Overline   作:空野 流星

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魔銃使い

魔道都市ヴェネティアの某所。

時空龍達にも秘匿されたこの場所に、3人は集まっていた。

 

 

「今こそ時空龍の支配から脱する時なのです!」

 

 

テレビには黒島市長の演説が流されている。

その映像を見て、初老の男が頭を抱えている。

中年の女性は、テレビに興味は無いようで、自らのネイルの具合を確認している。

中年の男性は、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、初老の男に尋ねる。

 

 

「さてカスパ、この状況をどうする? あの学園はお前がスポンサーとして管理していたはずだぞ?」

 

「言われずとも分かっている、バルト。」

 

 

バルトと呼ばれた男は、まるでこの状況を望んでいたかのような態度であった。

それがまた、カスパの悩みを加速させる。

 

黒島が怪しいのは分かっていた。

しかし、それを分かっていながら、この現状を止める事が出来なかった。

それは、黒島のバックに時空龍達がいたからだ。

 

3賢者と呼ばれるこの3人でさえ、時空龍に刃向かう事は出来ない。

力でも、知識でも、彼らには到底及ばないのだ。

事実上、時空龍に人類は支配されていると言っていい。

 

 

「メル、お前は何か意見はないのか?」

 

「さてね、自分達の汚点なら、勝手に処理するんじゃぁない?」

 

 

メルは話自体に興味が無いようで、眼鏡を外すと椅子に寄りかかった。

どうやら、自分以外危機感が全く足りないようだ。

 

しかし、一番の疑問がある。

何故、時空龍子飼いのあの男が、わざわざ時空龍に刃向かうような行動に出たのだろうか?

これではまるで――

 

 

「奴らも平和に飽きてるんだよ、カスパ。」

 

「そんな事……」

 

「しかしだ、これで互いにいい口実が出来ただろ?」

 

 

嬉しそうにバルトが語る。

そうか、この男も求めているのだな……

 

 

「戦争のか?」

 

「当然! 黒島は時空龍達が処理するとして、我々は戦争の準備を始めるべきだ。」

 

「よくも言ったものだ。」

 

 

ともあれ、今回の事件の事後処理も必要だ。

もし、本気で時空龍達と戦争するというなら――

 

 

「では、今宵は解散とする。」

 

「事後処理は頼んだぞ――カスパ・ラグナール」

 

「あぁ、眠い……」

 

 

号令と共に、カスパを残して2人の賢者がその場を後にする。

 

 

「レイ、無事でいるのじゃぞ。」

 

 

カスパは、送り出した少女の顔を思い浮かべた。

 

 

 

 

 

あの事件から、3年の月日が流れた。

事件自体は、一夜のうちに時空龍達の攻撃で学園を崩壊させる事によって解決した。

しかし、黒島の乱と呼ばれた大事件は、時空龍達と人類に大きな溝を作った。

黒島の言葉は、元々支配に不満を持った人々の心に火を点けたのだ。

そして現在、その火は炎となり、いつこの都市を焼いてもおかしくない状態へとなっていた。

 

しかし、状況は変わった。

時空龍の高官達が、次々と暗殺されたのだ。

人類の手では不可能な事件に、時空龍達は身内を疑い、人類への対策どころではなくなったのだ。

 

それと時を同じくして、一つの噂が流れ始めた。

時空龍殺(ドラゴンスレイヤー)しと呼ばれる、魔銃(まがん)使いの噂である。

 

 

―――

 

――

 

 

 

男は眠れなかった。

不安が心を押し潰しそうになる。

そろそろ”自分の番”だという事実が男を蝕んでいた。

 

古ぼけた部屋のベットの上、シーツに包まり、ガタガタと震えている。

こんなはずじゃなかった、こんな事になるなら手を出すんじゃなかった。

 

そんな後悔ばかりが思い浮かぶ。

最初は商売になる、上手い話しだと思った。

戦争になれば、人間にも身内にも品が売れる。

ある程度儲けて、この世界からおさらばすればいいと思っていた。

 

 

ガタン!

 

 

何かが倒れる音がする。

男は情けない声を出して、更に震え始めた。

 

死にたくない!死にたくない!

 

それはありえない言葉。

時空龍は、その生命力故に簡単には死ねない。

例え、人間の強力な魔法使いが相手だろうと、殺される事はないだろう。

 

しかし、この男は知っていた。

かつての同業者の死体。

その死体は内部から破壊されていた。

 

絶対的な死のイメージ。

だからこそ、この男は死に囚われていた。

いつ現れるとも分からない死神を恐れて――

 

 

「――睦人(むつと)だな?」

 

 

心臓が大きく跳ねる。

きた、キタきたキたキタ!

死神がきた!

 

 

「こ、殺さないでくれ!」

 

 

男は無様に命乞いをする。

包まったシーツを捨て、額を床に擦り付け、命だけはと乞い願う。

 

 

「――」

 

 

漆黒の死神は、ただその姿を眺めている。

 

 

「出来心だったんだ! 反省している! だから見逃してくれ!」

 

「――聞きたい事がある。」

 

「わ、私が分かる事ならなんでも!」

 

 

一筋の希望が見えたとばかりに、男は話に食いついた。

 

 

「黒島がいた世界、その名を知っているか?」

 

「――は?」

 

 

それは男にとっても予想外の質問だったようだ。

 

 

「二度は言わん。」

 

 

そう言って、死神は銃を構えた。

銀色の銃身が、暗闇の中でもはっきりと見て取れる。

 

 

「ひぃ! ま、まってください!」

 

 

男は必至で記憶を引っ張り出す。

3年前、取引を持ち掛けた高官との話。

 

確か、異邦人の男の話をしていたはずだ。

そうだ、思い出したぞ!

 

 

「た、確かロキアとか言っていました!」

 

「ほう?」

 

 

助かった。

男は心の底から安堵した。

 

 

「なるほど、貴重な情報をありがとう。」

 

 

死神は感謝を述べると、男に狙いを定める。

希望が絶望に変わる瞬間だった。

 

 

「なぜだ! 私は情報を――」

 

 

男の言葉と同時に、死神の手で引き金が引かれる。

打ち出された銃弾は、男の心臓目掛けて真っすぐ飛んでいく。

 

しかし、銃弾は男に接触する前に空中で静止する。

時空龍達は、強力な魔法障壁を持っている。

これのおかげで、通常兵器はおろか、魔法すらもほぼ無効化する。

それは男も分かっていた。

だが、男の死は覆らない――

 

何故ならば……

目の前にいる死神は、時空龍殺(ドラゴンスレイヤー)しと呼ばれる魔銃(まがん)使いだからだ。

 

静止した銃弾は、まるで食い破るように魔法障壁を貫通していく。

3重の魔法障壁を貫通し、その銃弾は男の胸へと吸い込まれるように入り込み――

 

 

そして、爆ぜた。

 

 

臓物は飛び散り、顔は半分吹き飛んだ。

不幸なのは、時空龍はこれで即死出来ない事だ。

男は、死の苦しみを数十分味わいながら、やがて絶命するだろう。

ただ一つ、男にとって幸運なのは、これから先は安眠出来る事だろう。

 

死神は、哀れな肉塊に背を向けて、その部屋を後にした。

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