Overline   作:空野 流星

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喪失の先

暗い夜道を照らすのは壊れかけの街灯。

時折点滅し、そのか細い光が消えかける。

 

ここは魔道都市ヴェネティアの影だ。

急速な発展の結果生まれた闇、スラム街と呼ばれる場所。

その夜道を一人、俺は歩いていた。

 

数人、闇の中で蠢く人影が見える。

しかし、誰も俺に見向きもしない。

纏ったローブは、闇に紛れれば誰も視認出来ない程の漆黒。

そう、誰も俺には気づいていないのだ。

 

 

――

 

―

 

 

寂れた酒場の前に辿り着くと、俺は壊れかけのドアを2回ノックする。

 

 

「アイコトバハ?」

 

「”銀の龍はまだ羽ばたく”」

 

 

そう答えると、偽装された古ぼけた木造の扉は掻き消え、代わりに鉄の扉が姿を現す。

 

 

”角膜スキャン完了”

 

 

機械アナウンスが流れると、音もなく扉が横にスライドして開く。

外部の見た目とは違い、中の設備は近代的な構造となっている。

あくまでも外部の酒場は偽装のためでしかない。

 

通路を真っすぐ進み、エレベーターに乗り込む。

階層表記はなく、下の居住区との行き来専用だ。

フードの部分を脱ぎ、外界に顔を晒す。

ここならば見られても問題は無いからだ。

今や時空龍達に追われる身だ、外で素顔を晒すわけにはいかない。

 

 

――

 

―

 

 

「ご苦労だったな。」

 

 

エレベーターから出た俺を出迎えた女性の、第一声がそれだった。

彼女は銀華(ぎんか)さん、俺の命の恩人だ。

そして、上司でもある。

 

 

「目標は死亡、無事任務完了しました。」

 

「それで、何か有益な情報は?」

 

「それは後で報告に行きます。」

 

 

銀華は一瞬眉を吊り上げると、何か納得したように頷いた。

 

 

「わかった。 とりあえず、”妹”にでも顔を見せておけ。」

 

「了解です。」

 

「それと、得物の整備も忘れるなよ。」

 

 

そう言って、自らの得物をちらつかせた。

 

”魔銃(まがん)”

 

俺が銀華さんに教え込まれた特殊な武器だ。

当然、俺のホルスターにも魔銃(まがん)が格納されている。

人の身で唯一、時空龍を殺せる大事な武器だ。

 

 

「おかえりなさい!」

 

 

自室に入ると、元気な声が出迎えてくれた。

綺麗なブロンドの髪は、丁寧にリボンでポニーテールに結われている。

清潔感のある白のワンピースは、このスラム街とはかけ離れたイメージを与える。

 

 

「ただいま、レイ。」

 

 

脱いだローブをレイに手渡し、椅子に腰かける。

机の上には、銃のパーツが散乱している。

こいつの組み上げも、早く終わらせたいとこだな。

 

 

「新しい弾、机の引き出しに入れておいたよ。」

 

「いつも悪いな。」

 

 

レイにはいつも助けられている。

昔のように前線で戦わなくなった分、こちらとしては気が楽ではあるが。

 

そう、死んだと思っていたレイは生きていたのだ。

しかし、その代償は大きなものであった。

 

”魔源(マナ)欠乏症”

 

体内の魔源(マナ)が、長時間不足している状態が続くと起きる病気だ。

結果、脳への負荷がかかり、彼女はあの事件以前の記憶を失った。

それが奇跡の代償。

 

しかし、あんな過去ならば、忘れてしまってもいいのではないか?

実際、今の彼女は生き生きしている。

女性としても真っすぐに成長していると思う。

 

 

「どうしたの?」

 

「いや、我が妹ながら可愛いなと。」

 

「もう!」

 

 

じっと見ていたのに気づかれたので、適当にはぐらかす。

レイは顔を赤らめながらも、可愛く頬を膨らませた。

 

 

そう、確かに俺はあの日全てを失った。

その代わり、新しい居場所を手に入れた。

 

そう、この”紅桜(べにざくら)”という新たな居場所を……

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