Fate / SAO CCC   作:YASUT

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第二層

 長い螺旋階段を登ると、そこには大きな扉があった。

 この先はアインクラッド第二層。

 それはまだ見ぬ世界であり……“ビーター”の俺にとっては見慣れた世界でもある。

 俺はそのまま、ゆっくりと目の前の扉を押し開けた。

 

「――――」

 

 その先には、とてつもない絶景が広がっていた。

 第二層の入口であるここからは、大雑把にだが全体を見渡せる。

 第一層は様々な地形が複合していた層だったのに対し、第二層はたくさんの岩山が並ぶ層だ。

 山の頂上は平らになっており、緑の草原が広がっている。

 テーブルマウンテン、というやつだ。

 

 第二層の主従区“ウルバス”は、ここから更に1キロ程先にある。ウルバスの中央区には“転移門”と呼ばれる扉があり、それに触れれば第一層の“はじまりの街”の門と連結される。

 つまり、いつでも“はじまりの街”に戻れるようになり、逆に今回フロアボス攻略に参加しなかったプレイヤー達も、第二層のモンスターと戦えるようになるのだ。

 もっとも、わざわざ“ウルバス”まで行く必要はない。仮に俺がここでボーっとしていても、ボスの消滅から二時間後に転移門は自動で開く。

 しかし、今日ボス攻略が行われることは“はじまりの街”にも知られているはずで、今頃一層の転移門の前には大勢人が並んでいるだろう。

 彼らのために早く“ウルバス”へ向かうべきなのだろうが………もう少し、この絶景を楽しむくらいは許されるだろう。

 

 そんなことを考えていると、後ろから一つの足音が聞こえた。

 足音の主は螺旋階段を上ったあと、俺の隣にまで歩を進め、立ち止まった。

 

「…………来るな、って言ったのに」

「言ってないわ。覚悟があるなら来い、って言ったのよ」

 

 彼女―――――アスナは、不満そうに言った。

 

「…………そうだっけ。ごめん」

 

 謝ったあと、隣にまで歩いてきたアスナを見た。

 彼女は一瞬だけこちらを見たあと、すぐに眼下の景色に視線を戻し、「綺麗」と、ため息混じりに呟いた。

 それから約一分。

 

「…………そういえば貴方、戦闘中にわたしの名前読んだでしょ」

「あ……ごめん、呼び捨てにして。それとも、読み方違った?」

「合ってるわよ。そうじゃなくて、どこで名前知ったの?

 わたし、貴方に名前教えてないんだけど」

「は?」

 

 思わず間抜けな声を出してしまった。

 おかしなことを言う。

 俺とアスナは、まだパーティーを組んだままだ。だから俺同様、視界の左上にはパーティーメンバーの名前が記されているはずで………

 

「……あ。もしかして、パーティー組むの初めてだった?」

「そうよ」

「………成程」

 

 それなら納得だ。

 そういえばアスナは、出会った頃は“スイッチ”という単語すら知らない初心者だった。だったら、名前の場所を知らなくてもおかしくない。

 俺は右手で、アスナの視界の左上を指差した。

 確か………このあたりだったはず。

 

「このへんに自分の以外で、追加でHPゲージが見えるだろ? そのへんに、何か書いてないか?」

「?」

 

 アスナは目を左上に動かし、俺には見えない文字列を見た。

 

「き……り、と。………キリト? これが貴方の名前?」

「ああ。」

「……なんだ。こんなところに、ずっと書いてあったのね」

 

 くすり、と。

 こぼれるようにアスナは小さく笑った。

 その小さな笑みを見て、俺は漠然と思った。このアスナという剣士は強くなれる、と。

 俺のようにビーターとしてではない。ベータテスターではない一般プレイヤーとして、この最前線でこれからも戦えると思ったのだ。

 

「……君は強くなれる。だからもし、誰か信頼できる人にギルドに誘われたら、断るなよ。ソロプレイには、絶対的な限界があるから」

「なら、貴方は?」

 

 こちらを気遣うように、アスナは問いかけた。

 だが答えない。答える必要はないはずだ。

 俺はアスナの言葉を無視し、手元のメニュー画面から“Party”を選択した。すると、新たな選択肢が三つ現れる。

 “作成”、“招待”、そして“解散”。

 迷わず“解散”を選択し、確認画面でさらに○を押す。

 その瞬間、新たなメッセージが視界に表示された。

 

 『パーティーが解散されました』 

 

 ……これでもう、俺とアスナはパーティーではなくなった。

 

「………そう。じゃあ、またね、キリト」

 

 アスナは残念そうに呟いたあと、後ろの扉へと歩き始めた。

 俺は振り返らない。

 本来ならここで手を振るなりして、何かしら挨拶を返すのが礼儀だ。

 だが、ソロを貫くと決めた意地が邪魔をした。

 俺は嫌われ者として進むと決めたのだ。アスナだけ特別扱いするわけにはいかない。

 せめて足音が完全に消えるまで、ここで待っていることにしよう―――――

 そう思って、再び眼下の絶景に視線を戻した。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

 ……何やら大きなため息が聞こえてきた。

 一瞬アスナかと思ったが、違う。

 少なくとも彼女は、こんな気だるげな声は出さないはずだ。

 

 

「ようやく第一層突破かー。流石に時間かかりすぎよ、コレ。四週間て………聖杯戦争だったら四回死んでるわ。しかも不戦敗よ、不戦敗」

「いや、まあ、初めての人も多かったみたいだし、仕方ないだろう」

「私は別に遅くても構いませんけどねー。ご主人様さえいれば」

 

 

 二人の女性と一人の男性の声が聞こえた。 

 振り返るとそこには、三人のプレイヤーがいた。

 一人は男性の片手剣士。どこで手に入れたのか、現実世界における学生服を来ている。

 もう一人は女性の細剣士。赤い服と黒のミニスカート。ボトムスとソックスの間に肌の露出があり、絶対領域なるものが完成している。

 そして最後の一人が、獣耳を生やした女性。きっとアクセサリか何かだろう。服装は蒼色の着物。ただの着物ではないらしく、背中と肩がまるまる露出している。

 学生服と私服と着物。そこには、統一感というものが欠けらもなかった。

 共通しているのは―――――そのどれもが、俺が見たことのない装備だということ。

 

「……アンタ達も来たのか」

「? 

 当然でしょ。進まない理由がないわ。」

「な……」

 

 タイムロス零秒。

 一切の迷いなく、赤い女性は言い切った。

 それだけではなく後ろの二人も、何故そんなことを聞くのだろう、と言わんばかりに俺を見ていた。

 その態度は、進むことは当然だと伝えているようにも思えた。

 おそらく彼らには、悪気など微塵もない。

 だが俺は、徐々にこみ上げてくる頭痛を抑えることができなかった。

 

「……ちょっと、待ってくれ。それじゃ、俺がアンタ達を庇った意味がないじゃないか」

 

 あの状況でついてきてしまったら、三人はビーターの仲間だと思われてしまう。

 せっかくハッタリでなんとか誤魔化しきったのに………

 ああいう演説には慣れてないし、結構大変だったんだぞ。

 

「ああ、アレね。正直、あんまり意味なかったと思うんだけど」

「え…………えええ!?」

 

 真正面から否定されてしまった。

 しかもさらりと。世間話をするような気楽さで。

 

「要するにビーター、つまり貴方って、十層まで上った経験者ってことでしょ?

 確かに、もしこれがただの“遊び”だったなら、みんな貴方のこと敵視すると思う。

 でも、これは遊びじゃない。

 “これは、ゲームであっても遊びではない”……でしょ?」

「……!」

 

 “ゲームであっても遊びではない”

 雑誌で茅場晶彦がよく言っていた言葉だ。

 

「このゲームには命がかかってる。そして、プレイヤー達の最終目標は生還。すなわちゲームクリア。なら最終的にはみんな、貴方に頼ることになると私は思う。

 全部が無駄だったとは言わないわ。貴方のおかげで、他のベータテスターに向けられる敵意も多少は減るでしょうし。

 でも、それも時間の問題よ。どっちみち、十一層くらいからはみんなどうでもよくなるんじゃない?」

 

 ……えっと。

 いや、まあ確かに、一理ある。

 流石に全員は言いすぎだろうけど、時間が経てばどうでもよくなる、というのは否定できない。

 それに、エギルやアスナ、そしてこの三人のように、ビーター云々を一切気にしないプレイヤーがいるのも確かだ。

 そう考えると、少し気が楽になった。

 

「そういえば貴方、名前は?」

「……俺は、キリトだ」 

「そ。私はリン。こっちの頼りなさそうな男がハクノで、隣のPINKUがキャスター。」

 

 散々な言われようだ。

 頼りない男、か。

 人のことは言えないが………それでも敢えて言わせてもらうなら、確かにまだエギルやクラインの方が頼りがいがある。

 で、こっちはPINKUな狐、か。

 着物のせいで“蒼”という印象が強かったが、確かに髪は桃色だ。

 そしてわざわざ“PINKU”を強調するということは………つまり、表面はまともでも中身は“そういう人”なのだろうか。

 

「………頼りない、か」

「ピンクの何が悪いんですか!」

 

 どんよりとした空気を纏うハクノと、烈火の如く怒るキャスター。

 だがリンは華麗にスルーし、話を進める。

 

「それより、さっき貴方の仲間とすれ違ったんだけど………いいの?」

「……仲間、か」

 

 おそらくアスナのことだろう。

 確かに、少し後悔している。何故なら彼女は、既に強い。あの細剣士(フェンサー)になら、俺も背中を預けることができる。

 でも、それは甘えだ。俺はビーターで、アスナは一般プレイヤー。人目のつかないところならともかく、ああいう注目を浴びる場所で馴れ馴れしく接するわけにはいかない。

 

「……別にいいさ。街までは俺一人でも充分だからな」

 

 だから、この選択はきっと間違っていない。

 これでアスナは、ビーターの仲間だと指を差されることはない。

 俺とパーティーを組んでいたことは、『知らなかったから』で済ませられるはずだ。

 

「……ふぅん。まあいいわ。

 じゃあキリト。街までの案内、頼むわね。」

「え……案内?」

「ええ。街まで私たちと一緒に行きましょう。そのほうが何かと都合がいいし。

 ああ、別に嫌ならいいわよ。その時は貴方を追跡するから。」

 

 にっこりと笑いながら、リンは言った。

 おかしいな。笑っているはずなのに、何故か怖いぞ。

 そういえばPIN………キャスターはボス戦の時、強力な遠距離攻撃を放っていたっけ。

 

「…………」

 

 仮に、あれを背中に喰らったらどうなるんだろう………。

 あれ?もしかしてこれ、脅しじゃないか………?

 いやいやそれはない。少し落ち着こう。考え方を変えよう。

 そうだ、これはチャンスだ。

 キャスターが使っていた炎や氷。あれの正体を聞くチャンスじゃないか。

 

「……分かった。案内するからついて来てくれ。

 それと、念のためここでパーティーを組んでおこうと思うんだけど……いいかな?」

「分かったわ。二人共、いい?」

「ああ」

「ご主人様がオッケーなら、私もオッケーです。」

 

 よし。これを機に、この三人の秘密について可能な限り情報を得よう。

 

 ………とりあえずまずは、キャスターがハクノを“ご主人様”と呼ぶ理由からだな。

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