夢を見ていた。
それはぼんやりとしていて、目覚める頃には忘れてしまう儚い夢。
そのはずだった。
――そのはずだったんだ。
これは夢で、普段が現実で……
”その区切りは?”
あの日常が現実で……
”その真意は?”
だから、アレは夢で……
”本当に?”
間違っているのは……
”偽っているのは……”
『お前だ』
―――
――
―
いつにも増して教室内が活気立っている。
その原因は一つ……
「では意見のある者は挙手しろ。」
1年に一度の文化祭の時期だからだ。
「なぁ葉助、お前やりたい事とかあるのか?」
「特にないかな~」
僕と健司は文化祭でのクラス展について話し合っていた。
レイは眠そうに欠伸をしている。
周りの生徒達は騒がしいくらいに意見を出し合っている。
別にこういう行事が嫌いなわけではない。
ただ単にやりたい事がないだけである。
「やっぱりさ、出店とかもやりたいよな。」
「それさ、健司が自分で食べたいだけじゃない?」
「そうそう、タダ食いできるし――って違うわ!」
それが本心だろ、と心の中で突っ込んだ。
「ほら静かにしろ! 結果を発表するぞ。」
どうやら意見がまとまったようだ。
「今年のクラス展は、メイド喫茶とする。」
――どういうことなんだろうか。
何故そんな結果に……
「しかしこれでは不公平ね。」
キャシー先生がニヤリと笑う。
「どうだ? 男子共も着るか?」
急激に周りがざわめきだす。
まぁ先生がいう事が実現してしまったらと考えると……
「流石に冗談よ。 その代わり男子共はしっかり準備をやってもらうよ。」
――よかった。
「でもよ、レイのメイド姿はみてみたかったよな?」
そう健司が耳元で呟いた。
――悪くないかも。
つい想像してしまった。
ちょっと目つきのきつい女子としてなら妥協点だ。
ともかく、今回の文化祭は波乱の予感がする。
――最近よく夢を見る。
いつからだろうか?
とても曖昧で、宙に浮いているような浮遊感。
それでも意識ははっきりしていて、なんとも不思議な夢だ。
もちろんそれを誰かに相談した事はない、する必要もない。
だってこれは夢なのだから。
目覚めれば終わってしまう儚いものだから。
――ダカラ、意味ハナイ
文化祭当日、珍しく僕は寝坊した。
健司とレイは既に学校に向かってしまったようだ。
起こしてくれればよかったのに。
――
―
玄関から出ようとすると寮母さんとすれ違った。
「珍しいわね。」
そう言って笑った。
なんだろう、何か引っかかる。
そう考えつつも、僕は学校へと急いだ。
―――
――
―
教室の前にたどり着く。
メイド喫茶へと改装された入り口が目に入る。
昨日遅くまでかかって準備したものだ。
遅刻しかけたのもそのせいなのだけど……
中へ入ると、着替えを終えたクラスの女子達が開店の準備をしていた。
一方、男子達は、暇そうに教室脇にたむろしている。
「ギリギリセーフだな。」
健司もその中にいた。
「起こしてくれないなんて、ひどいじゃないか」
「いや、起こしても起きなかっただろ。」
そうは言われても……
当然起こされた記憶はないし、実際に遅刻しかけているのが現実だ。
「まぁぐっすり寝てたみたいだしな。 いい夢見れたか?」
「うん、まぁね。」
――確かに何か夢を見ていたような気がする。
「色気のない女子共のメイド姿を見るのもつまんないしな、学校の中回ろうぜ。」
「そうだね……そういえばレイは?」
さっきから姿が見当たらないがどこにいったのだろうか?
「せっかくの文化祭を楽しまないでどうするよ?」
レイの事は気になるが、健司を待たせるわけにもいかない。
「そうだね、まずはどこにいく?」
結局、深く考えず楽しむ事にした。
――だった。
ん……?
間違いだった。
「葉助、どうした?」
「な、なんでもないよ。」
不意に頭の中に浮かんだ言葉を振り払い、健司についていく。
健司はたこ焼きや焼きそばなどを両手いっぱいに持ち歩き、文化祭を堪能している。
というか食い気だけのような……
「そんなに食べてお腹苦しくならない?」
「いや、まったく。」
相変わらず驚かされる食欲である。
その姿に呆れていると、遠くに人だかりが見える。
「何の集まりかな?」
健司と二人で人だかりへと近づく。
そこには見覚えのある老人が、記者に囲まれていた。
黒島市長……
この魔道都市ヴェネティアの市長にしてこのラタトクス学園の学園長でもある男。
そのカリスマ性に民衆にも一目置かれる存在だ。
――視線が合った。
一瞬だけだが、間違いなくこっちを見ていた。
何故?
たまたま? それとも学園の生徒だから?
しかも、彼が微笑んだように見えたのは、それこそキノセイだろうか。
「どうした、葉助?」
健司に呼ばれて我に返る。
「ん、なんでもないよ。」
「今日のお前、なんかへんだぞ?」
――確かにそうかもしれない。
そうかもしれないが……
―は――だ。
「きっと寝不足で頭が働いてないんだよ。」
そう言い訳した。
健司に向けた言葉なのか、自分自身に言い聞かせたのか。
「おい、あれ見ろよ。」
健司が指差した先で、メイド服の誰かが黒島市長と話していた。
あの服は、間違いなくうちのクラス展のものだ。
「あんな子いたっけ?」
「いや、知らないな。」
二人で頭をかしげる。
そこまで人数の多くないクラスだ。
クラスメイトの顔を忘れるわけがない。
「どうする?」
健司がそう尋ねてくる。
僕は……
―――
――
―
「やめておこう。」
こういう事情に触れないのが一番だ。
それが最も確実な護身である。
好奇心は猫を殺すと言ったものだ。
「じゃぁ教室に戻るか。」
そう健司が言った。
――瞬間。
唐突にぼやける視界。
そして、手足の感覚が消失していく。
まるで自分が消えていくかのような……
”なんだこれ……?”
セカイガマワル
動いているのは自分?
ワカラナイ……
徐々に蝕まれる思考。
アァ、何モ……
――プツン
意識が途絶した。
―――
――
―
――最近よく夢を見る。
いつからだろうか?
とても曖昧で、宙に浮いているような浮遊感。
それでも意識ははっきりしていて、なんとも不思議な夢だ。
もちろんそれを誰かに相談した事はない、する必要もない。
だってこれは夢なのだから。
目覚めれば終わってしまう儚いものだから。
――ダカラ、意味ハナイ
文化祭当日、珍しく僕は寝坊した。
健司とレイは既に学校に向かってしまったようだ。
起こしてくれればよかったのに。
玄関から出ようとすると寮母さんとすれ違った。
「珍しいわね。」
そう言って笑った。
なんだろう、何か引っかかる。
何か身に覚えのある感覚。
そう考えつつも、僕は学校へと急いだ。