"目覚めよ"
――声が聞こえる。
"お前は何者だ?"
聞き覚えの無い声だ。
"お前はなんのために生まれ出た?"
――?
"お前の使命はなんだ?"
何を言っているのかさっぱりわからない。
"それはお前自身がよく知る事だ"
分からない。 僕は……
”目覚めよ”
僕は……
最悪の目覚めである。
いわゆるごっつんこ現象。
漫画なんかでよくあるアレだ。
目の前には頭を抑えて沈黙しているレイの姿がある。
――それは数分前
「うわぁぁぁ!」
急速に意識が覚醒する。
刹那……
――ゴツン!
頭部に鈍い痛みが走る。
何か硬いものに額を打ったようだ。
「んくっ!」
誰かの呻き声が聞こえてくる。
徐々に意識が覚醒していき、その状況に気づいた。
目の前には頭を抑えて呻いているレイの姿。
何が起こったかは明白であった。
再び僕の思考は停止してしまっていた。
――そして今に至る。
とりあえずどうするべきなのか……
A:謝る。
B:なだめる。
C:寝る
――プランCで行こうか。
再びに布団の中に潜ろうとしたが……
がしっと腕を捕まれてしまった。
「寝るな!」
「いや、その……」
「行くぞ。」
有無を言わさず連行されてしまった。
「やっと来たか、遅いぞ?」
「……」
「どうしたんだ?」
僕とレイの沈黙に困惑する健司。
軽く頭を掻き少し考え込むように俯く。
「まぁなんだ、行こうぜ?」
探索を始めて10分、相変わらず重い空気が流れていた。
「……」
「……」
僕とレイはお互い距離を離し、顔を合わせないように歩いていた。
その様子を見て健司はどうしていいかわからず、頭を掻いたり、ぅーと唸ったりしている。
明かりの消えている寮内を彷徨い歩く3人。
手元にある懐中電灯のみが先を照らす命綱だ。
ふと、先頭の健司が足を止めた。
「どうかした?」
健司に尋ねてみるが返事がない。
何故か硬直しているようにも見える。
「健司……?」
「――レ」
「えっ?」
「トイレ……」
予想外の返答が健司から帰ってきた。
呆れて何も言えない。
「いいか、待っててくれよな!」
健司は懐中電灯をもったままトイレに駆け込んでいった。
おかげさまであたりは暗闇に包まれた。
「……」
暗闇と静寂が辺りを支配している。
互いの呼吸だけが聞こえてくる。
「レイ、さっきは……」
「いや、いい。」
そう言って遮られた。
まだ怒っているのだろうか?
暗闇のせいでレイの表情は分からない。
「なぁ葉助?」
「ん?」
「うなされてたが、悪い夢でも見たのか?」
そう指摘される。
確かに嫌な夢を見ていたような。
そもそも最近変な夢を見ることが多いような……
”―――”
どこかで……?
「葉助?」
「――いや、なんでもないよ。」
「健司遅いな、ちょっと見てくる。」
そう言ってレイもトイレへと入っていった。
しかし二人とも遅い……
あれから数分立つが戻ってくる気配はない。
周りは静寂が支配する暗闇。
その暗闇がどんどん僕の不安を押し広げていった。
「見てくるか・・・…」
そう口にして立ち上がる。
――その時だ。
何かが横切った。
暗闇であるはずのこの空間でそう認識できた。
「……?」
”――”
あぁ、この子は前にも会ったな。
そこにはかつて見た少女が立っていた。
「君は……?」
「……」
少女は何も答えない。
口も開かず、表情の見せず、人形のように無表情で立ち尽くしている。
「君が話の幽霊なのか?」
その問いに少女は答えない。
まるでこちらを認識していないような無反応である。
”――認識していない?”
本当にそうなのか?
だってあの時彼女は……
確かに僕を見ていたんだ。
今だってそうだ。
彼女は真っ直ぐこちらを見つめている。
認識していないという事はありえない!
「君の名前を教えてくれ!」
何故かそう叫んでいた。
――ピクリ、と少女の肩が動いた気がした。
「――」
かすかに彼女の唇が動いた。
「えっ?」
「――あいつを信じてはダメ。」
そう彼女は言った。
どういう意味なんだ……?
「悪い、遅くなった。」
背後から健司の声がした。
振り向くと健司とレイがトイレから出てきたようだった。
「お、遅かったじゃないか。」
「ん? すぐだったろ?」
えっ?
結構長い時間待っていたような……
「だって遅いからレイが見に行ったんだぞ?」
「そうなのか? 俺の勘違いかなぁ。」
そう言って健司は笑った。
視線を戻すとそこに彼女はいなかった。
”あいつを信じてはダメ”
一体どういう意味なのだろう。
そして、”誰”の事なのだろうか?