Overline   作:空野 流星

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実技試験

夢を見ていた。

 

それはぼんやりとしていて、目覚める頃には忘れてしまう儚い夢。

 

 

「私ね、学校で褒められたの!」

 

「ほぅ、そうなのか?」

 

 

青年の問いに少女は満面の笑みで答える。

 

 

「私の魔法がね、すごいゆーしゅーなんだって!

校長先生も褒めてたよ!」

 

「そうか、――はさすがだな。」

 

 

そう言って青年は少女の頭を撫でた。

少女は気持ちよさに目を細めた。

 

 

「大きくなったらお兄ちゃんのお手伝いしたいの。

だからね、私もっともっと頑張るよ!」

 

「あぁ、楽しみにしてるよ。」

 

 

いつも同じような、違うような……

 

でも暖かな、すぐに忘れてしまう儚い夢。

 

 

 

 

 

朝のホームルームでレイの紹介がされた。

予想通り女子達の黄色い声が飛び交う結果となり、既に仲の良い僕と健司は睨まれる事となった。

 

 

「さて、説明は以上。 各自準備が出来次第ダンジョンに転送するわ。」

 

 

各々がチームごとに集まっていく。

僕達も三人で集まる。

 

 

「さて、そろそろだね。」

 

「まぁ大丈夫だろ!」

 

 

自信満々に健司は言う。

 

 

「二人とも、よろしく頼む。」

 

「うん、こちらこそ。」

 

「腕がなるぜ!」

 

 

周りにの雰囲気から準備が出来たことを感じ取る。

 

 

「では、転送!」

 

 

キャシー先生の詠唱が始まり部屋全体が光に包まれる。

 

ついに試験が始まるのだ。

 

目を開くとそこには背丈の数倍もあるかと思われる壁に四方を塞がれた部屋だった。

 

 

「ここがスタートってわけだな。」

 

 

健司は腕をぶんぶんと回しながら身体を慣らしている。

レイは注意深く辺りを観察している。

 

 

「さて、問題はここからどうやって進むかだね。」

 

 

軽く辺りを見回してみると、扉のようなものは見当たらない。

何か仕掛けがありそうだ。

 

 

「葉助、特に仕掛けもなさそうだった。」

 

 

周りを1週してきたレイが戻ってきた。

どうやら収穫はなさそうだ。

 

 

「うーん……」

 

 

試験なら何かしらの仕掛けがあるはずだけど……

 

 

「めんどくせぇ!」

 

 

健司はそういうと適当な壁の前に立ち右手を掲げた。

明らかに右手に魔源(マナ)の収束が感じられる。

 

 

”ファイヤーウォールⅡ!”

 

 

健司がそう唱えると炎の柱が巻き起こる。

 

当然の如く壁にはまったく損害はない。

 

 

「まったく……後先考えずに。」

 

 

――ゴゴゴゴ!

 

 

先ほどの壁が音と立てて上へと上がっていく。

 

 

「ほらな! うまくいったろ?」

 

 

まったく、なんという……

 

 

しかし開かれた通路の先からは怪しげな双眸がこちらを睨んでいた。

 

 

「こいつは犬っころのお出ましだぜ。」

 

 

現れたのは3匹の狼のような生き物。

ウルフと呼ばれる化け物。

 

外でもよく現れる最下級の化け物である。

 

 

「なるべく魔源(マナ)の消費は抑えておきたいね。」

 

 

そう言って僕は詠唱を始める。

 

 

”ウィンドカッターⅠ!”

 

 

風の真空波が3匹のウルフを襲う。

 

 

「レイよろしく!」

 

 

一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐに行動に移した。

 

 

 

”ファイヤーウォールⅡ!”

 

 

炎の柱がウルフ達を焼き尽くす。

 

やがてウルフ達は光の粉を撒き散らして消滅した。

 

 

「合わせるにしても唐突すぎるぞ。」

 

「ごめんごめん、でも信じてたよ。」

 

 

などと都合の良い事を言っているわけだが。

大丈夫だろうと踏んでの行動だった。

 

 

「さっさと行こうぜ? 時間ももったいないしな。」

 

 

そう言って健司が先導を切って前へと進んでいく。

お前はもう少し頭を使ってくれ……

 

 

「行こう。」

 

 

僕とレイもその後に続いた。


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