Overline   作:空野 流星

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あの日の記憶

――私がその人と出会ったのは、もう何年も前だ。

 

 

「君、大丈夫か!?」

 

「ここ、は……?」

 

 

私達は浜辺で出会った。

強制転移でこの世界に飛ばされた私を、彼が最初に発見したのだ。

彼の名はカスパ・ラグナール、3賢者と呼ばれる魔法使いの一人だった。

 

私はそのまま彼の元で暮らす事になった。

自分の世界への帰還方法を探りながら、魔法使いとしての技を磨いた。

元々の私の才能と、最高の先生である彼のおかげで、私の実力はメキメキと伸びていった。

 

――

 

 

 

そんなある日、彼が紹介したのがラタトクス学園だった。

彼は出資者の一人でもあるその学園に、あの男がいた。

私の仇、クロト・フェルナンドだ。

 

やっと私の目的を叶える時が来たのだ。

喜んで私は、その学園へと入学を決めた。

それでも彼は、最後まで私を引き留めた。

 

きっと、彼と共に過ごすのが一番ベストな選択であっただろう。

でも私は、戦う道を選んだ。

そうしなければ、私は前に進めなかったから。

 

 

「それでもお前は行くのか?」

 

「あぁ、それが兄の手向けでもあり、私のけじめだ」

 

 

でもそれは、私の自己満足だ。

結局クロトから、あの後何があったかを問いただす事は出来なかった。

真実は全て闇の中、それでも――

 

 

アイツが、生きていてくれるなら私は、もう――

 

 

―――

 

――

 

 

 

「それ以上あの人のを愚弄するなら、3賢者であろうと――殺す。」

 

 

私は静かにそう言い放った。

 

完全でははいが、記憶は大体戻った。

あとはこの鈍った身体がどこまで動けるかだ。

私はワンピースの裾を破き、少しでも動きやすい状態にする。

 

 

「言ったわねぇ!」

 

「さて、やるか。」

 

 

さて、この狭い医務室でどう立ち回るか……

出入り口は、先ほどこの女がぶち壊した扉の場所だけである。

 

――よし!

 

 

”バブルボムⅢ”

 

 

水の泡を四方へと拡散させる。

機雷として機能させる事で相手の動きを抑制するのが狙いだ。

 

 

「うざったい!」

 

 

”フレイムストームⅢ!”

 

 

火と風の複合魔法を放ってくる。

威力は先程身を以て体験している、二度も食らうわけにはいかない。

 

 

”ブリザードⅢ”

 

 

本来ならば吹雪で攻撃する魔法だが、あえて自らの周辺へと発動する。

炎の嵐は勢いを弱め、私の魔法障壁で無力化できるレベルになる。

バブルボムの位置を動かしながら、相手の懐へと近づく。

 

 

「ガキが、目障りなんだよ!」

 

 

明らかにメルは苛立っていた。

その感情が、彼女の魔法の冴えを鈍らせる。

それが大きなスキとなるのだ。

 

 

「起動――!」

 

 

周囲のバブルボムを一気に爆発させる。

その爆風を防ぐためにメルは魔法障壁を展開した。

私はそのタイミングを逃さなかった。

 

 

「ぐげっ!」

 

 

大きく跳躍し、相手の顔面を踏み台にする。

汚い悲鳴が聞こえたが、気にせず出口へと跳躍する。

 

 

「私はな、言った事を必ず実行する主義なんだ。」

 

 

”タイダルウェーブⅢ”

 

 

水属性最大の魔法を解き放つ。

メルは水流の渦へとそのまま飲み込まれる。

 

 

”アイスウォールⅠ”

 

 

出口に氷の柱で蓋をする。

あの女もこれで終わりだろう。

 

 

「さすがカスパ殿のご息女、天才と呼ばれる事はある。」

 

「――誰だ。」

 

 

一部始終を見ていたらしき男が、拍手をしながら目の前に現れた。

間違いない、こいつは3賢者の――

 

 

「バルト・ザーフィル……」

 

「会うのはいつ以来かね?」

 

 

こいつまでいるという事は、今回の襲撃は3賢者の意向らしい。

ならばあの人も……?

 

ふと先生の顔が浮かぶ。

あの人がそんな事を――

 

 

”フレイムストームⅢ!”

 

 

後方の氷の柱が吹き飛ぶ。

やはりあの程度で倒すのは無理だったか。

 

 

「げほっ……くそがぁ。」

 

 

鬼のような形相でメルが部屋から現れる。

中の水は全て蒸発させられたようだ。

しかし無傷とはいかないようで、その体はふらついていた。

 

 

「貴女もしぶといな、仕事くらいスマートに終らせられないのか。」

 

「うるさい! そいつは私がコロス!」

 

 

流石に3賢者を同時に2人相手にするのは厳しいか……

タイミング悪く、メインの戦力は作戦で出払っている。

時間さえ稼げれば、まだ勝機はあるか?

だがもし、もう一人3賢者が来ているとしたら――

 

いや、やめよう。 今は戦うしかない。

狙うならば弱っているメルの方からなのだが……

メルの属性は火と風、バルトは水と雷の属性を持っている。

つまりバルトをどうにかしなければ、メルを回復されてしまう。

しかしメルの火力は無視できるものではない。

メルを足止めしつつ、バルトを仕留めてからメルを殺す。

この順序が最適だ。

 

 

「何が目的か知らないが、私の記憶が戻ったのがお目達の運の尽きだな。」

 

 

まだ魔源(マナ)には余裕はある、出し惜しみは無しだ。

さてまずは――

 

 

「ぶべっ!?」

 

 

攻撃前にメルの左腕が吹き飛んだ。

バルトが慌てて回復魔法を唱える。

 

そう、このタイミングで現れるのは”アイツ”しかいない。

 

 

「遅かったな、葉助。」

 

 

魔銃(まがん)を構え、その男はそこにいた。


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