Overline   作:空野 流星

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二度目の別れ

「Cチーム、潜入完了。」

 

「”Aチーム、了解。”」

 

「”Bチーム、了解”」

 

 

Aチームは銀華さん、Bチームは晧月さん、Cチームは俺が担当だ。

屋敷の中はしーんと静まり返っている。

中の警備システムと電源は全て切断してある。

奇襲に成功しているならば、このまま何事もなく宗月の部屋まで行けるはずだ。

 

メンバーの一人が先行して、慎重に進んで行く。

気持ち悪いくらい何も起きずに進んで行く。

宗月の部屋まではあと200mという所だろうか。

 

 

「まて、誰かいる。」

 

 

広い廊下の真ん中に人影が見える。

暗がりでその表情はよく見えないが、俺には確信があった。

 

――奴だ。

 

あの時戦った魔法使い。

その男が、今ここで立ちふさがっているのだ。

 

 

「やっと来たな、葉助。」

 

「お前は、健司なのか?」

 

「……」

 

 

返答は無かった。

そもそも、健司であるわけがないのだ。

彼は3年前の事件で死んでいるはず。

もし生きていたとしても、3年前の姿のままでいるはずがないのだ。

 

考えられるのは時空龍達が生み出した人造人間。

問題は、何故健司の姿をしているのかだ。

 

 

「答える気は無いという事か?」

 

「いいさ、教えてやるよ。 3年前のあの日の事をな。」

 

 

オレはあの日、誠先輩と相打ちになった。

死を待つだけのオレが選択したのは、お前を助けるために魔源(マナ)を全て捧げる事だった。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「俺の魔源、使えよ――コイツならいけるだろ?」

 

 

レイは静かに頷いた。

二人で葉助に手を掲げる。

 

身体から命が流れ出る感覚を感じた。

多分、俺はこのまま死ぬのだろう。

そう確信した。

 

レイの顔色も蒼白になっていた。

それと比例して、葉助の顔色はだいぶ良くなっていた。

 

俺はふと考えた、別にレイも死ぬ必要はないだろうと。

犠牲は一人で充分だ。

多分残りは、俺一人の分で充分だ。

 

 

「わりぃな。」

 

「え?」

 

 

俺はレイの首筋に手刀をお見舞いして気絶させる。

 

 

「逝くのは俺一人さ。」

 

 

そうして俺は、全ての魔源(マナ)を葉助へと明け渡したのだ。

 

本来ならばそこで終わりだった。

カッコ悪い死体を見せたくなかった俺は、死ぬ前に場所を移動したのさ。

そう、それが悪かった。

 

”奴ら”が現れたのだ。

 

奴らは死にかけの俺を拾って実験体にしたんだ。

手に入れた黒島の研究を試すのに手頃だったのだろう。

 

 

「見てくれよ、脳味噌以外もう機械の身体なんだぜ? こんなの生きてるって言えるか?」

 

「それは……」

 

「まさに生ける屍ってやつだよな。」

 

 

彼との学生時代の思い出が脳裏に浮かぶ。

あんなに楽しかったのに、どうしてこんな事に……

 

 

「だからさ――オレを終わらせてくれよ。 これはお前にしか頼めない事だ。」

 

「健司……」

 

 

彼は笑いながら涙を流していた。

もう人ではない彼は、人としての死を望んでいるのだ。

 

 

「――わかった。」

 

 

俺は、他のメンバーに先行して他のチームと合流するように指示を出した。

多分、俺は間に合わない可能性の方が高い。

 

俺はポケットからカプセルを取り出して、地面に投げつけた。

辺その瞬間、辺りは光に包まれる。

視界は真っ白に染まり、空間の認識は失われる。

 

やがて空間の認識は書き換えられ、見覚えのある風景を形成した。

 

 

「懐かしいな。」

 

「あぁ。」

 

 

俺達二人が通った学び舎。

その校庭に二人は立っていた。

 

俺が使ったのは、結界を形成する術式を封じ込めたカプセルだ。

銀華さんが、宗月を逃がさないようにするために、各自に1個ずつ用意したものだ。

 

 

「ここなら、確かに邪魔は入らないよな?」

 

「そのために大事な結界を使ったんだ、感謝しろよ?」

 

「分かってるじゃねぇか!」

 

 

健司の返礼は拳だった。

最初から読んでいた俺は、フェンリルのバレル部分で受け流し少し距離をとる。

 

そう、これが彼が望んでいた事なのだ。

最後に相応しい戦いを。

いつか望んだ決闘を。

 

 

「なぁ葉助。」

 

「――なんだ?」

 

「オレ、今最高に楽しいぜ。」

 

 

それに答えるようにフェンリルの弾丸を撃ち込む。

健司は拳に炎を纏い、弾丸を叩き落した。

そのままの勢いでこちらへと駆けてくる。

 

前回の戦いから分かっていた事だ。

相手は必ずこちらに近づいてくる。

魔法使いらしからぬ行動をすると――

 

2発の弾丸を自らの足元に打ち込む。

健司は瞬時に危険を察知したのか、後ろに大きく飛ぼうとする。

だが、遅い――!

 

 

”サンダーボルトⅢ!”

 

 

弾丸から魔法が発動する。

健司に向けて2本の雷が真っすぐ飛んでいく。

 

 

”ファイヤーウォールⅢ!”

 

 

防御魔法を使えない健司は、魔法同士の衝突で威力を削ろうとする。

彼の目論見通り、雷の威力は大きく削がれていた。

直撃するが、ほぼダメージを与えられていない様子だった。

しかし、それはさほど問題ではない。

何故なら――

 

 

俺は今健司の背後に立っているからだ。

そのまま2発の弾丸を打ち出す。

 

 

「なっ――!」

 

 

予想外の位置からの攻撃に、彼の反応が一瞬遅れる。

1発は右手で撃ち落とすが、もう1発は――

 

 

”ウィンドカッターⅢ!”

 

 

発動と共に健司の左腕が爆ぜた。

辺りに緑色の液体と金属片がまき散らされる。

 

フェンリルの残弾は1発。

次は外さない……

 

 

「一体なに――っ!」

 

「終わりだ。」

 

 

今度は彼の右側に現れてみせた。

同時に最後の一発を撃ち込む。

弾丸は健司の二の腕に吸い込まれ、そして魔法が発動する。

 

 

 

”ウィンドカッターⅢ!”

 

 

「んがぁ!」

 

 

飛び散る液体と破片。

彼の両腕は見るも無残な状態になっていた。

断面からはバチバチと何か音を立てている。

俺はローブの中に隠していた、左手のソレを健司に向けて構えた。

 

 

「――それがトリックの種か。」

 

「サプレッサーって知ってるか? こいつは発砲音を軽減出来る優れものなんだ。」

 

 

俺は作戦前に、ヘイムダルにサプレッサーを装着しておいたのだ。

本来は暗殺用にと用意していたものだが、俺はある別な使用方法を思いついたのだ。

 

魔法使い同士の戦闘の場合は、魔源(マナ)の反応で攻撃がばれてしまう。

しかし、魔銃(まがん)での魔法発動にはそれがない。

何故ならば、事前に魔源(マナ)を弾丸に込めているためだ。

あとは起爆するだけの状態にしているため、相手が魔法使いでも有利に戦える。

ただ銃という性質上、色々と不便な部分があるのは確かだ。

 

だからこそ、このサプレッサーはその問題の一つを消してくれる。

今の戦いの場合、フェンリルの発砲と同時にヘイムダルを発砲したらどうなる?

耳のいい奴でも判別は難しいだろう。

そう、俺はローブの中で自身にヘイムダルを撃ち込んで魔法を発動したのだ。

 

 

「自己強化と、姿を一時的に消す魔法か……」

 

「そういうことだ、さしずめ幻影弾(ファントムバレット)ってとこか。」

 

「なんだよそれ、発想が、ガキくせぇじゃねぇか……」

 

 

健司は諦めたように地面に寝そべった。

しかしその表情は笑顔だった。

まるで満足だとでも言いたそうに――

 

 

「完敗だ……やっぱりかてねぇか。 オレも頑張ったんだけどなぁ……」

 

「――兄さんに会ったら宜しく頼む。」

 

「あぁ、思いっきり自慢してやるぜ。」

 

 

俺は、そのまま健司の頭部に狙いを定め、ヘイムダルの引き金を――引いた。

 

さよなら、そしてありがとう――健司。


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