あつい……
外からは蝉の鳴き声が絶えず聞こえてくる。
冷房の故障した、地獄の教室の中で動く気力を完全に削がれていた。
「なぁ葉助――夏休みどうするよ?」
「特に予定はないな~」
そう、僕達は夏休みで青春を謳歌できるようなリア充ではないのだ。
野朗二人で出かけても空しさだけである。
「どうした?」
机に突っ伏している僕達を見て、レイが話しかけてきた。
「夏休みの予定についてさ。 レイは何か予定あるの?」
「いや、私は特に無いが。」
これは予想外。
大方、予定ぎっしりだと思っていたのだが。
「やぁ青少年、青春してるかい?」
そんな会話の中、急に教室の中へ兄さんが乱入してきた。
「こんな所に何しにきたんです?」
寮の手伝いや新しい仕事探しで忙しいはずの兄さんが、何故ここにいるのだろう?
まぁいつもの如く、そういう気分になって来たのだろうが。
「いやぁ~、君達に青春を分けに?」
『……』
その一言に場の空気が凍りついた。
「いや、一斉に黙らなくても……」
焦りながらもポケットから地図を取り出した。
「この島にさ、皆でキャンプでもしようかってお誘いなのさ。」
「そういうのは最初から言ってもらえませんか?」
「――すまん。」
申し訳なさそうに兄さんが謝る。
お誘いは嬉しいがそういうノリはちょっと……
「レイと健司はどうする?」
「予定もないし私も行くぞ。」
「俺も特に予定はないしな。 折角だから誠先輩に特訓してもらうぜ!」
それってキャンプに出かけなくてもできるんじゃ……
ともあれ、僕達の夏休みの予定が急遽出来上がったのであった。
「わぁ……」
僕達の目の前には海に囲まれた島。
今は引き潮の関係で、陸から島までの道が出来上がっている。
自然が作り出す奇跡というものだ。
「な、凄いだろ?」
得意げに兄さんが胸を張る。
いや、別に兄さんがすごいわけでは無いのだが……
しかし関心して騒ぐ健司と得意げな兄さん。
理想的な先輩後輩像が目の前で展開されている。
なんというか、このバカ二人はお似合いである。
「こういうのも悪くは無いな。」
そう呟いて、レイが先導して進んでいく。
僕も馬鹿な2人を置いて後に続いた。
―――
――
―
「あの二人まだやってるよ。」
島にたどり着いた僕とレイだが、あの馬鹿二人はまだこちらに来ない。
まだあのやりとりをやっているのだろうか?
「どうする?」
このまま待っているわけにもいかないし。
かといって置いていくわけにもいかない。
そうしているうちに、向こうから健司が走ってくる。
「はぁはぁ……」
「遅いぞ健司。」
息を切らして膝に手をついている。
急にどうしたのだろうか?
「誠先輩が忘れ物したみたいでさ、先に行っててくれるか?」
やはりお馬鹿だった。
「……わかったよ。」
「わりぃな! 俺付き合ってくるわ。」
そう言って健司は引き返していった。
僕とレイはお互い呆れた顔で奥へと進んでいった。
木々が生い茂る中をひたすら前に進む。
「あつい……」
日陰を歩いているものの、まるで熱帯のような蒸し暑さが容赦なく襲ってくる。
「すまない、何か飲み物はあるか?」
額から汗を流しながらレイが尋ねてくる。
僕は背中に背負ったリュックから水筒を取り出した。
「レイ、顔色が悪いけど大丈夫。」
水筒を受け取ったレイは軽くふらついている。
顔色もよくない。
「大丈夫だ。」
「いや、少し休んでいこう。」
もはや耐久遠足にきたような感じになっていた。
当初の予定とはなんだったのか。
「予定のキャンプ場所までまだあるなぁ……」
僕は兄さんに渡された地図とにらめっこをしていた。
正直アバウトすぎてよくわからない。
――このへん とか印がしてあるし。
レイは日陰で木にもたれかかっている。
「すまないな……」
「気にしなくていいよ。」
しかし、なんだろう?
さっきから妙な既視感を感じる。
”大丈夫か? ――は身体が弱いからな”
ん……?
――気のせいだろうか。
「それよりさ、レイって身体弱いの?」
なんとなく、そう尋ねてしまった。
「昔はな……」
そう答えが返ってくる。
「今は?」
「多少体力に難あり、という所だ。」
「へぇ……」
そういえば、レイとはこういう他愛のない会話をするのは初めてかもしれない。
せっかくの機会だし、色々と話してみよう。
「ここに来る前はどうしてたの?」
「ふむ、今とそう変わらないな。 書物を読み漁ったり、訓練をしたりだな。」
確かに今と変わらない。
毎日見ているが、本当にやる事が無いってくらいに勉学のみに励んでいる。
「ん~ ほら、趣味とか無いのかなって。」
「趣味か……」
少し考えこむように俯き、しばらくしてから顔をあげた。
「ないな。」
あ、その……
考えても出てこなかったわけね。
「そ、そっか。」
真顔でそう言われてしまってはそれ以上は突っ込めない。
なんだろう、会話のキャッチボールがうまくいっていないような。
「もう大丈夫だ、そろそろ出発しよう。」
そう言ってレイは立ち上がった。
結局、それほど話を聞くことはできなかった。
「やっとか……」
おそらく地図が示したであろう開けた場所に出た。
確かにここならキャンプをするには最適のようだ。
「企画した本人がいないってのも問題だけどね。」
そう文句を言いながら僕は荷物を広げた。
「私も手伝おうか?」
「そこで休んでていいよ。」
先ほどの事もあるし、レイには休んでいてもらおう。
しかし、兄さんと健司はいつここにくるのやら。
――ぼやいていても仕方ないか。
思考停止して作業を再開する。
―――
――
―
結局テントを一人で建て、食事の準備も一人で終わらせてしまった。
未だに二人は現れる気配はない。
レイは疲れていたのか、小さい寝息を立てている。
空を見上げると、日もすっかり暮れていた。
――少し休んでから、二人きりの食事を終えた。
「結局来なかったな。」
「どうしたんだろうね。」
周りからは虫の鳴き声すら聞こえない。
静寂が全てを支配していた。
まるで世界が僕達二人だけしか存在していないような錯覚さえ覚える。
空を見上げると無数の光点が辺りを照らしている。
「不思議だよね。」
「ん?」
「あの光点だよ。」
僕は空を見上げながらそう言った。
限りのある世界。
天に映っているものは幻。
その先には世界同士の
「お前、意外とロマンチストなのか?」
そう笑って返された。
「幻影に名前があるなんておかしいだろ?」
昼夜という概念は人間達の安定のために作られたもの。
しかし、それは当たり前のように生活に溶け込んでいる。
当たり前すぎて誰も違和感すら覚えない。
誰が生み出したのか。
どうして、そう呼ばれるようになったのか――
「もしかしたら…・・・」
「ん?」
”――誰かがこの世界をを望んだのかもな”
やれやれ、どっちがロマンチストなのやら。