機動戦士ガンダムSEED Natural Gifted 作:風早 海月
「これより遠距離砲撃戦に移行します。アンチビーム爆雷投射!ゴッドフリート、バリアント、照準!ナスカ級!特装砲は?」
「25分ほどの再装填時間が必要です!」
アークエンジェルが逃げ切ることだけを考えるならば、ヘリオポリスの崩壊を引き起こした方がいいだろう。その方が熱源特定をされづらい。
だが、ここにいるのはハルバートン提督の教え子だ。軍人として、人として、何をすべきかを考えられる人たちである。
「艦尾ミサイル発射管、全門スレッジハマー装填!岩礁方面に投射!熱源センサーパッシブ!目標はナスカ級だ!諸元入力しろ!」
『カタパルト1番開いてください。コンジット接続してアグニで砲撃戦に参加します!』
『了解。アグニもデッキに搬入しておく。』
『こちらX105ストライク。キラ・ヤマト。…僕も行きます。』
『キラ…』
『2番カタパルト開いてください。予備のランチャーストライカーを!……イヴみたいな小さい女の子に、全て任せるなんて出来ないよ。イヴも卑怯だよね。』
『……今更だよ?……キラ、ソードのシールドも持った方がいい。デッキの中が被弾したら大変なことになる。カタパルトに飛び込みそうな攻撃は迎撃かシールドで受け止めないとダメだよ。』
『分かった。』
特装砲ことローエングリンに比べれば火力は下がるが、主砲のゴッドフリートMk.71よりも単発火力は高い。さらに、連射性も艦上で砲撃戦に使うならば比較的良好だ。
「攻撃始め!」
「ゴッドフリート、バリアント、スレッジハマー、全射線てぇ!!」
ラミアス艦長の命令の瞬間、CICでバジルールが射撃を開始した。
同時に、2本のアグニも火を吹いた。
「各射線、準備出来次第、順次発砲!」
☆☆☆☆☆
ヴェザリウスとガモフは、アスランとミゲルを受け入れた後、直ぐに残ったモビルスーツ―デュエル・バスター・ブリッツの3機をガモフから発進させようとした。
だが、その前に砲撃戦が始まってしまった。
「主砲、副砲、撃て!」
「……アデス、ヴェザリウスをガモフの前に出せ。」
「は、しかし…」
「今戦えるのはあの3機だけだ。ミゲルは被弾し、アスランはエネルギーの問題。ラスティは機体がない、私も機体は本国修理が必要だ。その点、ガモフの3機ならば戦える。ヴェザリウスを盾にしてもガモフのモビルスーツ発進を援護しろ。」
「は。」
「イージスも充電完了次第発艦させる。準備を怠るなよ。」
「はっ!」
☆☆☆☆☆
「ナスカ級、ローラシア級の前に出ます!」
「火力集中!ローラシア級からモビルスーツが来るぞ!」
『……坊主、艦内に下がれ。ランチャーを置いて、エールに換装だ。リニアカタパルトで発進したら敵のモビルスーツを抑えろ。撃破しなくていい。アークエンジェルに近寄らすな。いいな?』
ムウはこの中で最も実戦経験を持つ士官であり、直感の鋭さは折り紙付きだ。
「艦長、ストライクの出撃、許可貰えるな?」
「…なぜストライクなのですか?」
「坊主の方が命中率が悪いからだ。」
ゴッドフリートの照準射撃をしていながら、きちんとモビルスーツ2機の砲撃も見ていた。
「…そう。…面舵20!最大戦速!30秒後、ロール角左15!ナスカ級をクロスファイアポイントへ誘導して!」
そう、先にばらまいておいたスレッジハマーの罠を使うのだ。
『こちらストライク、エールを装備しました。』
『左から来るぞ!』
探知担当からもたらされた情報から、機体を翻すキラ。
(…あの船が沈められれば………)
学友たちの笑顔が、日常が、頭をよぎる。
「ええい!こっちに来るなぁ!」
☆☆☆☆☆
「ぐぁあぁああ!」
ヴェザリウスのブリッジ内が真っ赤に染まる。
「右舷に被弾!艦の稼働率69%まで低下!」
「機関は!」
「右舷スラスタが喪失しかけています。操舵不能になりかねません!」
「くっ!」
アデスは歯を食いしばる。火力が比較的低いナスカ級で善戦はした。一般的に艦同士の戦いにおいて、地球軍の方が優秀なのは否めない。その中で、出来うることはした。
装甲はあちらの方が優秀。
火力もあちらが優秀。
速度はほぼ変わらない。
決定的なのは、岩礁に潜ませられていた対艦ミサイルに引っかかったことだ。子供だましな作戦だったが、逆に考えていなかったのだ。
「イージスは!」
「今、整備終わりました!」
「隊長…」
「イージス発進。その後、最大戦速で敵艦横を突っ切れ。反航戦だ。ヘリオポリスを盾にして離脱する。ガモフには追撃を命じろ。」
「はっ!」
『イージス、作戦終了後はガモフに収容を。また、右舷の被弾が激しく、リニアカタパルトの展開が不能である。自機の推力のみで発進せよ。』
『了解…アスラン・ザラ、出る!』
☆☆☆☆☆
「陽電子チェインバー、再充填完了!」
「ローエングリン1番、発射準備!目標、ナスカ級!」
「ナスカ級、モビルスーツハッチ開いてます!」
「X303イージス!」
「構うな!」
「ローエングリン、照準……てぇ!」
イヴの第1カタパルトの真下から伸びるビーム。その威力はアグニを大きく上回っていた。
「命中!」
そのビームは真っ直ぐに長く、太く、ナスカ級のモビルスーツハッチに突き刺さっていた。
☆☆☆☆☆
アスランは冷や汗をかいていた。
あと数秒遅ければ、あの
『こちらイージス。ヴェザリウス!応答願います!ヴェザリウス!』
『……こ…ら……リ…ス………』
『ヴェザリウス!』
『こち…気にす…ザッ…ンエン…やられ……だ……』
ヴェザリウスはモビルスーツデッキを貫通して、メインエンジンを撃ち抜かれていた。幸い、艦の主だった機能は両舷と下部に伸びた部分に多くあるため、モビルスーツが全損したのとエンジンが抜かれただけで済んだ。
が、モビルスーツハッチの真上にあるブリッジはその余波でボロボロであった。
「ぐっ…クルーゼ隊長。ガモフへお移りください。本艦は大破、自力帰還不可能です。」
飛んできた艦の破片が、アデスの身体を叩いていた。他のオペレーターたちも意識を失っていたり…はらわたが顕になっていたりする。
クルーゼ自身はアデスに庇われて無事ではあった。
アデスは艦長席に座り直し、手元の割れたデバイスを操作する。
「幸い、左舷の内火艇は無事です。ですから……」
「ここで死ぬならそれまでの男だったということだ。ガモフに打電、打てるか?」
「本艦のNジャマー干渉は止まっています。」
「戦闘停止だ。ヤツら、機体を収容した。離脱する気だな。…ガモフではトレース出来ん。」
「はっ。」
(ふむ、モビルスーツ発進前に艦対艦戦闘になると競り負けるか……)
これがネルソン級などならまだ何とかなっただろうが、アークエンジェル級の装甲と火力と速度を甘く見てはいけない。そう確信したクルーゼだった。
アークエンジェル側が不利でない序盤がダメだと誰が決めたのかね?
発進中の攻撃はDestinyの方でもありましたよね。
なお、ローエングリンの使用は特定条件が厳しいので、今回みたいな事例は少ないでしょう。
休日が終わったので、更新はまた今度。