Overline   作:空野 流星

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夢から覚めて

どこで間違ったのだろうか?

 

どうして、こんな結末になってしまったのだろうか?

 

今となっては、分からない。

 

 

―――

 

――

 

 

 

気がつけば僕達は戦っていた。

 

あれほど一緒にいたのに。

 

色々な思い出を作ってきたのに……

 

 

あの時の僕たちは、その平和がずっと続くと思っていたんだ。

 

 

でも今は……

 

 

そんな小さな平和なんて、粉々に砕けてしまった。

 

 

”この都市ごと”

 

 

―――

 

――

 

 

 

「うっ……」

 

 

目を開くと自分の部屋の天井が見えた。

 

 

「目が覚めたか?」

 

 

心配そうに健司が僕の顔を覗き見る。

 

 

「ここは――なんで?」

 

 

起き上がろうとするが、身体に力が入らない。

節々からは激痛が走り、魔源(マナ)もだいぶ消費している。

 

 

「まだ寝てろって、あんな事があった後だ。」

 

 

”アンナコト?”

 

 

「――」

 

「そろそろ先輩が帰ってくるはずだから、もうしばらく寝ておけって。」

 

「うん。」

 

 

ゆっくりと目を閉じ、頭の中の整理を始める。

 

そう、確かあれは――

 

 

 

 

 

いつもより早く目覚めた僕は、身支度を済ませ出かけようとしていた。

 

玄関から出ようとすると寮母さんとすれ違った。

 

 

「珍しいわね。」

 

 

そう言って笑った。

その笑顔に見送られながら寮を出る。

 

そう、ある人物との待ち合わせのためだ。

 

 

―――

 

――

 

 

 

いつもと同じ通学路を歩いていく。

 

歩き慣れた道。

いつも3人で歩いた道。

 

その道を今は一人で歩いている……

 

 

学校の近くの公園で歩みを止める。

 

 

「来たか」

 

 

そこにレイが立っていた。

 

 

「呼び出した本人が遅刻してどうする?」

 

 

そう言って笑っている。

 

 

「おかしいな、まだ約束の時間より10分早いけど。」

 

 

僕は腕時計を見ながらそう答えた。

 

 

「それよりも、話があるんだろ?」

 

 

こちらにレイが歩み寄ってくる。

そう、そのために僕は来たんだ。

 

 

「レイ――君は何者なんだい?」

 

 

――ピタリ

 

 

レイの歩みが止まる。

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

レイの表情が強張る。

 

 

「そのままの意味だよ。」

 

 

僕はずっと疑問に思っていたんだ。

彼の存在が……

 

 

異例の転校、ずば抜けたセンスと魔力、そして……

 

 

”この前の島での一件だ”

 

 

ずっと僕の中でひっかかっていた。

 

 

”何故、レイはあの場に間に合ったのかと”

 

 

ありえないはずだ。

お互い見知らぬ土地。

しかも、突然僕はいなくなったのだ。

あんなタイミングで現れるわけがない。

だとすれば……

 

 

――彼は最初からあの場所を知っていた。

 

 

「一つだけ聞かせて欲しい。」

 

 

そうレイが尋ねた。

僕はうなずいて続きを促した。

 

 

「お前は、真実を知る覚悟があるか?」

 

 

ゴクリ……

生唾を飲み込む。

 

答えはすぐそこにある。

 

しかし、搾り出そうとしても声がでない。

嫌な汗が額から滴る。

 

 

「今ならまだ、平穏なままでいられる。 それでもお前は――」

 

「知りたい、僕は答えを出したいんだ。」

 

 

それが、やっと搾り出せた返事だった。

 

しばらくの沈黙が続く……

先に沈黙を破ったのはレイだった。

 

 

境界移動(ラインズワープ)は知っているな……?」

 

 

僕は頷いて答えた。

 

 

――境界移動(ラインズワープ)

 

それは時空龍達によって禁忌とされる秘術。

その秘術を以て、境界線(レイ・ライン)の向こうにあるとされる別世界に行くことだ。

 

しかし何故今それを……

 

 

「私と奴は、境界移動(ラインズワープ)してこの世界に来たんだ。」

 

 

奴……?

 

 

「奴、黒島は――」

 

 

ドクン

 

 

大きく心臓が跳ねる。

あまりにも意外な名前が出てきたからだ。

 

 

「私と同じ世界から来た。」

 

 

一瞬俯き、一呼吸置いてから話を続ける。

 

 

「初めは自分の世界に帰る事だけを考えていた。」

 

 

――だが

 

 

「奴は、この世界の知識を得るたびに野心に膨れ上がらせた。」

 

 

ドクン、ドクンと心臓が高鳴る。

 

 

「そして――」

 

 

”自分の世界を支配しようと考えた”

 

 

「そのためには手駒が必要だ。 そのために奴は実験を始めた。」

 

「実験……?」

 

「そう、最強の兵士を作るための実験だ。 お前も気づいてるだろ?」

 

 

ドクン……ドクン……

 

 

そあの研究所が……

そうだ、僕は知っている?

 

 

「R計画の実験体7号――それが、お前だよ葉助。」

 

 

ぁ……

 

自分の中の疑問の答えが、彼の口から告げられた。

 

そうか……そうだったのか。

 

 

だからあの時も、あの時も――

 

 

忘れようとしていた記憶が溢れ出てくる。

ぼやけていた過去がはっきりとしてくる。

 

 

”R計画”

 

 

黒島市長の最強の兵士を作る計画。

とある人物の遺伝子を使用して、人造の魔法兵士の作成。

4属性の魔法を操り、どんな怪我も瞬時に治してしまう、そして病にもかからない無敵兵士。

 

そうだ、僕は……

 

 

”最後のテストタイプ”

 

 

そのためにずっと監視されて――

 

 

「そうか、君が。」

 

「そうだ。」

 

 

そうだ、今分かった。

 

彼こそが――

 

 

「オリジナル。」

 

 

”あいつを信じてはダメ”

 

 

とある言葉が思い出される。

そういう事だったんだ。

こいつはずっと……ずっと!

 

 

”僕を笑っていたんだ”

 

 

皆を騙して、嘲笑って!

 

 

”あいつを信じてはダメ”

 

 

反復される言葉。

今気づいた真実の囁き。

 

右手で握りこぶしを作る。

僕はこいつを――

 

呼応するようにレイも身構える。

 

――当然だ。

 

おそらく、今の僕は隠しきれないほどの怒りに打ち震えているからだ。

 

 

「レイ……僕は、君を――す」


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