教室の前にたどり着く。
メイド喫茶へと改装された入り口が目に入る。
昨日遅くまでかかって準備したものだ。
遅刻しかけたのもそのせいなのだけど……
中へ入ると、着替えを終えたクラスの女子達が開店の準備をしていた。
一方、男子達は、暇そうに教室脇にたむろしている。
「ギリギリセーフだな。」
健司もその中にいた。
「起こしてくれないなんてひどいじゃないか」
「いや、起こしても起きなかっただろ。」
そうは言われても……
当然起こされた記憶はないし、実際に遅刻しかけているのが結果だ。
「まぁぐっすり寝てたみたいだしな。 いい夢見れたか?」
「うん、まぁね。」
――確かに何か夢を見ていたような気がする。
「色気のない女子共のメイド姿を見るのもつまんないしな、学校の中回ろうぜ。」
「そういえばレイは?」
さっきから姿が見当たらないがどこにいったのだろうか?
それに何か違和感が……
「せっかくの文化祭を楽しまないでどうするよ?」
レイの事は気になるが、健司を待たせるわけにもいかない。
「そうだね、まずはどこにいく?」
結局、深く考えず楽しむ事にした。
――だった。
ん……?
間違いだった。
「葉助、どうした?」
「な、なんでもないよ。」
不意に頭の中に浮かんだ言葉を振り払い、健司についていく。
健司はたこ焼きや焼きそばなどを両手いっぱいに持ち歩き、文化祭を堪能している。
というか食い気だけのような……
「そんなに食べてお腹苦しくならない?」
「いや、まったく。」
相変わらず驚かされる食欲である。
その姿に呆れていると、遠くに人だかりが見える。
「何の集まりかな?」
健司と二人で人だかりへと近づく。
そこには見覚えのある老人が、記者に囲まれていた。
黒島市長……
この魔道都市ヴェネティアの市長にしてこの学園の学園長でもある男。
そのカリスマ性に民衆にも一目置かれる存在だ。
――視線が合った。
一瞬だけだが、間違いなくこっちを見ていた。
何故?
たまたま? それとも学園の生徒だから?
しかも、彼が微笑んだように見えたのは、それこそキノセイだろうか。
「どうした、葉助?」
健司に呼ばれて我に返る。
「ん、なんでもないよ。」
「今日のお前、なんかへんだぞ?」
――確かにそうかもしれない。
そうかもしれないが……
これは――だ。
「きっと寝不足で頭が働いてないんだよ。」
そう言い訳した。
健司に向けた言葉なのか、自分自身に言い聞かせたのか。
「おい、あれ見ろよ。」
健司が指差した先で、メイド服の誰かが黒島市長と話していた。
あの服は、間違いなくうちのクラス展のものだ。
「あんな子いたっけ?」
「いや、知らないな。」
二人で頭をかしげる。
そこまで人数の多くないクラスだ。
クラスメイトの顔を忘れるわけがない。
「どうする?」
健司がそう尋ねてくる。
僕は……
―――
――
―
思考にノイズが走る。
何か見覚えが……
――が―――のか。
「葉助?」
「ちょっと見てくるよ。」
そう言って僕は二人に近づいた。
――
―
――視界が歪んでいる。
まるで魔法が解けるような。
まるで世界が終わるような。
まるで……
メイド服の人物がこちらを振り向く。
顔が歪んで見えない。
「お前は……」
「お前が……」
あぁ、そうか……
君が――
―――
――
―
――最近よく夢を見る。
”とても長い夢だった。”
いつからだろうか?
とても曖昧で、宙に浮いているような浮遊感。
それでも意識ははっきりしていて、なんとも不思議な夢だ。
”それも、もう終わりだ。”
もちろんそれを誰かに相談した事はない、する必要もない。
だってこれは夢なのだから。
目覚めれば終わってしまう儚いものだから。
――ダカラ、意味ハナイ
―――
――
―
文化祭当日、珍しく僕は寝坊した。
”そこからまず間違っていた。”
健司とレイは既に学校に向かってしまったようだ。
起こしてくれればよかったのに。
「違う、だって僕は……」
――文化祭には向かってないのだから。
―――
――
―
薄暗い部屋の中で二人の男が密談を交わしている。
一人は椅子にもたれかかり、もう一人はその正面に立っている。
「――ようやくだ。」
椅子に腰掛けた男の声は歓喜に震えている。
その眼差しは、ココではない何処かを見ている。
「では、最終フェイズに?」
男がそう尋ねると、椅子に腰掛けた男は頷いた。
「Rシリーズの数も揃った。 日取りは……学園の文化祭としよう。」
唇の端を吊り上げて笑う。
全てが順調、多少のイレギュラーが発生したが問題はない。
自信に満ちた顔で男を見る。
「それとだ……」
”7番は処理しておけ”
「――御意」