Overline   作:空野 流星

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迷宮の番人

それからも同じような仕掛けが続いた。

 

怪しい壁に魔法を当て、扉の開いていく単調な作業。

 

しかし、それは確実の僕達の魔源(マナ)を削っていった。

 

これがこの試験の本質なのだろう。

 

ならば、行き着いた先にこそ本当の試験があるのではと考えてしまう。

 

 

「葉助、どうした?」

 

 

僕の表情が気になったのか、レイが尋ねてきた。

 

 

「実はこの単調の仕掛けの意味を考えてたんだよ。」

 

 

僕が率直に答えると、レイは納得したような顔をした。

 

 

「それは私も気になっていた。

明らかに魔源(マナ)を消費させるために意図した仕掛けとしか思えない。」

 

 

どうやら同じ結論に至っていたようだ。

まぁさっきから突き進んでいる健司といえば……

 

 

「ははっ、俺に任せとけば試験なんて楽勝だぜ!」

 

 

”サンダーボルトⅠ!”

 

 

「ほら開いたぜ。」

 

 

――これである。

 

 

「待って、この先は今までと違うみたいだ。」

 

 

開いた扉の先は、今までと違い大きく開けた部屋であった。

 

 

「やぁ、おめでとう。」

 

 

男の声が響く。

広い部屋の中央に一人の男が立っていた。

その男はよく知る人物であった。

 

 

火内(ひうち)先生……?」

 

 

2期生の担任である火内先生が何故かそこにいた。

 

 

「君達は無事に試験クリアだ。

後ろにあるゲートを通れば元の場所に戻れるよ。」

 

 

そうは言っても何か引っかかる。

ゲートを通るだけならわざわざここで待つ必要はない。

 

レイと健司も終わってない事を悟り、臨戦態勢になる。

 

 

「いやぁ、実に賢いね君達は。

そう、僕が最後の試験さ。」

 

 

いつもの笑顔を絶やさずに向こうも構える。

 

 

――ゴクリ。

 

 

「本気でかかってきなさい。」

 

 

空気の重さを肌で体感できる重圧感。

冷や汗が額から頬を撫で、床へと滴り落ちる。

 

お互い視線を絡み合わせ、長い沈黙が続く。

しかし、一瞬かもしれない……

 

 

”サンダーボルトⅡ!”

 

 

先に動いたのは健司だった。

雷が火内先生めがけて落ちる。

 

 

”マジックシールドⅢ”

 

 

火内先生の周りに魔法障壁が現れ、雷を打ち消した。

 

あの防御魔法はかなり強力な障壁である。

並の魔法は通用しないだろう。

 

 

「細かい攻撃で相手の魔源(マナ)を削るか、強力な魔法で一気に攻めるか――どうする。」

 

「俺はお前の作戦に合わせるぜ。」

 

「私もだ。」

 

 

二人は僕を信用してくれている。

 

ここまで来るのに、3人共魔源(マナ)をかなり消耗している、長期戦は不利だ。

 

 

「よし、一気に攻めよう! 健司、全力で頼む!」

 

「任しとけ!」

 

 

健司が詠唱を始める。

一撃で決めるには一番火力のある健司の攻撃が決めて手となる。

 

 

”ウィンドカッターⅡ!”

 

 

強力な風の衝撃の波を火内先生へと向けて放つ。

 

 

――ガキン!

 

 

当然の如くそれは魔法障壁によって弾かれた。

しかし、間髪入れずに僕は続ける。

 

 

”ウィンドカッターⅡ!”

 

 

――ガキン!

 

 

同じく魔法障壁によって弾かれる。

所詮は時間稼ぎだ、問題ない。

 

 

”ファイヤーウォールⅡ!”

 

 

レイも僕の攻撃に合わせる。

 

 

「待たせたな!」

 

 

真打登場とばかりに健司が笑顔を見せる。

頼んだぞ健司!

 

 

”フレイムタワーⅢ!”

 

 

強烈な炎の柱が魔法障壁ごと火内先生を覆った。

 

火内先生の顔が驚きに変わる。

 

 

パリーン!

 

 

魔法障壁が砕ける音。

僕達の勝利の音でもある。

 

 

「……」

 

 

火内先生がそのまま立つ尽くしている。

これで合格なのか……?

 

 

「ふふふ……さすがですね。」

 

 

火内先生の表情に笑みが浮かぶ。

 

その笑みの不気味さに嫌な汗が流れる。

 

 

「き、きき君達はははは……」

 

「な、なんだ?」

 

 

急に火内先生の話し方が変になる。

 

刹那……

 

 

――グチャリ

 

 

火内先生の顔が割れた。

 

 

「え……?」

 

 

この世のものとは思えない状況に絶句してしまう。

 

 

「クケケケけけヶ!」

 

 

とても人間とは思えない笑い声を上げながらこちらに向かって走ってくる。

割れた頭部からは、うねうねと触手のような物が生えていた。

 

 

”まずい!”

 

 

とっさに魔法障壁を張ったが遅かった。

 

 

「うっ!」

 

 

触手を鞭のように振り回し、魔法障壁を貫通したそれは僕の身体を吹き飛ばした。

 

 

ドン! と背中に鈍い痛みが走る。

部屋の隅まで吹き飛ばされた事に気づくまでそれなりの時間がかかった。

 

朦朧とする意識の中で状況を確認する。

健司も同じように反対側の隅まで吹き飛ばされ気絶していた。

 

非常にまずい状況だ。

現実じゃないと否定したくなる。

 

こんなの――試験なんかじゃない!

 

 

レイ……逃げるんだ……

 

 

声にならない声をあげる。

化け物はレイの目の前まで迫っていた。

 

 

――あぁ、ダメだ。

 

 

無理矢理繋ぎとめていた意識が途切れかける。

 

 

「レ…イ……」

 

 

―――

 

――

 

 

 

 

 

 

”諦めないで”

 

 

声が聞こえたような気がする。

 

 

”――ならきっと”

 

 

少女。 そう、どこかで見たことがあるような……

 

 

”――で――”

 

 

よく聞き取れない。

何かを訴えようとしているのだろうか?

 

 

少女は右手を差し伸べた。

 

何故だろう。

でも無意識に僕は、その手をとった。

 

 

「僕は……俺は……誰だ?」

 

 

混乱する思考。

突如流れ込む情報の奔流。

 

脳の回路が焼き切れんばかりの熱を帯びる。

 

 

刹那――それは弾けた。

 

 

 

 

 

夢を見ていた。

 

それはぼんやりとしていて、目覚める頃には忘れてしまう儚い夢。

 

手で触れると消えてしまいそうで……

 

 

「……」

 

 

目が覚めた。

 

 

おぼろげな意識が徐々に回復していく。

そしてここが保健室だという事に気づく。

 

 

「――あれ?」

 

 

確か試験の最中だったはずなのだが。

なぜ保健室で寝ているのだろう。

 

順番に気絶する前の記憶を整理していく。

 

今日が試験だった事。

相変わらず健司が無鉄砲だった事。

そして、変異した火内先生の事。

 

 

――そうだ!

 

慌てて辺りを見渡す。

隣のベッドには健司が眠っていた。

 

いない。

 

レイがいないのだ。

 

 

――ガラガラ

 

 

保健室の扉が開く音が聞こえる。

 

ぁ……

 

 

「む、目が覚めたか?」

 

 

保健室への来訪者はレイだった。

姿を見る限りどこにも怪我はなさそうだ。

 

 

「無事だったんだね!」

 

 

彼が無事な事に安堵する。

 

レイはその僕の反応にあきれたように首を振る。

 

 

「あれだけ魔源(マナ)を消費しておいてよく言う。

下手すると死んでいたのはお前だぞ?」

 

 

えっ?

 

 

レイの一言に思考が停止する。

どういう事なんだ……?

 

まったく身に覚えのない事である。

僕はあの時気絶して――

 

 

ドクン!

 

 

――キゼツシテイタハズ

 

 

そう、僕は……

 

 

―――

 

――

 

 

 

薄暗い部屋の中で二人の男が密談を交わしている。

一人は椅子にもたれかかり、もう一人はその正面に立っている。

 

 

「首尾はどうだ?」

 

 

座っている男が尋ねる。

 

 

「ただいまデータの解析中です。」

 

 

そうか、と言って男は唇は吊り上げる。

 

 

「我々の悲願を叶えるため、ミスは許されんぞ?」

 

「わかっております。 失敗作の処理も済ませておきました。」

 

 

そう言って男は火内一男の写真と資料を机に置いた。

まぁ、死体は跡形もありませんでしたが、と付け加える。

 

 

「失敗作も少しは役に立ったようだな。 では、次のフェーズに取り掛かれ。」

 

「御意……」

 

 

男は部屋から退出し、椅子の男だけが残る。

 

 

「もうすぐだ、もうすぐ……」

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