夢を見ていた。
それはぼんやりとしていて、目覚める頃には忘れてしまう儚い夢。
「ねぇ、今度はいつ帰ってこれるの?」
「そうだな、お前がいい子にしていたらすぐだ。」
そう言って青年は少女の頭を撫でた。
少女はいつものように、気持ち良さに目を細めた。
「では行ってくるよ」
一瞬だけ触れ合うお互いの手のひら。
その感触が、やけに現実味を帯びた感触だった。
”力を貸してあげる”
急速に意識が覚醒した。
「おい葉助? 聞いてるか?」
目が覚めると健司が心配そうにこっちを見ている。
「ん……?」
「どうした、疲れてるのか?」
どうやら話を聞いている途中で寝てしまっていたらしい。
何か夢を見ていたような気がするが――思い出せない。
「ごめんごめん、それで何の話だっけ?」
「だーかーらー! 出るんだよ!」
「えっ……?」
ゴホン、と一度咳払いをする。
「幽霊だよ。」
――はぁ、その手の話だったか。
「この寮に出るらしいぜ、幽霊がよ!」
突拍子もない話で盛り上がる健司。
何かトラブルめいた話が好きなのは知っていたが幽霊ねぇ……
「で、その幽霊がこの寮に出るって?」
「そうなんだよ、夜中の2時になると出るらしい。」
なんともお決まりのパターンだ。
「で、続きは?」
「いや、これだけだが?」
「――えっ?」
それだけ?
怖い話ってのはそこから発展していくもんじゃ?
「それだけだぜ!」
「――あっそ。」
席から立ち上がり教室から出ようとする。
「おいおい待てよ! 今日そいつを見に行こうぜ!」
「へっ?」
あまりにも非現実的な提案に間の抜けた声が漏れてしまう。
「だからさ、俺達でその幽霊を捕まえようぜ!」
「いや、無理でしょ?」
「そんなのやってみなきゃわかんないだろ!」
これ以上は突っ込めないと判断し、レイに話を振ってみることにした。
「レイはどう思う?」
「――面白そうだな。」
レイはニヤリとしてそう答えた。
あぁ、これはやられたな。
どうやら最初から決定事項だったらしい。
「そこまで言うからには作戦はあるんだよね……?」
二人の目論見にまんまと嵌ったわけだが。
そこまで言うからにはきっと何か考えがあるんだろう。
まさかあのレイが考え無しに言い出すなんて事は――
「無いぞ?」
「……」
この状況、どうすればいいのだろう。
頭を抱えてその場にうずくまりたかった。
むしろ穴があったら入りたい。
「まぁそういうわけで、2時に捜索開始な!」
あぁ、無視してゆっくり眠りたい……
誰かこの二人を止めてくれ。
こうして無理矢理幽霊探索へと駆り出される事となった。