機動戦士ガンダムIS(インサイド・ザ・ストラトス) 作:見知らぬとまと
毎日投稿止めたので長い話もあります。
感想があると作者のモチベが単一仕様能力並みに上がります。有難うございます。
アリーナ上空で黒いISと戦っていたバナージと簪の二人は、苦戦を強いられていた。
「更識さん!」
黒いISに射撃戦を挑んでいた二人だったが、簪に黒いISが肉薄する。すかさずバナージはビーム・セミマグナムでフォローする。
すると黒いISがバナージを狙う。ビーム砲を躱せばすぐそこに巨大な腕が迫っている。
背部バインダーを大きく吹かす。それによって強引に敵機の攻撃を躱す。そしてビーム・セミマグナムの隙を補い下側のレボルビング・ランチャーを射撃する。
しかし黒いISの本体はもちろん、『絶対防御』どころかバリアにすら十分なダメージを与えられない。
一見ただ苦戦しているだけに見えるが、このペアには弱点がある。
バナージの『シルヴァ・バレト』は一見高火力に見えるが、実際には必殺というには中途半端な火力のビーム・セミマグナムが最高火力で、メガ・ビーム・ランチャーのような高火力砲撃はもちろん、白式の『零落白夜』のような近接戦用超高出力武装も持っていない。
そして簪の『打鉄弐式』は、そもそも未完成の状態である。
打鉄弐式を担当する企業である『倉持技研』は、知ってのとおり『MISシリーズ』の開発をしている企業だ。
それと同時に織斑一夏のIS、『白式』の開発も倉持技研なのだが、本来『打鉄弐式』の開発をするはずだった開発チームが、『白式』の開発に、そしてサポートに当たっていたチームが『MISシリーズ』の開発に移ってしまったことで、『打鉄弐式』の開発が滞ってしまった。
そこで更識簪の姉である前述した生徒会長、更識楯無が自身でIS『ミステリアス・レイディ』の改装、最終調整を行ったという実績を鑑みて、80%完成といった状態の『打鉄弐式』がその段階の安全確認だけ行われ簪のもとに渡ったのである。
その未完成なものの最たる部分が武装、それも射撃武装だ。
まず『打鉄弐式』を代表する武装である48連装ミサイルポッド『山嵐』だが、これは特長である『マルチ・ロックオン・システム』のOSが完成していない。
『山嵐』は本来、計48基のミサイルポッドが各自相互干渉を起こさないように計算された複雑な軌道を描いて敵機を攻撃するようプログラムされている。
しかし現状はさっきバナージが躱して見せたように、単調な軌道のミサイルでしかない。
その上、背中にマウントされた荷電粒子砲『春雷』も、本来は高速で連射できる武装である。
しかし、現状は連射速度が所定の性能を発揮しない不具合を起こしている。なんとか簪が間に合わせで一発あたりの出力を上げることで対処しているが、これも本来の性能に比べたら汎用性、
その二人は苦戦ゆえに長期戦を強いられているだけでなく、相手の隙にも満足な一撃を叩き込めない状況にあるのだ。
しかし、耐久性が高いといってもISはIS。いずれシールド・エネルギーにも終わりが来る。
そう信じて攻撃を続けるバナージと後方支援に徹する簪。
アリーナにいた2機のISを引きはがす時こそ大声を出したものの、簪は基本的に気弱な少女であるし、なにより命を奪い奪われる実戦の経験がない。そのためバナージの指示で、後方支援に徹していたのである。
ビーム・サーベルで斬り付けるバナージのシルヴァ・バレト。しかし黒いISはそれをものともせず腕で吹き飛ばしにかかる。
食らえば致命傷となりうる一撃を、局所的に任意展開したバリアで逸らし、ビーム・ガンを斉射する。
ギュゴゴゴゴゴッ!という音ともに、ビーム・ガンが連続で炸裂し、シールドを削り取る。
そして一気に離脱すると、ビーム・セミマグナムを再展開、射撃する。
しかし黒いISは明らかにおかしい関節の駆動でそれを回避すると、そのまま強引に振りかぶりバナージを吹き飛ばした。
「ぐぅぅあぁぁッ!!」
PICで無理やり空中で持ち直したバナージを黒いISは追撃へ向かう。
レボルビング・ランチャーが火を噴くがそれをものともせず黒いISは向かってくる。
もう一度離脱を試みるバナージだったが、下からビーム砲が飛んでくる。
一夏と鈴と交戦していた黒いISのビーム砲だ。
偶然の流れ弾。それを避けるためにスラスターを止める。
しかしISは3次元機動が可能だ。PICとスラスターを全出力で吹かし上に逃げようとする。
しかし、それを狙っていたのはバナージと元々交戦していた黒いISだ。
ビーム砲が放たれ、それを躱しきれなかったバナージ。その隙に黒いISが掴みかかり、殴打を繰り返す。
急速に減少するシルヴァ・バレトのシールド・エネルギー。
ただでさえシルヴァ・バレトは連戦と負荷のかかる高速機動を繰り返しており、それに重なった先ほどの回避駆動。
試験機であるシルヴァ・バレトはすでに限界を迎えていた。
現にバナージの視界には警報が鳴り響き、赤と黒の斜線で縁取られた重度警告ウインドウが幾つも表示されていた。もう機体には数か所となく機能不全を起こした箇所があった。
ビーム・ガン。スラスター。装甲。
やがて黒いISは簪からの攻撃を警戒したのか、シルヴァ・バレトを投げつけるように放り投げた。
打鉄弐式の横を掠めたボロボロのシルヴァ・バレト。すでにシルヴァ・バレトは微動だにしなかった。
実はバナージは先程の無理矢理な出力の回避駆動で殆ど気を失っていたのだ。
ISには瞬間的な最大速度を引き出す『
その時気を失ったのは一瞬だったが、これまでの疲弊が重なり、ついにバナージは殆ど気絶した状態になっている。
打鉄弐式を見つめる黒いIS。
簪はこの戦いで、バナージに信頼関係を覚えていた。
彼は簪より強かったし、優しかった。それにこんな状況になっても、冷静に指揮を執り、最前線で戦っていた。
そう、彼はまるで簪が憧れた――――――
一縷の希望を失ったときの絶望はより深いというが、バナージという希望を失った簪の絶望もまた深かった。
そもそも簪は警報が鳴った時に立ち竦んでいた。そんな臆病な彼女を連れ出していったのがバナージだったのだ。
別にそのことは間違っていないし、恨んでもいない。
ただ元々簪はそれに耐え得る精神を持っていなかったのだ。
警戒してなのかこちらへゆっくりと近づいてくる黒いIS。
簪はただ立ち尽くして見つめることしか出来なかった。
その時、一発のビーム砲が黒いISに命中した。
見覚えのある強力なビーム。その方角には――――――――!