帰還後に待っていたのは、副隊長のお説教であった。
たっぷりと二人で絞られ、解放されたのは1時間後であった――
「はぁ……」
「葉助、吸うか?」
副隊長の
俺は煙草を受け取ると、魔法で火を点けた。
口に咥え、軽く煙を吸う。
「俺も心配なんだ、あの人に何かあったらと思うと……」
「晧月さん……」
「そういえば、お前に銀華さんの話をした事がなかったな。」
頷くと、晧月さんはソファーに座るように促してきた。
俺は素直に従い、ソファーに腰掛けた。
「あの人はな、全てを奪われたんだ。 地位も、家族も――」
銀華様は、時空龍達の王”
つまり王女様だったって事だ。
それが何故、こんな生活をしていると思う?
彼女の父はとある男の計略で殺されたのさ。
その犯人が、お前もよく知る宗月さ。
当時の奴は宰相という立場にいて、自らが王になる事を望んでいたのさ。
まぁ、結果としては失敗に終わったがな。
王は殺せたが、肝心の戦争に負けて時空龍達は敗走した。
各地の世界に生き残りが散らばり、宗月はこの世界で偉そうにふんぞり返ってるわけさ。
「つまり、銀華さんの目的は復讐?」
「その通りだ、だからこそ危なっかしいんだよ。」
そう言って晧月さんは遠くを見つめるように天井を見上げた。
それは何かを思い出すような顔だ。
「もう、あの人を守れるのは俺だけになってしまった。 みんな死んじまったのさ。」
「……」
「俺もいつまで生きてられるか分からねぇ、だからお前に――銀華様を守ってもらいたい。」
「俺に?」
「そうだ、あの人を守って欲しい。 それが出来るのは、きっとここではお前だけだ。」
俺が、守る?
俺よりも遥かに強いあの人を守る?
守られてるのは、俺の方だ――
最初から、そして今も……
「お前に重荷を押し付けるようで悪いな。」
「俺に、出来るでしょうか?」
「仮にも、俺はそう思ってるよ。」
守る――
その言葉が頭の中で反響していた。
部屋に戻り、椅子に座り込む。
そのまま身体を背もたれに預けた。
ベッドでは、レイが小さな寝息を立てている。
俺は、レイを背負うだけでも精一杯なのだ。
それなのに、これ以上誰かを守るなんて事が可能なのだろうか。
そして――
脳裏には健司の顔が浮かぶ。
間違いなく、あの魔法使いは健司だった。
いや、健司に似せて作った人造人間という可能性もある。
問題は、何故健司に似せて作ったのかという事だ。
もしかしたら、本物の健司は時空龍達に囚われているのではないか?
そんな微かな希望さえ浮かんで来た。
結局の所、あの健司の顔をした敵と再び戦わなければならない事実は変わらない。
守りながら戦う、それはとても難しい事だと思う。
ヘイムダルをホルスターから取り出す。
まずはこいつの修理からか……
何か作業をしている時が一番楽だ。
嫌な事を全て忘れさせてくれる。
この時間が、ずっと続けばいいとさえ思える。
守る命、消える命、消した命、奪われる命。
どれも同じ命。
人の神秘の結晶。
だが、俺は?
紛い物の命に、価値はあるのだろうか。
それでも、紛い物でも本物の命を守る事は出来るはずだ。
「ごほっ!ごほっ!」
手で口を押えて咳き込む。
その手のひらは、真っ赤に染まっていた。
「そうだ、俺の命の限り守ってみせる。 約束したもんな。」
背負ったお前を、絶対に守るさ――レイ。