Overline   作:空野 流星

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その男の真意

「誠先輩……」

 

 

健司と誠は互いを睨みつけ、微動だにしない。

 

 

「いつから、気づいていた?」

 

 

そう誠が問いかける。

健司は、さも当然だと言わんばかりに口元を吊り上げた。

 

 

「所々で怪しい行動があったからな。、特にさっきのが。」

 

 

そう言って誠を指差す。

 

 

「お前あの時、葉助を助けようとしたんじゃなくて、二人まとめて殺そうとしただろ。」

 

 

そう、レイと葉助の戦いを止めたあの一撃は、二人諸共始末するための一撃だったのか。

あれはレイが葉助をかばったからこそ助かったのだ。

 

 

「ククッ、お前は予想以上に優秀だったよ!」

 

 

誠が腹を抱えて笑い出す。

 

 

「馬鹿だが実力はあると思っていたが、想像以上に頭が回るようだ。」

 

 

”お前はいい素体になるよ”

 

 

そう笑いながら、誠は健司に言い放った。

 

 

「誰が素直に言う事きくかよ!」

 

 

”サンダーボルトⅡ!”

 

 

それと同時に誠に向かって電撃を放つ。

 

 

”マジックシールドⅢ”

 

 

誠はそれを涼しい顔で打ち消した。

 

 

「ちっ……」

 

 

そんな事は分かっていた。

一度も勝てなかった相手。

村田健司という人物の憧れの存在。

 

 

だが――今は勝たなければならない!

 

 

”フレイムタワーⅢ!”

 

 

大きな火柱が噴出す。

誠は軽々と後方へと飛び退き、それを避けた

 

正直どう攻めればいいか分からなかった。

葉助を逃がすという意味では、消費を抑え時間を稼ぐだけでいい。

 

だが俺は、村田健司が求めるのは――

 

 

「へへっ。」

 

「何を笑っている?」

 

 

自然と笑みが零れた。

 

 

”俺はあの人に勝ちたかった”

 

 

『お前の戦い方、俺は好きだぞ?』

 

 

あの人は、そう言って俺を褒めた。

 

あの人は雲の上の人だ。

成績は学園トップ。

容姿も性格も完璧。

 

なんでこんな人が俺達の相手をしてくれているのか不思議だった。

多分弟の友達だからってだけだろうけど、それでも!

 

 

『お前の戦い方、俺は好きだぞ?』

 

 

俺の攻撃だけのスタイルをそう褒めた。

だから俺は決めた。

 

このままのスタイルで強くなろうと。

 

炎と雷の属性を持つ者は総じて不遇である。

身を守る術を持たず、ただ攻撃に特化した属性。

それはある意味では致命的であり、仲間の援護無しには戦うことさえままならない。

 

俺はそんな属性を持って生まれた。

 

 

葉助は風と水の属性を持って生まれた根っからの補助タイプだ。

俺とは真逆のタイプであり、最適のパートナーだ。

おかげで俺達は連携を積み重ねていくことで成長していった。

 

しかし葉助は――

 

今のあいつは4属性全てを操れる。

そこに俺の居場所はない。

 

 

「気づいたのさ。」

 

「何にだ?」

 

 

ただの嫉妬だった事に。

 

 

「自分が馬鹿だったことにさ!」

 

 

”サンダーボルトⅢ!”

 

 

強力な電撃が真っ直ぐ誠へと突き進む。

しかし右手を掲げた誠が――

 

 

”マジックシールドⅢ”

 

 

やはり無力化されてしまう。

あのバリアをどうにかしなければならない。

 

バリアなら高負荷を与えれば破壊が可能だろうか?

誠先輩との魔力差を考えると無謀か。

 

ならばバリアを展開する前に技を叩き込むしかないか。

しかし電撃の速度にすら反応して展開するほどだ。

 

 

――それなら

 

 

健司は誠めがけて駆け出した。

徐々に縮まる距離。

 

その行動を見た誠は、前方に腕をクロスさせて身構えた。

魔法が効かないのならば物理。

そう考えての体勢だろう。

 

 

――だが

 

 

「うぉぉぉぉ!」

 

 

ゴツン――と拳がぶつかる音。

 

しかしそれだけでは終わらない。

そのまま勢いに任せて拳を捻じ込んでいく。

 

 

「くっ……」

 

 

力では誠を上回っている。

その拳はガードを抜けて腹部へと到達した。

 

 

――ニヤリ

 

 

つい、笑みが零れた。

 

その意図に誠が気づいた時には、もはや遅かった。

健司は拳に溜め込んでいた魔力を放出したのだ。

 

 

「しまっ――!」

 

 

放たれた電撃は、誠の内部から炸裂した。

臓器を焼き、中をズタズタにする。

 

もちろんこの近距離で放った健司もただではすまない。

突き出した健司の右腕もまた、自らの電撃で焼け爛れていた。

 

 

「ごふっ……!」

 

 

誠が大量に吐血する。

あまりにも決定的なダメージであった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

俺の勝ちだ。

力押しでもなんでもいい。

ついにこの先輩を打ち倒したのだ。

 

 

「強くなったな……」

 

「え?」

 

 

それは意外な言葉だった。

まさか敵である誠からそんな言葉が出るとは思っていなかった。

 

 

「この結果を、望んでいたのかもしれない……」

 

 

口から血を零しながらそう言った。

 

 

「所詮は、黒島の実験体――歯向かう事はできなかった……」

 

「誠先輩……」

 

「実験体No.3、それが俺の名前さ……」

 

 

誠は膝をつき座り込んだ。

 

 

 

「そんな事……」

 

 

そんな事はない。

この人だって人間だ。

 

確かに命令で強制的に葉助やレイに手を出そうとした。

でも、どうだ?

それは本人の意思ではなかった。

確かに許せない。

おそらくあの手は、多くの罪を重ねてきているだろう。

それでも、償うチャンスがあるというなら、俺は――

 

 

「さあ、止めを刺してくれ……」

 

 

俺が下す判断は――

 

 

「帰ろう、先輩。」

 

 

そう、これしかない。

 

 

「……」

 

「全部償って、やり直せばいい。 一人の人間として。」

 

「健司、お前は……」

 

 

”本当に……馬鹿な奴だ”

 

ずぶり、と肉を抉る音。

 

あぁ、俺はなんてお人よしで単純なんだろうか。

 

 

自らの腹部に突き刺さる腕。

それは間違いなく誠の物で――

 

 

「ごふっ!」

 

 

盛大に口から血を吐き出した。

 

傷口から焼けるような痛み。

いや、”ような”ではない。

実際に焼かれているのだ、同じ方法を使われて。

 

 

「健司、殺しはしない……」

 

 

そう言って笑う誠。

俺はその顔を睨むことしかできない。

 

 

また裏切られた。

少しでも信じた俺が馬鹿だった。

やっぱりこいつは悪魔だったんだ。

 

徐々に朦朧となっていく意識。

おそらく、次に目覚める時は黒島の人形になっているだろう。

俺はそんな運命はごめんだ!

 

 

ガシッ!

 

 

しっかりと誠の腕を握った。

 

 

「――なんのつもりだ?」

 

 

この状況で出来ることは一つ……

これから待っている運命を覆す唯一の方法。

 

掴んだ腕に直接魔力を叩きつける。

 

 

”フレイムタワーⅢ!”

 

 

「お前!」

 

 

明らかに焦った誠の表情。

それもそうだろう。

これは自殺にも等しい行為なのだから。

 

 

「葉助の邪魔はさせねぇ――お前はここで。」

 

 

”一緒に死ぬんだ!”

 

 

これは自分の甘さが招いた結末。

少しでも、誠に人間としての感情があると思った自分の判断ミスだ。

だからせめて――

 

 

悪いな葉助……

もう戻れそうに、ない……

 

 

燃え盛る炎が二人を包んでいく。

せめて憂いを残さないように、跡形もなく。

 

 

”エクスプロージョンⅢ!”

 

 

――炎の閃光が巻き起こった。

 

 

 

 

 

下の階から地響きがした。

おそらく健司と兄さんが戦っているのだろう。

 

どうしてこんな事に……

疑問が頭から離れない。

 

なぜあの二人が戦わなくてはならないのか。

そもそも兄さんは何故あんな事を……

 

 

止めていた思考が今更動き始める。

その度に足の動きが鈍っていく。

 

 

”引き返せ”

 

 

という言葉が頭の中で反響している。

 

 

今更引き返してどうなる?

兄さんを問いただす?

健司を助ける?

 

 

――違う

 

僕は進まなければならない。

 

もう一度喝を入れて駆け出す。

目の前には見慣れた教室。

 

 

「……」

 

 

そして、見慣れた姿が視界に入った。

 

レイだ。

 

レイの周りには(おびただ)しい数の死体が転がっていた。

おそらく警備兵士達だろう。

警備が手薄だった理由は、先に侵入したレイが壊滅させたからだろう。

 

 

「何故来た?」

 

 

レイは睨みながらそう僕に言い放った。

その瞳は、2度目は無いと警告している。

 

 

少し前に僕を殺そうとレイは襲ってきた。

果たしてそれは真意だったのだろうか?

それとも……

 

 

「君の本当の気持ちが知りたい。」

 

「私はお前を殺したい。」

 

 

そう即答する。

 

 

「仇の手先だから?」

 

 

そう聞くとレイは頷いた。

 

 

――違う。

それは絶対に違う。

 

だって……

 

 

「もう、誤魔化しはいらないよ。」

 

 

あれは――

 

”レイ・リヴァイアスが、嘘をついている時の瞳だからだ”


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