Overline   作:空野 流星

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思いのままに

夜道を駆け抜け、俺は屋敷の前まで戻って来た。

夜の屋敷は昼間と比べ不気味さを増している。

 

 

「いい加減出てきて下さいよ。」

 

「……」

 

 

後ろの茂みから銀華さんが出てくる。

宿からずっとついて来ているのには気づいていた。

 

 

「どうしてついて来たんですか。 これは俺の問題です。」

 

「私には関係ないな、勝手についてきただけだ。」

 

「そもそも貴女には!」

 

「それは私が決める事だ。 お前への借りを返してからゆっくり考えるさ。」

 

 

どうやら意地でも戻る気はないようだ。

俺はため息をついて歩き出す。

銀華さんもその後ろに続いた。

 

 

「やはり玄関の扉は開かないか。」

 

「隣の窓を割って入るか?」

 

 

そう言って銀華は窓に向かって銃口を向ける。

 

 

「少々手荒だが、問題ないか。」

 

「よし、いくぞ。」

 

 

そう言って2発銃弾を撃ち込む。

張ってあった魔法障壁を貫通し、窓ガラスが砕け散る。

 

そこから屋敷の中に飛び込み、背中合わせて周囲を確認する。

敵影なし、魔源(マナ)の反応もなし。

 

レイ、どこにいる……

 

 

「微量だが魔源(マナ)の反応がある、3階だな。」

 

「罠の可能性は?」

 

「それにしては微量すぎる。 しかし、警戒するに越したことはないな。」

 

「なら行きましょう。」

 

 

フェンリルのグリップを握りしめ、ホールの階段を駆け上がる。

相変わらず人の気配は感じられない。

通路に何体もの甲冑が飾られている。

 

 

「この先だ。」

 

 

その言葉に背を押されて、俺は前に進む。

きっとこの先に――!

 

 

目の前の大きな扉を開け放つ。

 

 

「葉助!」

 

 

そこには、磔にされたレイがいた。

 

扉の先は、礼拝堂のような部屋になっていた。

その部屋の奥で、レイは十字架に磔にされていた。

純白のドレスを身に纏い、まるで花嫁衣裳のようだ。

そして、その男もそこにいた。

 

 

「おや、まだ招待状は出していなかったはずですが?」

 

「俺の気が変わった、レイは返してもらう。」

 

 

面白いものでも見たかのように、ユニスは声を上げて笑い出した。

非常に癇に障る笑いだ。

 

 

「いや失礼、君の反応があまりにも愉快でね。」

 

 

俺は躊躇なくフェンリルの引き金を引く。

ユニスは飛来した弾丸を、手にした剣で両断した。

 

 

「レイ悪い、先に謝っておく。」

 

「葉助?」

 

「俺はこいつを殺してでも、お前を手に入れる。」

 

 

もう自分には嘘はつかない。

そして俺の邪魔をするなら、誰であろうと排除する。

それが自分のオリジナルであろうと。

 

 

「ククッ、出来るならやってみるがいい。」

 

「言われずとも!」

 

 

フェンリルの引き金を引き、2発の弾丸を撃ち出す。

 

 

加速(アクセル)

 

 

2発目の弾丸が加速し、1発目の弾丸に接触する。

それと同時に魔法が発動し、1発目の弾丸は掻き消える。

 

 

”サンダーウェーブⅢ!”

 

 

敵の魔法障壁を貫通し、目の前で複合魔法を発動させる。

さすがに相手も、こちらの攻撃への対処が遅れる。

 

全身の魔源(マナ)――緑!

 

 

”トルネードⅢ!”

 

 

その隙に乗じて、魔法で追い打ちをかける。

 

 

「早い、人間の発動速度ではないぞ!」

 

 

銀華さんも驚きを隠せないでいる。

鈴華ちゃんの言葉通り、俺は訓練を続けていた。

その結果、今まで以上の発動速度を身に着け、体力の消費も抑えられるようになった。

 

ユニスの身体は大きく吹き飛び、壁へと激突した。

 

 

「立て、まだ死んではいないだろ?」

 

 

俺はフェンリルを構えてユニスへと狙いをつけた。

 

 

「成程、クロトの玩具は予想以上の出来だ。」

 

「まだ、話せるくらいには元気のようだな。」

 

 

もう一度、2発の弾丸を撃ち出す。

これをまた掛け合わせ、複合魔法で攻める。

 

 

「無駄だよ。」

 

 

加速させる前に銃弾が空中で静止する。

違う、これは……

 

 

「魔法障壁か。」

 

 

距離にして30mといった所か。

通常の魔法障壁は、5m前後にしか展開出来ない。

それだけ相手が桁違いなのか、あるいは――

 

 

「お前が考えている以上に、私は化け物だよ。」

 

「そっか、やっぱり無理だよな。」

 

 

俺はフェンリルをホルスターに戻り、代わりにヘイムダルを取り出す。

ロングバレルと拡張マガジンを装着し、いつもとは仕様を変更してある。

勿論、この仕様変更には意味がある。

 

 

「少しでも余力を残して、レイとの時間を増やしたかったんだけどな。

 そう上手くいくわけないよな。」

 

「ほう、まだ私に勝つ気でいると?」

 

 

ユニスは剣を構え直し、こちらの出方を伺っている。

 

 

「銀華さんは手出ししないでください、すぐに終わらせますから。」

 

 

今のヘイムダルは、マシンピストルのようなものだ。

引き金を引き、装填されてある弾丸を一気に吐き出す。

今の俺には、弾丸に込められた魔源(マナ)の色が鮮明に見える。

 

 

「各属性で収束――目標ユニス!」

 

 

無数の弾丸は4つのグループに別れ、それぞれ機動を変えながらユニスに向けて飛んでいく。

奇術弾(イリュージョンバレット)の自己流アレンジだ。

今の俺ならば、銀華さんのように弾丸を全て自由にコントロール出来る。

 

 

「ここまでとは、既に人間の枠を超えているわけだな。」

 

 

――強烈な魔源(マナ)の流れだ。

おそらくは、強力な魔法で全ての弾丸を魔法発動前に消滅させるつもりらしい。

敵の魔法障壁を貫通するまでは、俺が魔法を発動しないと踏んでの行動だろう。

だが、俺の目的は違う。

 

 

”コールダークネスⅢ!”

”ユニオンエクストリーム!”

 

 

弾丸を接触させ、敵の魔法障壁付近で光と闇の魔法を発動させる。

その威力に、相手の魔法障壁に穴が出来た。

 

その穴を、幻影弾(ファントムバレット)で消した銃弾を通過させる。

そしてあとは――

 

 

”ウィンドカッターⅢ!”

 

 

相手の肉を食い破り、その身体をミンチにするだけだ。

いくつもの弾丸が、ユニスの体内に飲み込まれては弾けた。

 

残ったのは彼だったものの肉片だけである。

 

俺はレイの元に駆け寄り、両手の鎖を外した。

 

 

「無事で良かった。」

 

「――来るのが遅い!」

 

「ごめん……」

 

 

その瞳に涙を浮かべながらも強気な返事を返してくる。

それでも、彼女は俺を待っていてくれたのだろう。

 

 

「来てくれたから許す。」

 

「あぁ……」

 

「お前達、いちゃつくのはいいがそろそろ脱出するぞ?」

 

 

銀華さんが呆れ気味に脱出を提案してくる。

レイを取り戻せたのだ、もうここに用はないだろう。

 

 

「全く、能天気なものだな。」

 

「――え?」

 

 

それは、聞こえてくるはずのない声だった。

 

 

「クロトの研究成果をみくびっていたよ。 まさかこれ程の性能を示すとは。」

 

「ユニスなのか!?」

 

 

そう、この声は間違いなくユニスのものだ。

しかし、肉片となった彼が言葉を発する事が出来るわけがない。

 

 

「その問いに答えるならばノーだ。」

 

 

散らばった肉片が、もぞもぞと一か所に集まっていく。

そのおぞましい光景に、全員動く事が出来なかった。

やがて人型となり、ソレはユニスの姿へと戻っていた。

 

 

「やれやれ、まさか人間ごときが時空龍の紛い物レベルにまでなるとはな。

 もう少し彼の研究に付き合うべきだったか。」

 

「貴様、本当に人間か?」

 

「ククッ、私を人間だと? 冗談は程々にしてくれ。」

 

 

ユニスの纏う雰囲気が、先ほどとは明らかに違う。

まるで今までは遊びだったと思わされる程だ。

 

 

「この感覚どこかで――」

 

「銀華さん?」

 

「まだ気づいてなかったのかい? よーく父上が死んだ時の事を思い出したまえ。」

 

 

銀華さんの表情が怒りへと塗りつぶされていく。

 

 

「貴様! 陽甲(ようこう)か!」

 

「その頃は、そんな名だったかな。」

 

「葉助、ここからは私も戦わせてもらう。 こいつは私の一族滅亡のきっかけを作った糞野郎だ。」

 

 

明らかに銀華さんの目つきが変わる。

それは激しい憎悪の目である。

 

 

「銀華さん、奴は何者なんですか。」

 

「私達と同じようなものだ、しかもとびっきりタチの悪いな。

 私が殺したと思ったが、まさか生きていたとはな。」

 

「その言葉はそっくりそのままお返しさせてもらうよ。

 では、第二ラウンドを始めようか!」

 

 

圧を感じる程の魔源(マナ)のうねり。

これが奴の本気だとでもいうのか。

 

 

「レイ、こいつを倒したらお前に伝えたい事がある。」

 

「葉助?」

 

「だから、それまでこいつを預かっていてくれ。」

 

 

そう言って、俺は弾切れになったフェンリルを手渡した。

 

 

「わかった。」

 

 

レイはフェンリルを握りしめ、力強く頷いた。

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