Overline   作:空野 流星

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不吉な予感

二人で見上げる空。

 

どこまでも広がるかのような夜空。

 

いつかした約束。

 

 

”一緒に星を眺めようと”

 

 

今こうして寄り添う二人。

 

 

――違う

 

 

 

”――誰かがこの世界をを望んだのかもな”

 

 

 

違う、この言葉は。

 

 

そう、確か……

 

 

でもそれは――

 

 

 

”でも俺は――この世界が嫌いだよ。”

 

 

 

――暗転

 

 

全て壊れてしまえばいいんだ。

 

 

――こんな世界壊れてしまえ。

 

 

それは憎悪。

 

それは憎しみ。

 

それは悲しみ。

 

それは絶望。

 

 

あらゆる感情が、俺を、僕を、私を蝕む。

感情の奔流に流され、自己が消えていく。

 

 

ワタシハダレ……?

 

――ワレワ

 

 

違う……

 

 

コレは違う……!

 

 

「っは!」

 

 

胸が苦しい。

全身を締め付けられるような息苦しさを感じる。

 

寝具は汗でびっしょりと濡れている。

 

しかし、原因はまったく思い出せない。

何か悪いものを見ていたような不安感だけだった。

 

――まだ意識がはっきりとしない。

 

 

夜風に当たりたい……

 

 

寝袋から這い出てテントから抜け出す。

 

 

――こんな世界壊れてしまえ。

 

 

夏場なのに多少肌寒さを感じる。

 

まだ頭痛が収まらない……

 

 

ふらふらと夜道をさ迷い続ける。

 

 

――こんな世界壊れてしまえ。

 

 

脳裏に何かの言葉がよぎる。

 

 

分からない……

 

 

ただ彷徨う。

何をしているのか分からない。

 

頭痛がひどくなっている気がする。

 

森の中を彷徨う。

あてもなくフラフラと……

 

 

まるで夢の中にいるような感覚。

 

 

「んっ……?」

 

 

目の前に洞窟のようなものが見える。

特に考えもなしに中に入っていく。

 

 

冷えるな。

 

 

身体が冷えると共に頭痛も徐々に治まってきた。

 

 

「あれ、ここは……?」

 

 

自分が今置かれている状況がよく理解できない。

先程までの事がよく思い出せない。

 

 

「戻らないと。」

 

 

とりあえず洞窟のようなので、風の入ってくる方向へと足を進めた。

 

 

「これは……?」

 

 

入り込む風を頼りに進んできたのだが、出口ではなく奥へと進んでいたようだ。

目の前には明らかに人口的に作られた扉が、先に続く道を遮っていた。

 

明らかに異質のソレは進む事を拒んでいるようにも思える。

 

戻るならこの道に背を向けて歩いていけばいい。

だが何故だろう……

 

 

”――ソレを知ってる気がする”

 

 

ドクドク、と心臓が高鳴る音が聞こえる。

 

好奇心は猫を殺す、とはよく言ったものだ。

でも僕は――

 

 

扉に手をかけた。

 

 

取っ手はない。

冷たい金属の感触が手のひらで感じられる。

 

 

――音も無く、扉が横にスライドする。

来客を歓迎するように奥の通路の明かりが灯された。

 

見たこともないような設備が並んでいる。

何故こんなものが、この無人島にあるのだろうか?

 

明らかに不自然である。

 

 

ただひたすらに前に進んでいく。

その足取りに迷いはなく、何かを目指すように動く――本人の意思とは関係なく。

 

やがて行き止まりに遮られた。

行き止まり、というよりは部屋だ。

 

本棚が数多く並び、大きな水槽が7つ置かれている。

 

 

"No1 人型を保てず失敗"

 

 

水槽の側面張られた紙に、汚い字でそう書かれている

 

 

――水槽の中身は濁った水で見えない。

 

 

何か背筋にゾクッとした悪寒を感じる。

 

恐る恐る、隣の水槽に目を向ける。

 

 

"No2 生成後すぐに死亡、原因究明求む"

 

 

「っ……!」

 

 

水槽の中に人骨が漂っている。

おそらくその実験体No2なのだろう。

 

一体、ここでどんな実験が行われていたのだろうか。

明らかに異常である。

 

 

"No3 現在稼動実験中"

 

 

水槽の中は空である。

 

 

成功した実験体のようである。

何を生み出しているというのか……?

 

 

――ズキン

 

 

こめかみ辺りに痛みが走る。

 

嫌な感じだ。

 

 

次の水槽を調べる。

 

 

"No4 暴走したためNo3により処理"

 

 

うぇっ……

 

 

あまりのひどい有様に夕食を戻しそうになる。

頭部を薄皮一枚でぶら下がり、手足はもがれて水槽の中を漂っている。

 

 

No5,No6も似たような状態であった。

そして最後の水槽に近づく。

 

 

――No7

 

 

頭痛が更にひどくなる。

 

 

 

 

 

――で、からの――

 

 

―という、しかし……

 

 

どこかで見た風景。

 

 

―――だと言って――

 

 

――失敗だ。

 

 

何が……?

 

 

――利用――の可能性。

 

 

分からない。

 

 

全ては――だ。

 

 

パリン!

 

ガラスの割れるような音で意識が覚醒する。

 

 

嫌な予感がして振り返る。

 

 

水槽から溢れた汚水が辺りを汚している。

その中央に倒れこむ人型の異形。

 

おそらくNo1だ。

 

 

ピクリ、と一瞬身体を痙攣させる。

 

 

生きているのか……?

 

 

ゴクリと生唾を飲み込む。

何が起きてもいいように、呼吸を整えて臨戦態勢に入る。

 

 

――むくり。

 

 

ソイツが起き上がった。

 

こいつはまずい。

直感的にそう悟る。

 

 

ゆっくりと、気づかれないように来た道を戻る。

幸い、相手にはまだ気づかれていない。

 

 

ウーン! ウーン!

 

 

急にサイレンが鳴り渡る。

 

 

”緊急事態のため、当研究所は破棄されます”

 

 

実に嫌な予感がする。

 

 

”5分後に完全に水没するため、残っている職員はただちに脱出してください”

 

 

どうやら最悪の状態のようだ。

扉に辿りつき、そのまま通路へと走り出す。

 

 

「グォォォォ!」

 

 

先ほどの化け物が唸り声をあげながら追ってくる。

 

 

「なんでついてくるんだ!」

 

 

見た目に似合わず素早い動きで追いかけてくる。

 

 

"ウィンドカッターⅡ!"

 

 

苦し紛れに魔法を放ってみるが多少の足止め程度にしかならない。

それに走りながらでは大技を唱える事すら許されない。

 

どうすれば……

 

走り続けるも、互いの距離はどんどん縮まっていく。

 

 

――その時だった。

 

 

”ファイヤーウォールⅢ!”

 

 

炎の壁が僕と化け物を遮った。

 

 

まさか……!

 

 

「今だ!」

 

 

聞き慣れた声が聞こえる。

間違いない……

 

 

ぼんやりとだが遠くに人影が見える。

 

 

「うぉぉぉ!」

 

 

走った。

 

体力なんて残っていない。

しかし今は……!

 

 

思いっきり腕を伸ばす。

 

 

――プツン

 

 

同時に僕の意識も途切れた。

 

 

 

 

 

それはありふれた風景。

 

幸せな家族の描写。

 

 

僕は椅子に座りながら母親の作るご馳走を待っている。

 

母は微笑みながら好物のハンバーグをテーブルへと並べた。

 

 

僕のためだけに用意されるご馳走。

 

 

”僕のためだけに”

 

 

あぁ、なんて幸せ者なのだろう。

 

僕は最愛の母を独り占めできる。

 

誰にも奪われはしない。

 

 

”誰も奪えない”

 

 

奪われるわけがない。

 

 

だって……

 

 

――で、からの――

 

 

―という、しかし……

 

 

―――だと言って――

 

 

――失敗だ。

 

 

――利用――の可能性。

 

 

全ては――

 

 

誰かの手のひらが近づく。

 

 

”うわぁぁぁぁぁ!”

 

 

―――

 

――

 

 

 

急速に意識が覚醒する。

 

 

「っ……!」

 

 

伸ばした手をレイがしっかりと掴む。

 

 

「うぉぉぉ!」

 

 

そのまま外へと放り投げられた。

ゴロゴロと勢いのまま地面を転がる。

 

 

――はぁはぁ

 

 

止まっていた呼吸が再開する。

不足していた酸素が体中を駆け巡る。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

コクリ、と頷いて、レイの肩を借りて立ち上がる。

入り口を覗くと、奥側が完全に水没している。

 

 

「……」

 

 

アレはなんだったのか。

全ては水の底だ。

 

 

「葉助……」

 

「大丈夫だよ、レイ。」

 

 

色々なものが頭の中を駆け巡っているようだ。

きっとこれは……

 

 

しかし、無情にも答えは――

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