夢を見ていた。
それはぼんやりとしていて、目覚める頃には忘れてしまう儚い夢。
繰り返される毎日。
繰り返される映像。
夢だと思っていた。
それは紛れも無い現実で、今までが夢だったと思い知らされる。
嘆きの木霊する町。
繰り返される惨劇。
あの日の記憶を再生する。
あの日の涙を思い出す。
真実は暗闇の中で息を潜め、全ては胸の中に仕舞い込む。
例え誰に理解されずとも、最愛の人に理解されずとも……
――私はその道を進む。
―――
――
―
見慣れた校舎。
仲間と共に笑い、泣き、苦楽を共にした校舎……
しかしそれは異様な姿へと変貌し、僕達に立ち塞がっている。
例えるならば要塞。
進入を拒む壁。
まるで、今までの僕達を否定しているようにも感じる。
もう、僕達の知っている校舎ではないのだ。
「黒島はおそらくこの中。 多分レイもここに……」
レイは間違いなくここにいる。
レイの目的もまた、黒島なのだから。
3人で校門をくぐる。
しかし、何か起こるわけでもなく辺りは静寂を保っている。
レイの対処に追われているのか、または……
「なぁ葉助、3人に分かれて探索しないか?」
急に、健司がそんな提案をする。
この状況での単独行動は明らかに危険だ。
しかし……
「――わかった。」
僕はその意見に賛成する。
いや、僕の中の何かが信用しろと言っている。
彼への絶対的信頼。
きっと何か考えがあることなのだ。
「そうだな、確かに危険ではるが、その方が早いだろう。」
兄さんも納得した。
「なら合流地点は、5階の俺達の教室にしよう。」
互いに頷き合い、それぞれの方向に走り出す。
「葉助!」
健司に呼ばれ振り向く。
「勝つぞ!」
「あぁ!」
健司が、いつもよりも大きく感じた。
校内は静寂に包まれている。
見張りや警備がいるかと思ったが、無人である。
少々拍子抜けしつつもレイの捜索を始める
1階の教室を順番に探していく。
教室は特に変わった様子も無く、普段と同じ状態だ。
目の前にある机には擦れて消えかけている落書きがある。
少し前まで普通の日常が流れていた証だ。
それが今は、こんなにも寂しく感じる。
――
―
1階の教室全てをくまなく探したが、特に変わったものを発見することも、レイを見つける事もできなかった。
階段を登り2階に向かう。
コツン…コツン…
足音が響く。
コツンコツン…
――ん?
コツンコツン…コツンコツン…
二重に足音が聞こえてくる。
誰かついてきている……?
階段の踊り場で振り返る。
――そこには階段を登ってきている兄さんの姿が見える。
安堵して声をかけようと――
「葉助! 逃げろ!」
えっ?
急に健司の叫び声が聞こえる。
とっさの指示に思考が停止する。
「っ!」
その声を聞いた兄さんが階段を駆け上がってくる。
「あっ……」
――それは偶然だった。
兄さんの行動に反応した体が、階段で足を踏み外したのだ。
踊り場にしりもちをついてしまう。
早く逃げなければ。
健司の言葉が正しければ敵は近くにいるはずだ。
近くに……
その時、頭上を何かが掠めたのだ。
ガシャーン!
――背後にあった踊り場の鏡が砕ける。
放たれた魔法は、壁に仕込まれている魔法中和装置によって消滅した。
校内での魔法使用の危険性を考慮して備えられている仕掛けだ。
今の魔法は間違いなく”ウィンドカッター”だった。
そしてそれを放ったのは……
「兄さん……?」
そう、目の前にいる兄さんだった。
どうして? 何故?
疑問が思考を埋め尽くしていく。
――だめだ、今は考えるな。
「……」
”フレイムタワーⅢ”
「っ!」
慌てて立ち上がって階段を駆け上がる。
ついさっきまで座り込んでいた床から炎の柱が立ち昇る。
間違いない、兄さんは僕を狙っている。
「葉助! お前はそのまま行け!」
「健司、何言ってるんだ!」
「誠先輩は俺がなんとかする! いいから行け!」
健司――
「わかった!」
僕はそのまま振り向かずに階段を駆け上がった。