機動戦士ガンダムIS(インサイド・ザ・ストラトス) 作:見知らぬとまと
バナージは、日も沈んだ旅館の一室で目を覚ました。
「ん・・・・」
僅かに痛みの残る体を起こすと、傍らの少女が目に入る。
「簪さん?」
ホロモニターを見つめていた簪は、声を聴いたとたんに跳ね上がり枕元へと駆け寄ってくる。
「バナージくん!大丈夫!?」
簪の心からの心配が伝わってきて、バナージは苦笑いで返す。
「うん。ISの性能のおかげで。
ところで、あのISは――――?」
しかしそれに続けた問いには、簪は俯いて答えた。
「―――リンクスくんの交戦したIS、『
その先が芳しくない『現在』だということを、バナージは察した。
「『福音』の
不定形のエネルギー翼に触れたエネルギーを吸収する能力で、それに気付くまでに『福音』のシールド・エネルギーは殆ど回復。
その上実弾で攻めても、こちらがエネルギー翼から攻撃を
『ブルー・ティアーズ』はエネルギー兵器に依存している特性上ほとんど戦力外。
『甲龍』は近接戦を挑んだが、翼による抱き着きでほとんどシールド・エネルギーを損耗。
『ラファール・リヴァイヴ』と、『シュバルツェア・レーゲン』はセットで後衛。
『白式』は残り少ないエネルギーで4機の護衛。
『紅椿』、そして『νガンダム』は空中で前衛を務めている。
しかし、各国の最新技術の粋を結集した専用機で堕とせなかった『福音』を堕とす戦力がすぐに動かせるはずも無い。故に――――――増援は絶望的。
そんなとき、バナージの端末に通話がかかってきた。発信元は―――倉持技研。
「はい、こちらリンクスです」
『倉持技研、MIS担―主任――だ。リンクス。米軍のISと―――ったってい――はIS学園だな?』
「はい、そうですが・・・」
『すまない、電波が―――瞭だ。率直に言う。』
ミノフスキー粒子下のようなノイズ交じりの回線の中、彼は狙ったようにノイズが一瞬晴れた時、決定的な一言を発した。
『RX-0を受領する気はあるか?』
「お願いします」
『OK。そちら―――師に――渡す。
コアは入ってないから、―――――――レトのコア―――してくれ。』
「そ、そんな。無茶だよ、急にコアの装着だなんて」
隣の簪が慌てていたが、バナージはもう心を決めていた。
『やり方のメモは―――の装甲に挟ん―おく。ア――――高専に通ってたんだろ。そんくらい出来る筈だ』
「分かりました、やります」
返事を聞くや否や、ぶちっ、と通信が切れた。
これは回線によるものではない、一刻も早く動くためだ。
バナージは体を布団から起こし、送られてきたデータを睨むように読み込んでいく。
「リンクスくん・・・行くんだよね?」
「もちろん。俺が行かないわけにはいきませんから」
纏う雰囲気もパイロットとしてのものに変わったバナージの手を握り、簪は言った。
「私も行くよ」
彼女は一歩、前に進んだ。
__________________
・・・・懐かしい夢だ。
まだ一年戦争が終わって間もないころ、アナハイム高専の卒業式にはひとりの青年が立っていた。
「―――――。
そして自分は、ここで学んだかけがえのない知識を基に、ミノフスキー博士のような革新をもたらしたいと思っています。
そして、ここで共に学んだ仲間たちと、その技術が生かし、人々が未来に夢を描く、ロマンのある社会を創りたいと思います。
先生方、並びに技術指導をしてくださったアナハイムの皆様。そして学友への感謝を以て、卒業生代表の挨拶と代えさせて頂きます。」
しかし、再び幾度も戦争が繰り返され、プチモビ開発で多大な業績を上げた自分が兵器開発の部門に配属されるのは半ば当然の成り行きと言えた。
夢に描いた未来とは遠く離れた日々。
しかし、やがて転機が訪れる。
カーディアス・ビスト直々の招集。
彼に与えられた仕事は、『未来を託すに値する、一機のガンダムを創る』こと。
そのためのシステム、『NT-D』システムを創る一員となることだった。
そこからは機密統制のためビスト財団の管理下に置かれ、しかしそれをはるかに上回り有意義な日々が続いた。
「やはり、NT-D発動時の固定はかかるGの大きさを考えると、この強さが適正だろう」
「いや、その強さだとインテンション・オートマチック・システムの駆動に悪影響があるかもしれない。もう少し締め付け感がないようにこの位が」
「強さはそのままに、内部材質を変えりゃーいいんじゃねーの?なんかいい感じの技術が水中機の製作部門になかったっけ」
志を同じくする友と、未来を切り拓く仕事へ取り組む。
これこそが、最も強く求めてきたものだった。
やがて、アナハイム側からビスト財団特別チームへ機体が届き、数回目の『NTーD』稼働実験でテストパイロットとなった。
「計器異常なし。これより『NT-D』ver4.2~稼働実験へ移る」
非ニュータイプの使用のため、マニュアルで感度は最大に。
モニターが特徴的な表示に染まり、『NT-D』システムが動き出した、その時。
『『NT-D』が暴走している?!』
『サイコフレームがオーバーロードしてる!早く切れ!』
『外部から切断試してます!』
そんな同僚たちの声を最後に、俺は意識を失った―――
____________
倉持技研、MIS研究室。
IS開発企業にしては極めて珍しく男性の多いこの部署では、各員が慌ただしく動いていた。
「ビーム・マグナムは!?今カートリッジはいくつ出せる!?」
「25だ!まだメガ粒子がここまで手が回ってない!」
「トンファーは!?動作確認どうなってる!?」
「両腕とも耐戦闘テスト済ませた!」
慌ただしく動く部下を尻目に、開発主任である彼は椅子にもたれかかっていた。
仕事を押し付けているようにも見えるが、むしろ逆。
おおよそ組みあがっていた『RX-0』をνガンダムのデータが送られてから調整していたところ、IS開発企業の特権で飛び込んできたIS襲撃のニュース。
そこから一気に最終調整まで済まし、OS面を最後の仕上げ。
そこまでの作業の内、手のかかる困難な作業や部下のミスを一人で背負い、一気に完成までこじつけた彼に、部下たちは『これ以上は俺たちでやりますから、休んで!』と、休みを押し付けられてしまったのだ。
「あんたも無茶するねぇ。そんなに『ぼくのかんがえた最強のIS』が見たかったのかい?」
「『ぼくたちでかんがえた最強のMIS』だ、間違えるな。」
そんな彼に後ろから話しかけてきたのは、旧知の仲であるテストパイロットの遼子だ。
「あんた、
大切どころの話ではない。あの機体は、自分の人生そのものだ。彼は思った。
いまでも自分の作業用机には、あの時にポケットに入れていた当時の『RX-0』のデータが入ったUSBが保管してある。
当然、このMISにもあのシステムは―――
「んじゃ、送るのは任せな。あんたはゆっくり休んでなさい」
「済まねぇ、後は頼んだぜ。」
この女尊男卑の生きにくい世界。
結果を出す自分を妬み、テストパイロットも融通されにくい自分に、対等に自分と分かり合ってくれる彼女は――絶対に言わないが――かつての同僚と同じく、大切な存在だ。
世界を渡ってなお、夢を追ったある名もなきメカニックが作り上げた『RX-0』は。
彼の信頼するISのテストパイロットへと託され。
そして本来のパイロットたる―――かの青年へと託される。