Overline   作:空野 流星

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最悪の再会

まさか本当に出かけるとは思わなかった。

必要な装備の準備をし、そのまま二人で外に出かけたのだ。

お互いいつものスーツの上に、コートを羽織った姿である。

魔銃(まがん)の試し撃ちと言っていたが、どうするつもりなんだろうか。

 

 

「こうして二人で歩いていると、デートのようだな。」

 

「そんな雰囲気あります?」

 

「場所も時間も論外だな。」

 

「間違いない。」

 

 

夜中のスラム街など風情も何もないだろう。

むしろ不審者に襲われる可能性だってありうる。

 

銀華さんは、俺と腕を組んで本当に恋人のような態勢になった。

一体何を考え――

 

その態勢のまま、手のひらを指でなぞってくる。

 

 

”1人、背後”

 

 

言葉の意味を理解し、感覚を研ぎ澄ませる。

足音も気配も感じないから油断していた。

確かに、誰かいる。

魔法で存在を消していても、魔法に精通している者ならば魔力を感じて発見できる。

しかし。魔法使いが何故こんな場所に……

 

 

「しかし、暗いな。」

 

「この辺は街灯も壊れてついてませんからね。」

 

 

その言葉が合図だった。

俺達は同時に魔銃(まがん)をホルスターから抜き取り、背後に発砲した。

透明な影が、慌てて横の建物の影に隠れた。

俺達もすぐ横の建物の影に隠れる。

 

 

「最近色々嗅ぎまわってるようだが、貴様何者だ。」

 

 

銀華さんが叫ぶが、相手は何も答えない。

息を潜めて、こちらの出方を見ているのだろう。

 

 

「だんまりか? なら言い方を変えよう――宗月(むねつき)はお前にどんな命令をしたんだ?」

 

 

宗月だって……!

その名が出てくるのは意外だった。

 

宗月という名は、おそらくこの街で暮らしている限りは必ず耳にする名だ。

この街――いや、この世界の実質的な支配者だ。

3賢者に技術を伝え、このヴィランを繁栄させた。

そして、時空龍達のトップでもある。

つまり敵は、時空龍の手先という事である。

 

 

「葉助、おあつらえ向きの相手が来たんだ。 さっさと片づけて来い。」

 

 

多分この人は、コイツの存在に気づいていて、魔銃(まがん)の試し撃ちなんて言って外に連れ出したんだ。

なんというか――嫌になる。

 

俺はヘイムダルを握り直し、相手の隠れている場所を再確認する。

相手が魔法使いという事は、攻撃の初動ではこちらの方が早い。

かつ、格闘戦を苦手とする者も多い。

すぐに隠れたのも、距離を詰められたくない証拠だろう。

 

そこまで入り組んだ地形ではないが、市街に入られると面倒だ……

決着をつけるならここでだろう。

 

 

”ウィンドウェアⅢ”

 

 

俺は魔法を唱え、自らの脚力を強化する。

 

 

「ふっ――!」

 

 

建物の影から躍り出ると、相手に向けて駆けだす。

 

 

”フレイムタワーⅢ!”

 

 

相手も、こちらに向けて魔法を放ってくる。

俺はその火柱をスレスレで(かわ)しながら、相手への距離を縮めていく。

ローブのフード部分でその表情は見えない。

だが、その挙動は確実に焦っている。

 

俺は相手に向かって2発の弾丸を撃ち込む。

その銃弾は魔法使いの魔法障壁を簡単に貫通して、あいての両肩目掛けて飛んでいく。

俺は跳躍し、相手の頭部を狙って銃を振り下ろそうと――

 

 

「甘ぇよ。」

 

 

魔法使いの口元が、笑みを浮かべたように見えた。

それと同時に、凄まじい殺気を感じた。

本能的に、殴る行動を止めて銃を盾にするように構えていた。

 

それは一瞬だった。

魔法使いは、銃弾を”殴り”落としたのだ。

その拳は炎を纏っている。

2発目の銃弾も殴り落とし、3撃目が俺目掛けて放たれる。

俺はなんとかヘイムダルで受け、後ろに大きく後退した。

 

 

「ちっ、やるじゃねぇか。」

 

「近接型か、面倒なやつだ。」

 

 

俺は相手を睨む。

ヘイムダルのバレルが少し融解している。

魔術的強化を施しているが、それを貫通するほどの火力ということだ。

存在は知っていたが、まさか近接を極めた魔法使いの相手をさせられるとは。

 

 

「オレはよ、この時を待ってたんだぜ!」

 

 

魔法使いはこちらに向けて駆け出した。

さっきまでとは、まるで逆の立場になっていた。

近接戦に持ち込まれたら、確実にこちらが負ける!

 

不用意な射撃は弾かれて弾の無駄になるだろう。

まずは相手の足を止めるのが先か。

俺は相手の足元に向けて2発撃ちこんだ。

 

 

”バブルボムⅢ!”

 

 

弾丸に込められた魔源(マナ)から魔法を発動させる。

発動した泡は、相手の左右から両足を狙う。

 

 

「ちっ!」

 

 

魔法使いは進む足を止め、後方へと跳ぶ。

その際に、左足に泡が掠った。

俺はその隙を逃さず、左足に向けて1発撃ちこんだ。

 

 

”ウィンドカッターⅢ!”

 

 

強力な風の真空波が左足に向けて放たれる。

魔法使いは慌てて魔法障壁を左足に集中させた。

だが、それは俺の予想通りであった。

 

真空波は無傷とはいかないが、止められてしまう。

しかし、その攻撃はフェイクなのだ。

俺の本命である第二射は、相手の左肩へ吸い込まれるように撃ち込まれた。

 

 

”ウィンドカッターⅢ!”

 

 

そのタイミングに合わせて魔法を発動させる。

体内から放たれる真空波は、どんな防御手段を持とうと無意味だ。

 

 

「ぐがっ!」

 

 

真空波は相手の左肩を食い破った。

腕と肩が離れ、ぼとりと地面に落ちる。

しかし、飛び散ったのは赤い液体ではなく、黄金色の液体だった。

 

――人間ではない?

 

 

「ちくしょぅ、こいつは予想外だぜ。」

 

「大人しく投降しろ。」

 

 

俺は銃を向けたまま魔法使いに近づく。

もしやこいつは、最近噂で聞いた人造人間なのでは?

だとしたら、両手両足を潰しておくべきかもしれない。

そう思い、俺は狙いを右肩へと移動させた。

 

 

「今日はお開きだな、葉助!」

 

「なっ――!?」

 

 

魔法使いが急にフードを降ろした。

そうだ、忘れるわけもない。

その顔は、俺のよく知った顔だった。

 

 

「またやろうぜ、殺し合い!」

 

「ま、待て!」

 

 

一瞬の隙を突いて、魔法使いは飛び上がった。

慌てて追いかけようとするが、後ろから銀華さんに肩を掴まれた。

 

 

「不用意に深追いはするな、特に今のお前ではな。」

 

「……」

 

 

間違いない、あの顔は――健司だった。

それも、当時のままの……


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