機動戦士ガンダムSEED Natural Gifted 作:風早 海月
砂漠の虎
ほぼ壊滅状態と化していたザラ分隊の行方不明3人だが、3人ともジブラルタル基地に保護された。単独での大気圏突入が不可能なジンで、なぜミゲルが生き残ったかと言われると、クルーゼがゼルマンに頼み事をしたことが鍵である。
ガモフを初めとするローラシア級のモビルスーツ格納庫はそのまま大気圏突入カプセルとして運用できる。イザーク達が敵陣ど真ん中に突入しているのを見た時にはクルーゼはガモフの大気圏突入カプセルを使うことを決断していた。
足つきことアークエンジェルが降り立った砂漠の地。それを追撃するべく、降り立ったのはイヴとリズの2人だった。
クルーゼとアスラン、それからニコルは連戦続きであったため休暇である。
「暑い。」
これは降下したクルーゼ隊の心の声をイヴが代弁した言葉である。
ジブラルタル基地に降下してすぐに、イヴはジブラルタル基地の端に花を手向けた。その後、バルトフェルド隊と合流した。
「ようこそ、砂漠の地へ。北アフリカ駐留軍司令官のアンドリュー・バルトフェルドだ。」
「クルーゼ隊アマルフィ分隊のイヴ・ラ・クルーゼ以下2名、並びにザラ分隊のイザーク・ジュール以下3名、着任しました。指揮代行は私に任されております。」
「ふむ、いい目だ。諸君、コーヒーはどうかね?」
駐留軍の司令部が置かれている大きな豪邸の一室。
「砂糖多めのカフェオレでお願い出来ますか?」
少しだけ目を輝かせながらイヴがバルトフェルドに頼む。
「ふふははは、まだ苦いものはダメか。バルトフェルド特製カフェオレ砂糖増しで作ってやろう。そっちのお嬢さんはどうするかね?」
「私は…砂糖半分でお願いするわ。」
「よし来た。」
ちなみに、イザークたち3人はここに来ないで、地上戦への適応訓練を受けている。
「あら、新人さん?」
「いんや、彼らはクルーゼ隊の諸君さ。」
「そう。」
「こいつはアイシャだ。私の恋人でね。射撃の腕は私以上だよ。」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。」
ちょっと独特なイントネーションの美人な女性はアイシャといい、バルトフェルドの恋人であり、凄腕の砲手なのだ。あの美貌を作るのにどれだけの遺伝子操作をしたのやら。
「……めんく―――」
―――パシッ
思わず漏れそうになったイヴの口をリズが抑える。決してバルトフェルドが面食いな訳では無い…はずだ。そう信じたい。
出てきたカフェオレは砂糖抜きになっていた。
☆☆☆☆☆
今回イヴたちには新しい機体が配備されていた。
イヴとリズはラゴゥ 強襲型。
ミゲルはディン。
ディンは装甲こそ薄いが、偵察戦で散見したらしい支援航空機に対応する機体としては最適だろう。
そして、イヴとリズはラゴゥの強襲型だ。通常のラゴゥとの違いはイエローフレームで得た発泡金属による軽量化とハードポイントの増加による武装の増加だ。
武装は2連装ビームキャノン、2連装ビームサーベル、クロー、400mm2連装ミサイル発射筒14基、115mmレールガン シヴァ 2門。
リズが機長で、イヴが砲手だ。これは、イヴの格闘戦技能がすこぶる悪いせいだ。イヴの真骨頂は大局的に相手の嫌なところに攻撃を『置く』のが得意なのである。だからこそ、高機動戦や遠距離砲撃戦などが得意で、遠距離戦では命中率こそキラを多少上回る位だが、外している弾は『置き弾』であり、無駄な外れ弾では無い。
「動き出しちゃったって?」
「はっ、北北西に向けて進行中です。」
「タルパディア工場区跡地に向かっているか……ま、ここを突破しようと思えば僕が向こうの指揮官でもそう動くだろうからねぇ…」
「隊長!」
「う〜ん、もうちょっと待って欲しかったが…仕方ない。」
「出撃ですか!」
「ああ…レセップス発進する!ピートリーとヘンリーカーターに打電しろ!」
「はっ!」
「バルトフェルド隊長、我々も出撃準備に入ります。Gの2機はレセップス艦上で攻撃に徹してください。バルトフェルド隊長の指揮に従ってください。ミゲルさんは航空戦です。地上の熱対流や独特な気流に注意を。リズ、行きましょう!」
イヴは最低限の指示をクルーゼ隊に対して出すと、直ぐにラゴゥ強襲型に向かう。その後ろを慌てて追いかけるリズは、ここ数日イヴの出すピリピリとした空気に当てられていて、なるべく怒らせないように動いていた。ちなみに、男連中はそのピリピリ感を感じておらず、リズはちょっとイラッとしている。
『バルトフェルド隊長、私たちは先に出ます。』
『了解した。レセップスの砲撃で地雷原を潰すから、驚かないでくれよ。』
やはりユーモラスなバルトフェルド。通信画面に出ていたイヴが持っていた腹ごしらえ用のケバブを見てバルトフェルドが気づく。
『お、ケバブにヨーグルトソース、味のわかる子はいいねぇ。』
『バルトフェルド隊長、私はチリソースの辛みが苦手なだけです。普段はかけない派です。』
『バカな…ケバブにソースをかけないなんて冒涜だよ!』
イヴがキレるんじゃないかとハラハラしながら後ろの操縦席に座るリズ。
リズはこれが終わったら胃薬を絶対に貰いに行くと決心するのだった。