Overline   作:空野 流星

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桜散る時

夢を見ていました。

それは大好きな誰かと過ごす日常。

ずっと続く事を望んでいた時間。

夢の中の私はとても幸せそうで、ちょっと焼けちゃいます。

 

 

――

 

 

 

目が覚めると、そこは見慣れた部屋の天井では無かった。

まだ身体は怠いが、ゆっくりと上半身を起こして周りを見渡す。

――どうやら医務室のようだ。

 

確か、お兄ちゃんと軽い言い争いをしてて、その後……

 

ズキン、っと軽く頭に痛みが走った。

私は再びベットに身体を預けた。

きっとお兄ちゃんが、ここまで運んでくれたのだろう。

もう少しこのまま休んでおこう。

そう思い瞼を閉じようと――

 

その瞬間、大きな揺れが襲った。

 

 

「きゃっ!」

 

 

私は咄嗟にベッドにしがみついた。

揺れはすぐ収まったおかげで、特に被害は無い様子だった。

急に揺れて何かあったのだろうか?

得体の知れない不安感が胸を締め付ける。

 

まさか、お兄ちゃんに何かないよね?

ゆっくりとベッドから立ち上がり、慎重に扉に近づく。

センサーが反応して自動で扉が開かれる。

 

廊下を数人の武装した人達が走っていった。

その表情は何か焦っているようだった。

やはり何かあったのだろう、あの慌て方は尋常じゃない。

 

 

「こら、そのまま医務室に隠れていなさい!」

 

「ふぇっ!?」

 

 

声をかけてきたのは、お医者さんだった。

どうやら今、丁度戻って来たようだった。

 

そのまま私を医務室に押し戻すと、扉にロックをかけた。

お医者さんの手にも金属の塊――銃が握られていた。

 

 

「お嬢ちゃんは私が守るから、そのままベッドで横になっていなさい。」

 

「な、何かあったんですか?」

 

「敵襲だよ。」

 

 

テキシュウ。

敵? ここが攻撃されてるの?

一気に恐怖が押し寄せてくる。

 

 

「私、死にたくない。」

 

 

そう口から零れた。

 

 

「きゃっ……」

 

 

再び建物が大きく揺れる。

 

 

「奴らめ、派手にやっているな。」

 

 

どうやらこの揺れの原因は、戦闘での影響らしい。

一体何をしているのだろうか?

 

お医者さんはゆっくりと扉に近づく。

扉に耳を当てて外の音を聞こうとしている。

 

 

”フレイムタワーⅢ!”

 

 

爆風が起こったのはほぼ同時だった。

その一瞬でお医者さんは扉ごと消し炭になった。

 

 

「全く、めんどくさいったらありゃしないわ。」

 

 

部屋の中に入って来たのは女性だった。

年齢はおそらく30代後半くらい。

返り血で染まった、白色のパーカーとロングスカート。

三つ編みを左手で弄りながら――こちらと視線が合った。

 

 

「ひっ――!」

 

「アンタ、確かカスパの爺さんが拾った小娘じゃぁないの。 なんでこんなとこにいるわけ?」

 

 

女性は気怠そうにそう質問して来た。

どうやらこの女性は、私が失っている過去を知っている様子だった。

 

 

「あ、貴女は、私の事を知っているんですか?」

 

「何それ馬鹿なの? 頭だいじょうぶ?」

 

 

なんだかイラっとする返答をされた。

正直、この人は嫌いだ。

 

 

「まぁいいやぁ、どうせアンタ――ここで死ぬんだから。」

 

「えっ?」

 

 

”フレイムタワーⅢ!”

 

 

身の危険を感じて、私は咄嗟に身体を動かしていた。

先程まで横になっていたベッドは、跡形もなくなっていた。

ゾッと背筋に寒気が走る。

この人は、間違いなく本気で私を殺そうとしたのだ。

 

「私が3賢者のメルって知ってて刃向かってるわけぇ? 今すぐしねぇぇ!」

 

 

”フレイムストームⅢ!”

 

 

私は咄嗟に魔法障壁を全面へと展開した。

しかし、荒れ狂う炎を完全に防ぐことは出来るわけがなかった。

全身が焼けるかのような痛みと共に壁へと叩きつけられる。

 

 

「ガキが、私を怒らすとこうなるのよ。」

 

「……」

 

 

痛みで声も出ない。

指の一本さえ動かすことが出来ない。

私、ここで死ぬのかな……?

 

 

「カスパの爺さんの弟子でコレとか、よわすぎぃ! あの爺さんボケでも始まったわけぇ!?」

 

 

メルはそう言ってお腹を抱えながら笑い始めた。

その笑い声がすごい耳障りで嫌になる。

でも、カスパという名を聞くと何か、何か――

 

 

”それでもお前は行くのか?”

 

”あぁ、それが兄の手向けでもあり、私のけじめだ”

 

 

そうだ、どこかで聞いたはずだ。

わたし、わたしは?

 

 

浮かび上がった老人の顔のモヤが消えていく。

そうだ、私は……!

 

 

「何よ、その反抗的な目。 もしかして怒ってる?」

 

「その口を閉じろ……!」

 

 

メルの身体が大きく吹き飛ばされる。

流石の彼女も、急な反撃に対応が遅れたようだ。

 

 

”ウィンドウェアⅢ!”

 

 

強化魔法を使い、壁への激突を避ける。

しかし、その顔に先程までの余裕はなかった。

 

 

「本気ってわけ? ほんと生意気なガキねぇ。」

 

「それ以上あの人のを愚弄するなら、3賢者であろうと――殺す。」

 

 

私は静かにそう言い放った。


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