Overline   作:空野 流星

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幽霊の正体

結局、寮全体を周ってきたが、特に何かを発見する事はなかった。

 

 

「なんだよ、結構期待してたのに。」

 

「期待してたんだ……」

 

 

何はともあれ問題も起きずに良かった。

 

 

”あいつを信じてはダメ”

 

 

――あの出来事を除いて。

 

 

「この辺で解散にしないか?」

 

 

眠そうな顔でレイがそう言った。

僕も正直今すぐ眠りたい。

 

 

「そうだな、じゃぁこれぐらいで……」

 

 

ガタン!

 

 

食堂の方から物音が聞こえた。

僕達3人は食堂へと向かう。

 

物音は食堂に近づくにつれて大きくなっていく。

本当に噂の幽霊が現れたのだろうか?

 

 

「なんの音だろう。」

 

「ラップ現象ってやつだな!」

 

 

健司がよく分からない用語を言う。

霊的な専門用語か何かだろうか?

 

いまいち振り回されがちな状態に不満を覚えつつも食堂を目指す。

 

――

 

 

ガタガタという音がはっきりと聞こえる距離まで近づいた。

 

――誰かいる。

 

明らかに何かの気配を感じる。

 

 

――ガタリ。

 

 

急に物音が止まった。

幽霊もこちらに気づいたのだろうか?

 

 

「誰かいるのか!」

 

 

健司が声をかける。

当然のごとく返事は返ってこない。

 

 

――コツン

 

 

無言で健司が歩き出す。

一歩、また一歩とその影へと近づく。

 

健司が振り向いてこちらを見る。

行くぞという合図だ。

こちらも首を縦に振って答える。

 

パッ!

 

影にライトを向けた。

 

そこには――

 

「ま、待ってくれ! 警察だけは勘弁してくれ~!」

 

 

見覚えのある男がうずくまっていた。

 

 

「兄さん……?」

 

 

そう、彼の名前は(ひいらぎ) (まこと)

この学校の卒業生であり、僕の兄だ。

 

 

「お、お前ら!」

 

「なんでこんな所に?」

 

「いや、まぁな。」

 

 

記憶通りなら、その才能を買われて市役所勤務になったはずだが。

 

 

「先輩まさか……」

 

 

兄さんは確かに優秀なのだ。

優秀なのだが……

 

 

「――それ以上は言うな。」

 

 

もの凄く、お馬鹿なのである。

まさに天才とアレは紙一重を地でいく人物である。

 

 

「うわぁクビになったのかよ!」

 

 

空気を読まずにそう告げる健司。

 

その台詞にぅぅ、と兄さんが唸りはじめた。

 

 

「……」

 

 

レイが話についていけずに黙りこくっている。

 

――しまった、 一人だけ新参であるレイには先輩の事は分からなくて当然だ。

 

 

「えっと、彼は柊誠。 ここの卒業生で僕の兄さんなんだ。」

 

 

ほほぅ、と相槌をうつ。

 

 

「しかしその卒業生が何故ここに?」

 

 

もっともな意見である。

しかし理由は健司が先ほど……

 

 

「あんまりだ。 絶望した!」

 

 

後輩の心ない言葉に発狂しかけている兄さん。

 

 

その時だった。

 

 

背後に宙に浮く生首が――

 

 

『うわぁぁぁぁ!』

 

 

―――

 

――

 

 

結局幽霊はいなかったという事でこの件はケリがついた。

 

最後に現れたのは寮母さんで、騒いでた僕達を驚かそうと現れたらしい。

なんともまぁ……

 

 

予想通りの成果があがらず、健司はいじけモード。

レイはレイで、いつもと変わらずに過ごしている。

 

僕も何一つ変わらず日常を過ごしている。

 

 

あぁ、兄さんだが……

 

寮母さんに頼み込んで部屋を一つ貸してもらえる事となった。

その代償に寮の仕事の手伝いをさせられている。

 

まぁこれはこれで良かったのでは? と思う。

 

 

季節はもうすぐ真夏にさしかかろうとしていた。

 

 

僕の脳裏には、あの言葉が今も反響している。

 

 

”あいつを信じてはダメ”


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