夢だと思っていたもの、それは記憶の断片。
とある青年と少女の記憶。
「俺はお前が欲しかった。 自分だけのものにしたかった。」
青年は狂気に満ちた笑顔で語る。
少女は、この青年がもう自分の知ってる兄ではないと悟る。
「貴方は誰……?」
その問いに青年は行動で答えた。
「今こそ愛の契りを!」
青年はその血濡れの剣を……
――少女へと振り下ろした
しかし刃は、少女を切り裂く事は無かった。
「くっ、俺は……」
青年、ユニス・リヴァイアスは何かに耐えるように苦悶の表情を浮かべている。
少女には分からなかった。
自分の両親を殺したのが、本当に自分の最愛の兄なのか。
目の前には確かに兄がいる。
しかし、兄であって違う者を感じている。
「貴方は誰……?」
もう一度同じ問いを投げかける。
「俺は!」
ユニスは握っていた剣を自らの腹部へと突き刺した。
少女は、兄の唐突な行為に唖然となって見ている事しか出来なかった。
「いいか、よく聞け。」
腹部から血を流しながら語りかける。
確かにその姿は、最愛の兄のものであった。
「お前だけでも、ここから逃がす。」
分からない。
何を言っているのだろうか……?
「お前が、クロトの手の届かない所まで……」
聞き覚えのある名前。
たしか校長先生の名前――
ユニスは、自らが妹に送った胸元のペンダントに触れる。
これは
ペンダントが眩しく光りだす。
「えっ?」
何をしようとしているのか分からなかった。
ただ、兄が何かを呟くたびに光は強さを増していく。
「まずい!」
誰かが部屋に乱入してくる。
いや、見覚えがある――
「ちっ!」
その姿を捉えたユニスは、左手で短剣を投げつけた。
ずぶり!
っと短剣は男の左足に突き刺さった。
「何をしているユニス! これでは話が!」
「クロト、お前に邪魔はさせない!」
あぁ、この人を私は知っている。
セイントガルド魔法学校の校長先生だ。
「さっさと妹を殺せ! それでお前の願いは!」
ペンダントの光が更に増す。
「レイ、生きろ……」
ユニスは、少女――レイ・リヴァイアスに向けて最後の言葉を贈った。
「やっと気づいたんだ、本当の君に。」
レイは視線を逸らす。
それは否定か拒否か。
「何を言っている……?」
そう、あの時見た。
レイの障壁が砕けた瞬間に――あの幽霊と瓜二つの姿を。
障壁は魔法に対しての障壁でもあり、彼女自身を隠す障壁でもあったのだ。
「レイ……」
幻として現れていたレイは、おそらく僕の遺伝子に刻まれた記憶。
それがレイ本人と呼応する事によって出現していたのだろう。
1歩ずつレイに近づく。
「くるな!」
レイがそう叫ぶ。
違う、それは彼女の言葉じゃない。
また一歩近づく。
「それ以上近づくなら、今すぐ殺すぞ!」
そう言ってきつく僕を睨む。
でも、僕は歩みを止めずに近づいていく。
「――っ!」
”サンダーボルトⅢ!”
レイが放った雷は、僕にかすりもせずに壁に当たり消滅した。
当然だ、元から当てる気が無いからだ。
「どうしてお前は!」
あの夢はレイとその兄、ユニスの過去。
何が原因かは分からない。
ただ、黒島がRシリーズを生み出すために使った、レイとユニスの遺伝子が関係しているのかもしれない。
「レイ、君は戦っちゃいけない。」
そうだ、間違ってる。
彼が望んだ事はこんな事じゃない。
その思いを知ってるからこそ僕は――
”彼女を守りたい”
「でも私は!」
「大丈夫だよ、レイ……」
彼女を突き動かしているものは復讐。
家族の仇、兄の仇。
あの男の顔が浮かぶ。
「僕が、黒島――いや、クロトを殺す。」
その言葉を聞いてレイが驚愕した。
「何故、その名前を知っている。」
おそらくこの名を知るのは、この世界では黒島本人とレイだけだろう。
しかし、僕はレイの過去を見てしまった。
責任、というわけではない、ただ――
「僕にも分からない。」
――でも
「でも、きっとこれが、彼の願いだから。」
それは直感。
事故であっても継承してしまった記憶。
知った代償。
僕はその責務を果たす。
「葉助……?」
ピシッ……
何かに亀裂の入る音。
それはレイの障壁か。
あるいは心の壁か。
「だから君は、普通の女の子でいてくれ。」
そう言って、彼女の頭を撫でた。
「あ……」
パリン!
彼女を纏う障壁が音を立てて砕け散った。
「僕が、守るから。」
「あぁ……」
レイの瞳から、一筋の涙が流れた。
それは懐かしき兄の姿を思い浮かべた涙だろうか?
撫でている手を下ろしてレイを背にする。
「じゃぁ、いってくる。」
「ねぇ、今度はいつ帰ってこれるの?」
何処かで聞いた言葉。
「今度もすぐ帰ってこれるさ。」
そう言うと、彼女はいつも嘘つきと言ってくれる。
「待ってる――だから!」
”必ず、帰ってきて”
もちろんさ、僕は必ず帰る。
全てに決着をつけて!