見当たらなかった。
下手に手を出せば、その瞬間にやられる。
―――――いや、それすら必要ない。
もしかしたら、何をしてもこの男には通じないのではないか。
たとえ宝具を使い、残された最後の令呪まで使ったとしても、この男の足元にも及ばないのではないか。
そんな、最悪の光景さえ浮かんだ。
覚者は語らない。
ただ沈黙し、こちらを見据える。
「この戦いをもって、私の聖杯戦争は完結する」
隣に控える白衣の男が宣言した。
これが最後の戦い。
自分にとっても。そして、白衣の男にとっても。
「…………行きます。最後の力を、
蒼いサーヴァントが前に出た。
武器である鏡が、ふよふよと彼女の周囲を浮き始める。
その背中には、岸波白野に対する絶対の信頼があった。
知らず、体は落ち着きを取り戻していた。
ああ―――――きっと、自分は彼女に甘えている。
支えられている。
あまりにも自分は弱い。
弱くて弱くて、弱すぎる自分が憎い。
―――――けれど。
彼女がいたからこそ、ここまで来れた。
彼女が支えてくれるのなら、この歩みは止まらない。
無様でも、みっともなくても、足を動かし続ける。
そして、自分達は挑む。
臆病でも蛮勇に、救世主に挑むのだ。
「来なさい、最弱のサーヴァントよ。彼同様、君の健闘もまた、私には誇らしい」
その言葉が合図だった。
覚者は閉じられていた眼を開き、自分達を見据えた。
蒼いサーヴァントは呪いの札を構え、彼女を中心に魔力の渦が吹き荒れた。
戦いの幕はあがる。
七つの海を超えた最後の戦い。
その結末を知るのはムーンセルと、当事者である自分達だけである。
◆
長い眠りから目が覚めた。
―――――欠けた夢を、見ていたようだ。
流れ込んできたのは、紛れもなく自分自身の記憶。
これまで歩んできた道程が、一切の違和感なく脳に染み渡っていく。
だけど、まだ何か足りない。
あの時隣にいたはずの蒼いサーヴァント。
彼女の名前が出てこない。
顔が思い出せない。
大切だったはずなのに、何故か欠けている………。
「あら、起きた?」
「?」
声が聞こえたので上半身を起こす。
そこには、一人の女性がいた。
教会の椅子に座り、のんびりと空間をいじっている。
おそらくはメニュー画面だろう。
基本的に、自分以外のプレイヤーには見えないようになっているからだ。
赤を基調とした服装と、黒のミニスカート。
長い黒髪は作業の邪魔だったからか、後ろで一つに括られている。
…………繰り返す。
後ろで一つに括られている。
ポニーテールというやつだ。
こんな彼女は、今まで見たことがない。
この人は一体―――――
「―――――誰だ?」
「ふんッ!!!」
「へぶァっ!!?」
―――――それは、見事なハイキックだった。
流れるような洗練された動き。
多くの死闘で培われた戦術眼をもってしても、予備動作が殆ど見えなかった。
気づいた瞬間には、放たれた脚が目の前にあったのだ。
なんてことだ。
“遠坂凛”は魔術だけでなく、体術においても天才だったのか………。
……………ちなみに一瞬だけ下着が見えてしまったが、鋼の自制心を持つ岸波白野は一々そんなことで興奮しない。
見蕩れたから躱せなかったとか、断じてない。
「痛い……………痛いぞ遠坂」
「ふん、悪かったわね。どうせ私にはこんな髪型似合わないわよ」
仁王立ちしながらもそっぽを向く遠坂凛の姿。
羞恥と怒りのせいか、頬は若干朱色に染まっていた。
「いや、普段と違う髪型だから、少し驚いたんだ」
まあ、確かに「誰だ」はひどかったと思うが…………
「うん、結構似合ってるよ」
「…………そう。
まぁ、素直に受け取っておくわ。……ありがと」
そっぽを向いたまま、今度は熟れた林檎のように頬を染める遠坂。
きっと照れているのだ。
女性が外見を変えたら、なんであれ感想を言う。
常識だ…………と、思う。
「それで、何か分かったのか?」
「何かって?」
「…………この世界について、とか?
コードキャスト、使ったんだろ?」
「…………ふぅん。
どうやら記憶はある程度戻ってるみたいね。令呪が戻ったから…なのかな。
ちなみに、どこまで覚えてる?」
「えっと―――――」
最後の記憶は確か…………………あの男との戦いだ。
『トワイス・H・ピースマン』
戦いを憎みながらも推奨する、救世主の欠片。
人類の更なる進化を願った亡霊。
自分はそんな彼と決別した。
あの男の言葉は正しかった。
けれど、彼ほどの視点を持つことができず、同時に理解もできなかった。
―――――だからこそ、今を懸命に生きる人たちの人生を否定できなかった。
そうして両者は剣をとり、戦いの幕はあがる。
それで―――――
「―――――そのあとどうなったか、覚えていないんだ」
勝ったのか負けたのか、そんな些細なことすら忘れている。
………いや、勝ったはずだ。
でないと、自分が生きていられるはずがない。
でも、誰と戦ったのか。
勝った後どうなったのか。
それが思い出せない。
顔と名前が出てこないのだ。
「じゃあ、自分がマスターだってことは覚えてる?」
「ん。それは大丈夫だ」
マスターの証である令呪を見る。
令呪は本来三画。しかし、二画は消費された形跡がある。
どちらも遠坂凛を助けるために使ったのだ。
「………成程。自分のサーヴァントのところだけ綺麗に抜け落ちてるみたいね。
ま、そのへんはあの
「そんな適当な…………」
「適当にもなるわよ。実際、あの
「?。どうしてそんなことが分かるんだ」
「そりゃ、このアインクラッドのどこかにいるからよ。
さっきハッキングしてこの城の全体図を調べたんだけど、その中に七体、膨大なデータの塊があったの。
で、調べてみると、最も容量が大きかったのが貴方のサーヴァントだったってわけ。
所持してる記憶データの分だけ大きくなってたみたいね。」
…………つまり、自分のサーヴァントは岸波白野の記憶データを持っていて、更にこのアインクラッドのどこかに迷い込んでいる、ということか。
成程分からん。
「要するに、再会すれば自然と記憶も戻るってコト。
難しくなくていいでしょ?」
「それは…………まあ。
ん……? ちょっと待て、七体?」
遠坂はさっき、七体のデータの塊と言った。
そのうちの一体がサーヴァントだということは―――――
「そう。このアインクラッドには貴方のを含め、計七体のサーヴァントが紛れ込んでいる。
しかも野良でね。」
「野良!? それって、かなり危険じゃないか?」
「ええ、すっごく危険よ。森を歩いていたらバーサーカーが出現しましたーとか、笑えないわ。」
いや、本当に笑えない。
下手したら大量に死人がでる。
しかもサーヴァントは野良ときた。
つまりそれは、フィールドを常に徘徊しているということだ。
「さっき色々試してみたけど、流石にサーヴァント相手だとどうしようもなかったわ。
けど当分の目的は、私達と一緒にこの世界に紛れ込んだサーヴァントの回収、または排除。
そう考えてるんだけど、岸波くんはいいかしら?」
当然だ、と頷く。
「となると問題は、サーヴァントの強さね。
私達のレベルは現在1。対し、敵の強さは未知数。
途中で一人味方が増えるのは確定だけど、それでも厳しいわね」
腕を組み、ううむと唸る遠坂。
彼女のハッキングスキルを以てすれば、少なくとも自分達の脱出は容易だろう。
しかしそれでは、サーヴァントという凶悪な兵器を残すことになってしまう。
この世界でのゲームオーバーは死と同義。
加えて普通のプレイヤーは今、ログアウトができない。
いずれ必ず、サーヴァントによる死人が出る。
―――――そして、夢に出てきた“彼女”のことも気になる。
会わなければ………いや、召喚しなければならない。
それまでは、何があっても帰ることは許されない。
「………………ん?」
思考の海に沈んでいると、ギィ、と鈍い音が聞こえた。
教会の扉が開く音だ。
遠坂もそれに気づいたらしく、伏せていた顔をあげる。
そこには、一人のプレイヤーがいた。
性別は男。黒髪の童顔。
年齢は………自分と同じくらいか。
左手には小さな盾。腰には安物の剣。
胴体を守る鎧も高価なものではなく、まさに初心者という風貌だ。
そこまで確認した瞬間―――――遠坂の目つきが変わった……気がした。
「…………客、かな。珍しいな」
「そうね、珍しいわね」
「?」
遠坂は椅子から立ち上がる。
が、視線は変わらず入口で立っているプレイヤーに突き刺さっている。
彼女は男性を警戒しながら歩を進め、
祭壇で立ち止まり、
そして―――――
「さて、と。
こんにちは。そしてはじめまして―――――“茅場晶彦”さん」
と、意味のわからないことを言い放った。
「え―――――?」
遠坂は腕を組み、先程現れた男性プレイヤーを注意深く見ている。
殆ど睨んでいる状態だ。
いや、そもそも、“茅場晶彦”とは誰のことだろう………。
この世界での知り合いか何かだろうか………?
「茅場晶彦。
この浮遊城を作り上げた技術者にして、今回の事件の元凶。
“ソードアートオンライン”をデスゲームに変えた張本人よ」
「そうなのか。
いやでも、このプレイヤーがその………“茅場晶彦”さんとは限らないんじゃ?」
「限るのよね、これが。
だって、私が呼んだようなものだし」
さらっと。
何でもないかのように遠坂は言った。
「呼んだ……!?
って、どうして」
「そりゃ、ハッキングしたからよ。
少しだけとはいえ、データを弄ったんだもの。バレないようにしたとしても限度があるわ。
決め手はこの教会の扉。さっき、教会の扉に軽いロックを掛けといたのよ。
私達以外の一般プレイヤーはまず通れない。通れるのは、ある程度の権利を持つ者だけ。
………ま、流石に早すぎだと思うけど。
正直舐めてた。どうやら“茅場晶彦”って男は、よっぽどの技術者みたいね」
悔しげに歯噛みする遠坂。
彼女の視線を追い、もう一度入口近くの男性を見た。
―――――その顔を見て、認識を改めざるを得なかった。
男は笑っていた。
楽しくて仕方がない。
まるでそう言っているかのように。
けれど、そこに邪悪さは一切見当たらない。
それどころか、無邪気に笑っているようにさえ見えた。
「…………やはり、そうだったか」
「―――――!」
声が違う。
若々しい外見から想像できない、低い声だ。
「にしても、随分と適当なアバターね。初期設定?」
「姿に関しては許して欲しい。君達に早く会ってみたくて、即興で作ったものだからね」
「ふーん。で、わざわざ私達に何の用かしら?」
「そう構えるな。私はただ、君達に依頼をしに来ただけだ。
この世界風に言うなら、“クエスト”、というやつだな」
「―――――依頼?」
すると茅場昌彦は、途端に表情を変えた。
楽しげな気配は身を潜め、代わりに無機質な、金属質な気配が流れた。
「この世界には今、七体のイレギュラーがいる。そのことは、君達も知っているね?」
イレギュラー。
七体。
―――――もしかして。
「イレギュラー…………サーヴァントのことか」
「サーヴァントというのか、アレは。ならば、これからは私もそう呼ぶことにしよう。
―――――そうだ、サーヴァントだ。
アレらは私が作ったアインクラッドには本来存在しない者達だ。よって、同じくイレギュラーである君達にも討伐を依頼したい。
私でもあれ程の存在は削除できない。せいぜい転移と弱体化が精一杯なのだ。
消去するにはこの世界のルールに則り、HPゲージをゼロにするしかない」
成程。
やはり、この世界の運営者である茅場晶彦でも、サーヴァントはどうしようもないのか。
………いや、まてよ?
「君達に…………“も”?」
「そうだ。君達だけではない。既にこの世界に一種のクエスト、またはフロアボスとして登録させてもらった」
「ちょっと待ちなさい。サーヴァントはこの世界を創った貴方にとって、ただの邪魔者でしょ?
どうしてそんな…………“初めからゲーム内に存在する”設定にしたのよ?」
…………確かに。
この男は先程、サーヴァントを完全に削除することはできないが、転移なら可能だと言っていた。
本当に邪魔な存在なら、人目のつかないエリアに転移させたあと閉じ込めればいい。
「決まっている。それもアリ、と私が判断したからだ」
茅場晶彦は堂々と、確かにそう言った。
「私はただ、新しい世界を創りたかったのだよ。現実世界のあらゆる法則や枠を超えた世界を。
そしてこのサーヴァントという存在は、私の理解を遥かに超えた存在だ。
彼らを“下らない”と切り捨てることは…………私には、どうしてもできなかった。
プレイヤー達を閉じ込め、デスゲームにしたのもそれが理由だ。命は軽いものではない。蘇ることなど、あってはならない。
明確な生と死が存在することで、初めて世界は成り立つのだから」
「―――――」
それは、この男の本心だった。
世界を創る。
一見子供のような願いだが、この茅場晶彦という男は、その子供の願いを実現してしまったのだ。
サーヴァントという存在を採用したのは、彼の子供心を刺激したから、か。
「…………分かったわ。貴方の依頼、受けましょう」
「遠坂…………いいのか?」
「元々そういう話だったでしょう。どっちにしろ、最低でも一体は会わないといけないんだし。
―――――ただし。一つ条件を出させてもらうわ」
「構わない。私にできることであれば、なんでもしよう。
こういった取引も、ネットワークRPGの醍醐味だ」
不敵に………そしてやはり、どこか楽しそうに男は笑った。
そしてこの瞬間、本当の意味で理解した。
この男は、この世界を楽しんでいる。
彼の元の世界…………平和な現実世界では絶対に味わえない感覚を、一つ一つ楽しんでいる。
自分が創ったはずの世界で、自分が想像していなかったことが起きた。
アインクラッドは彼にとって新しい世界であると同時に、未来が決まった世界でもあった。
しかし、彼が予想していた未来は崩れた。もはや、開発者である彼ですら何が起こるか分からない。
そのことに気分が高揚しているのだろう。
…………ログアウトの要求は聞きそうにない。
遠坂は一体どんな要求を―――――
「私からの要求はたった一つ。―――――“
それを早急に採用なさい」
魔法使い…………!
それはつまり、本来の自分達―――――
「ほう………それはまた、何故?」
「そのほうが私達が戦いやすいから。
不可能じゃないはずよ。ハッキングした際に覗いたけど、この《ソードスキル》ってやつ、随分と凝ってるみたいじゃない。
なら同じように、魔法、魔術の類のシステムもある程度完成してるはず。
それに、サーヴァントの中にはキャスター…………“魔術師”を名乗るクラスも存在するわ。
キャスターに限らず、他のサーヴァントだって魔術を使う可能性もある。
ゲームマスターとして、そこらへんは対等にするべきだと思うんだけど?」
どこまでも挑発的に、遠坂は茅場晶彦に対して言った。
………確かに、今の自分達ではサーヴァントには絶対に勝てない。
サーヴァントとは、どんな英霊であれ一度は人生を終えた存在だ。
同じ土俵では、自分達に勝機はない。
否、そもそも同じ土俵で戦えるとは限らない。
加えて、彼らには《宝具》と呼ばれる切り札もある。
プレイヤー側にも何かを用意しなければ、とてもじゃないが釣り合わない。
「いいだろう。結局は不採用となったが、確かに魔法系統スキルも一通り用意してある。
ただ、流石に今すぐは不可能だ。少なくとも第一層クリアまでは剣で進んでもらうことになるが…………構わないかね?」
「十分よ。元々、魔術だけで勝ち抜こうなんて思ってないし」
「ふむ………では、確かに。間に合わせると約束しよう」
そう言い残し、茅場晶彦―――――正確には、『中身が茅場晶彦のアバター』は消滅した。
扉から出て行ったのではない。
立ったまま、その場で消滅―――――ログアウトしたのだ。
まとめ
白野はある程度記憶を取り戻した!
七体サーヴァントが紛れ込んでしまったので、なんとかしよう!
対抗するために茅場晶彦さんに魔術スキルを作ってもらおう!
…………うん、自分でもわからなくなりそうだ。
サーヴァント、アインクラッドの層についてですが、
『サーヴァントはその階層のレベルに合わせて弱体化する』
『アインクラッドの一層一層はアリーナのようなもの』
という感じです。