機動戦士ガンダムSEED Natural Gifted 作:風早 海月
「デュエル、バスター、ジン、なおも接近!」
「っ!」
アークエンジェルは危機感が募っていた。本隊であるガモフとヘルダーリンを中心として包囲網を作ったものの、第八艦隊の奥深くまでデュエルとバスター、さらにビーム装備のジンが突貫していた。
『ミゲルか!』
『足つきを落とす!だろう?』
『ああ、お前たちを援護する。足つきに行け!他は俺が引き受ける!』
たった一機のジンで、第八艦隊を相手にする。それが無謀なことはミゲルも承知だ。だが、ここで本隊に合流すると確実に母艦を包囲するだろう。母艦を失った機動兵器ほど孤独で怖いものは無い。しかも、放っておくとイザークとディアッカが通信をどうせ聞いてないか無視しているので、2人だけで突貫するだろう。
ミゲルはそれは避けたかった。
「……アークエンジェルを地球に降ろします。大気圏降下シークエンス準備!メネラオスに打電!」
「ですが、艦長!」
「第八艦隊にとって我々という護衛対象はお荷物です!」
『あー、艦長!俺たちを出せ!少なくとも降下の時間くらいは稼いでやる!』
『フラガ少佐!…俺たち?』
『僕も行きます!』
『キラ君!?なんで…』
『いいから出せ!』
『ストライク、メビウス・ゼロ、発進させろ!フェイズ3までには戻れよ。メビウス・ゼロもストライクも一応単機での突入が可能とはいえ、やったやつはいないんだからな!』
「バジルール中尉!」
アークエンジェルクルーは全員が1階級昇進して、船籍も与えられた。
ラミアス艦長も、戦艦の艦長としては中佐辺りが妥当なところだが、問題ない階級にはなった。
「くっ、直ちに降下シークエンスへ!」
☆☆☆☆☆
イザークのデュエルがストライクと。
ディアッカのバスターがメビウス・ゼロと。
それぞれが1対1で戦う中、ミゲルは苦しい戦いを強いられていた。敵陣ど真ん中ということもあり、流れ弾で撃破数こそそこそこあるものの、飛んでくるミサイルの迎撃回避だけで精一杯なのに、そこに対装甲リニアガンや戦艦や護衛艦のビームが飛んでくるのだ。
「クソ!」
ガモフは第十三艦隊を引き付けている。
そして、彼ら3機は第八艦隊を釘付けにする必要があった。
メビウスだけでも100を超える数があった。
「だとしても…!」
今ほど突撃銃が恋しいものは無い。バルルス改特火重粒子砲では弾数が少ない。
「チィっ!」
ジンの正面はイーゲルシュテルンでもある程度耐え、メビウスの40mmバルカン砲に至っては背面部でも抜くのは難しい。
だが、ミサイルや対装甲リニアガンでは撃ち抜かれるし、ビームなんて以ての外である。
だからこそ、回避と防御に徹しているのだが、バルルス改特火重粒子砲も残弾もあと少しとなった。
「イザークッ!まだか!?」
余裕を失い、通信がオフになっているのに気付かず、喚くが、もちろん返事が来ることは無い。
「クソッタレめ!おぉちろぉぉおお!」
バルルス改特火重粒子砲の最後の一撃で護衛艦を撃沈したものの、もはや遠距離武装は無かった。
バルルス改特火重粒子砲を放棄して、左腰にマウントしてあった重斬刀を右手に握る。
「うぉぉぉおおおおお!」
重斬刀を片手にAMBACを多用してメビウスや艦船からの攻撃を避けつつ切り裂いていった。
☆☆☆☆☆
『あれはやばいっしょ。ルイス、ここ頼んだ!ヘルダーリン!重突撃機銃と予備弾倉4つ!射出してくれ!』
『へ?ちょ、ウソでしょ!?』
『承知した。』
ラスティは両手に持った115mmレールガン シヴァに予備弾倉を取り付けつつ泣き言を言う。
第十一艦隊は定数的には1個艦隊だが、メビウスの量が多いのだ。これは旗艦の他にもアガメムノン級が7隻も擁しているからである。
1隻で30機のモビルアーマーを運用できる大きな母艦である。計8隻のアガメムノン級と他多数の戦艦と護衛艦、全てのメビウスを含めると330機程のメビウスがいる。
他の隊よりも個の力が強いクルーゼ隊とは言え、この数の暴力は厳しい。
技量的には可能でも、物資が間に合わない。
『アマルフィ分隊長へ。このままでは推し負けます。ヘルダーリンを全面に押し出しつつ敵中に混ざるしかありません。後方に出れれば、ナスカ級の快速性を活かして離脱できます。』
『……それしかありませんか。分かりました。各位、補給を受けた後、ヘルダーリンと歩幅を合わせつつ全速で第十一艦隊に混ざります。恐らく敵は縦深陣を仕掛けてくるでしょうが、それを突破する他に活路はありません。アマルフィ分隊は敵中突破します。』
今更、背を向けて第十三艦隊や第八艦隊を抜けるのは難しい。回頭した瞬間に狙い撃ちにされるのは目に見えている。
しかも、第八艦隊の位置取りが上手く、抜けたとしても、引力を抜け出せないだろう。
『行動開始してください!』
☆☆☆☆☆
『ラスティ、どこへ行くのだね?』
『ミゲルに補給と援護です!』
『要らん。奴らは命令を無視してでも殿となることを選んだ。それだけだ。アスラン、そろそろ我らもニコルたちに合流するぞ。イザークとディアッカならば最悪大気圏突破も出来るからな。心配するな。』
『……はい。』
『ラスティ、いいな?』
『っ……はっ。』
『ゼルマン、第十三艦隊は頼むぞ。5分でいい。』
『はっ!』
『ああ、ゼルマン。例の件も頼むぞ。』
『お任せを。』
第十三艦隊を引き付けていたガモフ共に戦っていたアスランとクルーゼもアマルフィ分隊に合流する方向に急ぐ。
それに伴うラスティもまた、来た道を戻る。重突撃機銃と予備弾倉を第八艦隊の方へ投棄して。
ラスティは赤のヘルメットを外して、溜まってしまった水滴をコックピットに飛ばしたのだった。
☆☆☆☆☆
『こちらヘルダーリン、敵陣突破。繰り返す、我、敵陣突破。総員着艦せよ。』
何とか第十一艦隊を突破した時、クルーゼ隊にはもはや継戦能力はないに等しかった。
リーサとリズの2人は被弾してヘルダーリンの装甲板に打ち付けられ、ニコルとアスランはエネルギー切れでフェイズシフトが落ち、ラスティはバッテリーの持ちはあまり気にされない燃費であるジンのバッテリーをほぼ空にし……せいぜいイヴのプロトゲイツとクルーゼのジン ハイマニューバだけが多少の余力を残していた。
ヘルダーリンも艦の稼働率82.4%と、大きく損傷していた、が、命綱であったメインエンジンだけはベルモンド艦長の腕で守っていた。
何とか離脱して、ブリーフィングルームに集まったパイロットたちは目が虚ろであった。
リーサに至ってはリズの補助が無ければ移動出来ない程の打ち身と足の骨折を起こしていた。
「報告。」
「ザラ分隊はコーネリアスが撃墜、イザーク・ディアッカ・ミゲルの3人が未帰還、母艦のガモフは撃沈です。」
「アマルフィ分隊は全機帰投しましたが、損耗はかなり…ヘルダーリンもエンジンこそ無事でしたが……」
「ではコーネリアス・ケントをMIA認定とする。未帰還3人は1週間後までに音沙汰なしの場合は同様とする。」
クルーゼもこの戦いで数歳年老いたように、イヴには見えた。イヴはパイロットスーツの胸の当たりをギュッと握りしめる。
ブリーフィングルームから各々が出ていくと、残ったのはクルーゼ親子だけだった。
「パパ……これ以上戦わないで。」
「なぜだね?」
「……パパ、命を削って戦ってるでしょう?」
クルーゼは顔をピクリと反応していまう。
「パパの分は私が戦うから…お願いだから私を1人にしないでよぉ……」
イヴはクルーゼの腹に飛び込んで泣きわめきながらクルーゼにお願いするのだった。
いくら天才と言えども、家族を失って、知らない土地で拘束されて、また別の土地で暮らすことを強要されて、また戦火に巻き込まれる。
その中で会えた肉親、しかもほとんど親である肉親である。クルーゼに依存することはある意味必然であり、偶然であった。