炎が唸りをあげ、真夜中の闇を照らし出す。
辺りには真っ赤な絨毯が敷き詰められ、吐き気を催すような匂いが充満している。
そこで二人は対峙していた。
「さあ、今こそ。」
青年は真っ赤に装飾された剣を少女へと突きつける。
「どうして!」
少女は涙を流しながら訴える。
少女の足元には彼女の両親が真っ赤な絨毯の上で寝そべっている。
「俺はお前が欲しかった。 自分だけのものにしたかった。」
青年は狂気に満ちた笑顔で語る。
少女は、この青年がもう自分の知ってる兄ではないと悟る。
「貴方は誰……?」
その問いに青年は行動で答えた。
「今こそ愛の契りを!」
青年はその血濡れの剣を……
――少女へと振り下ろした。
今日も相変わらず、外から建設機械の音が鳴り響いている。
「なあ葉助、今日転校生が来るって知ってるか?」
授業中であるにもかかわらず、彼……村田健司は平然と話しかけてくる。
「そうなんだ。」
僕は素っ気なく返事を返し、再び窓の外へと視線を戻した。
「……」
ふと視線が合った。
腰まで伸びた綺麗な金髪。
目を見張るほど真っ赤な色のワンピース。
吸い込まれそうな綺麗な緑の瞳。
この場所とは不釣合いな少女がこちらをずっと見つめている。
「おい、そこの二人!」
「やっべ!」
健司は慌てて教科書で顔を隠した。
彼女は担任のキャシー・ダグラス先生。
見た目は美人だが、性格がアレという典型的なパターンの人物である。
そのせいで、未だに彼氏いない歴記録を更新しまくっている。
「桂木葉助、教科書37Pの上からの文章を読め。」
「は、はい。」
どうやらこれだけで済みそうだ。
健司は横でニヤニヤしている。
「血管の中を流れるモノの一つであるこの物質がエーテル器官から出来たものであって、
よくある授業の一風景。
「エーテル器官とは、心臓の一部にある器官です。
火・水・雷・風の4種類のエーテル属性うちの二種類の属性をもっています。」
魔道都市ヴェネティアにある、世界最大規模の魔法学園、ラタトクス学園。
「魔法は人間のイメージと音声――それを
この時の僕達は、その平和がずっと続くと思っていたんだ。
授業の後、先生にみっちりしぼられてから教室に戻った。
どんな風にしぼられたなんて口でいえないくらいの苦痛だった。
「ところで健司、さっきの話の続きを教えて欲しいんだけど。」
先生にしぼられながらも、その事だけは覚えていた。
なんて律儀な青年なのだろうか僕は。
自分でも笑えてくるくらいだ。
「なんだよ、やっぱり気になってたんじゃないか。」
そう言って笑いながら僕の肩を叩く。
ちょっと力の入れすぎと思うのだが。
正直痛いんですよ筋肉馬鹿さん。
「そ、それで……転校生が来るっていってたけど?」
「おうおう、この時期に珍しいと思うだろ?」
確かにそうだ。
新入生ではなく、この6月に転入してくるというのは珍しい。
「噂なんだが、そいつは超エリート君らしいぞ?」
「エリート君ねぇ、でもなんでこの時期なのか。」
「それなんだよなぁ、まぁ所詮噂だしなんとも言えないよな。」
まぁその通りではある。
「そういえば健司。」
ふと、さっきの事を思い出したので健司に尋ねる。
「どうした?」
「さっきさ、外にいた女の子見なかった?」
「は? お前何言ってんの?」
予想通りの答えが返ってきた。
「だよねぇ~」
僕が見たあの娘は、なんだったのだろうか……
「まぁとりあえず帰ろうぜ~」
そう言って健司が歩き出す。
ふと、曲がり角から出てくる人影が見えた。
「あぶな――」
僕の言葉が間に合うはずもなく、二人はゴツンと衝突した。
「いってて、わりぃ……」
「――こちらこそすまない」
お互いに立ち上がり視線を交わす。
僕はそれを遠目で見ていた。
相手は初めて見る顔であった。
男とも女ともとれる美貌。
長く綺麗な金髪は後ろで一つに束ねられている。
ふと、先ほど見た少女に似ているなと思った。
「君は……?」
「あぁ、実は明日からこの学校で学ぶことになっている。」
僕の疑問の意図に気づき、そう答えた。
「へぇ、あんたが噂の転校生か。」
健司も興味津々である。
「私は、レイ・ラグナールだ、よろしく頼む。」
”ラグナール”
健司の言っていた超エリートの意味がそれだけで分かった。
誰もが知る3賢者の一人、カスパ・ラグナール。
その人物と同じ姓を名乗っているのだから……
かつて、人類は魔法を使うことができなかった。
60年程前に訪れた巨大な訪問者――蜥蜴のような姿の者達が現れた
彼らは自分達を時空龍と名乗り、人間達に魔法の知識を与えた。
その知識を初めて伝えられた3人が現在の3賢者である。
”バルト・ザーフィル”
”メル・オルフェン”
そして
”カスパ・ラグナール”
である。
魔術に携わる者であるならば誰もが知っている知識である。
「どうした?」
レイが困ったように首を傾げている。
正直、想像以上の大物であったため、僕も健司も思考が止まってしまっていた。
「な、なんでもないよ。」
とりあえず深呼吸をして高揚した気分を落ち着かせる。
「それで、一つ頼みたい事があるんだが……」
「別にいいけど?」
「実は職員室に行きたいんだが、迷ってしまってな。」
困惑してそう言った。
その程度ならいくらでもという所だ。
だが、先ほど職員室から戻ったばかりなんだけどね。
「それならすぐそこだし案内するよ。」
「うぇ、また戻るのかよぉ~」
健司はうなだれてそう言った。
まぁ気持ちはよく分かるが。
「すまないな……」
「お安い御用だよ。」
こうして俺達三人は職員室へと向かった。
「あら、戻ってきてまだ説教して欲しかったのかしら?」
戻ってきた僕達を見つけてキャシー先生はそう言った。
別にそういうわけではないのだが……
「いえ、職員室までの道案内を頼まれまして。」
キャシー先生も僕達の後ろにいるレイに気づいたようで、なるほどねっと呟いた。
「でも丁度良かったわ。 どうせ説明するつもりだったし。」
「と、言いますと?」
「実はレイ君の部屋なんだけど、貴方達と同じ部屋になるのよ。」
えっ、そういうのは前もって言っておくべきなんじゃ?
「さっき言おうとしたら君たち、説教終わってすぐ戻っちゃうから言いそびれてね。」
偶然というのは時に恐ろしいものである。
「荷物はもう寮に届いてると思うから、2人で手伝ってあげること。」
「分かりました。」
「あぁそれと、明日の実技試験の説明もしてあげてね~」
この先生、色々と丸投げである。
――色々あったが、僕達3人の共同生活が始まる事となった。