マジック&ウィザーズ。
モンスター、魔法、罠の三種のカードを操り勝敗を競うゲーム。
1030年に本社の創業者であるペガサス・J・クロフォード伯爵により考案されたこのゲームは、いまやクィディッチとならぶ魔法界のエンターテイメントと化した。魔法により実体化されたモンスター達を巧みに操り、魔法と罠でサポートしてライフポイントを削り合うという単純で奥深いルールのなかで繰り広げられる、ド派手なぶつかり合いや、高度な心理戦は観客を熱狂させ、人気は爆発。英国からマジック&ウィザーズは世界中に広がっていった。
時は13世紀。単なるゲームでしかなかったマジック&ウィザーズは個人の、組織の、国家のプライドを懸けた、文字どうりの決闘へと姿を変えた。魔法使い同士の決闘が珍しくなかった中世において、デュエルをたしなむ者同士の決闘の形態として、「闇のデュエル」という決闘方式が誕生。勝敗をデュエルにおいて決しするという一見バカらしいこの方式は欧州において驚くほどあっさりと定着し、結果として国家は国ぐるみで強いプレイヤーを育成することになる。このような決闘方式は18世紀初頭には淘汰されたが、スポーツとして定着し、プロリーグが設置され、国際試合も多く企画されることとなる。
今日でもその歴史を踏まえ、マジック&ウィザーズにプライドを懸ける者達は決闘者と呼ばれている。
~インダストリアル・イリュージョン社著決闘全集より引用~
魔法界、アイルランド共和国ダブリン郊外の丘陵地帯にポツリと佇む三階建ての大きな屋敷。夜も更け、屋敷の住人も寝静まっている時間帯だというのに、2階の南の角部屋だけはまだ明かりが点っている。部屋では、3人の少年が親や使用人の目を盗んで集まり、カードを手に歓談していた。この屋敷の主人であるブラフォード伯爵の子である4兄弟は夏休みに入ってから、毎晩長男スコットの部屋に集まり、マジック&ウィザーズ談義に花を咲かせているのだ。
ブラフォード家は14世紀から続く由緒正しいドラゴン族を従える決闘者の家系であり、幼い頃から決闘者として英才教育を受けている彼らにとってデュエルは兄弟のコミュニケーションの柱、兄弟の絆である。しかし、長男のスコットは15歳、次男のサイラスは14歳。魔法界の学校は全寮制が基本であり、家から離れてしまうし、夏休みには宿題という魔物が巣食っていて、三兄弟がそろって話せる機会はそう多くない。その解決策がこの「夜更かしデュエル談義」であった。
「それじゃ、イルヴァーモーニーじゃ兄さんは未だに負け無しってこと!?」
「そーゆーことさ。未だに俺の銀河眼デッキを倒したものはいないぜ。まあでも、さすがに上級生相手じゃ気は抜けないけどな。」
「流石兄貴って感じだよなあ!まあでも俺との戦績はまだ五分五分だけどな。」
「おお?エクシーズを身に付けて進化した俺に簡単に勝てると思うなよ、サイラス。」
アメリカのイルヴァーモーニーに進学した兄のスコットのデッキは「銀河眼」。パワーとトリッキーさを活かして戦うテーマ。何回も対戦をしているけど、やはり圧倒的パワーに困らされる。欠点である重さも兄の冷静で的確なデュエルタクティクスでカバーされているのだから、名門校でも負けない理由にも納得できる。それにしても、先に家を出た兄弟達の話を聞いていると、誇らしさとは別に、自分も早く家を出て自分の実力を試してみたいという欲望も沸いてくる。兄たちとのデュエルはもちろん楽しいが、やはり新しいデュエリストとのデュエルも心が踊るのだ。
「そっか。新大陸はエクシーズが主流なんだっけ。」
「おお、皆エクシーズ使ってるな、発祥の地だけあってさ。あのダイナミックさがなかなか癖になるもんがあるんだよ。お前もデッキに入れてみたらわかるぜ。」
するとサイラスが茶化すようなこえで割り込んでくる。
「おい兄貴、ルカをそっちに勧誘すんなよ。ルカ、シンクロが正義だ。エクシーズは脳筋が使う召喚方だからな。」
「おい」
シンクロはアジアの新興国を中心に使われている召喚方だ。サイラスが進学した日本のマホウトコロでは、シンクロテーマが主流らしく、彼の使用デッキも「レッドデーモン」である。
......どちらかというとこっちの方が脳筋ではないだろうか。
「だが、デュエル先進国の日本で学べるのは正直羨ましいな。ワールドカップも二冠してるしな。」
「ああ、本当になぁ。」
するといつもとはちがうあまり浮かない声色に変わる。お調子者の兄らしくないな?なにか向こうであったのだろうか。
「流石にレベルが高くてなあ。同級生でも俺より強いのが一人いてな。そいつを超えんのが当分の目標だな!「ジャンク」デッキに俺の「レッドデーモン」が負けるとはなあ。....正直最初は自信なくしたけどな。」
どこか遠い目をして呟く。
自信家で負けても「運が悪かった」で片付ける兄が素直に敗けを認めるとは、その同級生は相当な腕なのだろう。「ジャンク」は確か機械、戦士族のシンクロテーマだったはずだ。
「ルカも9月からホグワーツだろ。ホグワーツといえばあの「伝説の決闘者」が教鞭をとってるってゆう....」
「ああ、マハード・イシュタール先生ね。」
なにをかくそう、この俺もあと一月でホグワーツに進学が決まってる身だ。そして進学の決めてとなったのはホグワーツで「決闘学」の教授をしている元世界王者のエジプト系イギリス人マハード・イシュタール先生である。手堅い守り「マジシャン」デッキを操る先生のタクティクスは史上最高と称され、俺の目指す最強の決闘者象に一番近い人だ。あの人の指導を受けるために、「優等生の弟だから」と勧誘してきたイルヴァーモーニーとマホウトコロを蹴って進学を決めたのだ。
「羨ましいな。俺もマハード先生のマジシャンデッキを是非間近で見てみたかった。」
「あの人のタクティクスは史上最高だからな。あの人は決闘界の宝だぜ。」
二人は本当に羨ましそうにぼやく。それほどにマハード・イシュタールの名前は売れているのだ。自分が誉められてる訳ではないけど少し嬉しい。
「そのためだけにホグワーツに行くようなもんだからね。それに、あわよくばデュエル出来るかもしれないし!」
「おう、とりあえずサイン貰ってきてくれ。」
「ずるいぞサイラス。ルカ、俺にもだ。」
デュエリストにとっては先生のサイン入りカードは下手なレアカードより値が付くプレミア品である。先生があまりそうゆうことをしたがらない性格であるのもあいまって、現役時代のものは
金貨数十枚で取引されることもある。つまり....
「なら一枚3ガリオンで。」
高価で売れるってことだ。先生からサインを三枚もらう手間を考えるとこれくらいは正当な対価としてもらってもバチは当たらないだろう。弟がいつまでもただパシられるだけで終わると思わないことだ。
「「おい」」
このあとサインカードを巡るアンティーデュエルを始めようとしたところ、父さんが起きてきて三人とも翌日は鳥小屋掃除で午前中を潰すこととなった。
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