Overline   作:空野 流星

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柊誠という男

夢を見ていた。

 

それはぼんやりとしていて、目覚める頃には忘れてしまう儚い夢。

 

 

繰り返される毎日。

繰り返される映像。

 

まるで録画されたホームビデオを毎日見せられているような気分。

 

 

――誰が?

 

 

繰り返される毎日。

繰り返される映像。

 

 

――誰の?

 

 

「ねぇ、今度はいつ帰ってこれるの?」

 

 

――それは誰の言葉?

 

 

「今度もすぐ帰ってこれるさ。」

 

 

――それは誰の返答?

 

 

分からない。

 

俺は、僕は、私は……

 

 

何者なのか。

 

 

 

 

 

「兄さんおはよ。」

 

「おはよう弟よ!」

 

 

いやぁ、朝から元気だなぁ。

そう思いながら食堂の席に着く

珍しく真面目に仕事をしているようだ。

 

 

兄さんは昔から気分屋だ。

天気のようにコロコロと気分が変わっていく。

子供の頃はそれでよくイラついていたのを覚えている。

 

あげると言った玩具を返せと言ったり、遊びに行こうと予定を立てれば直前でやめると言ったり……

両親が離婚してからは、疎遠になってしまったのだが……

 

最後に会ったのは、確か入学式の後だったか――

 

 

 

 

 

「俺、感激です!」

 

 

健司は感動に打ち震えていた。

入学式早々仲良くなった彼だが、どうやら兄さんの事を知っていたらしい。

問題児だとはいえ、優秀な人なのは間違いないのだ。

 

 

「そう硬くなるなって、健司君だっけ?」

 

「は、はい! 是非俺を弟子にして欲しいんです! 先輩は俺の目標で憧れで――」

 

「ストップ、すとーっぷ! 気持ちは分かったから!」

 

 

健司の勢いに、流石の兄さんも困っている。

こんな兄さんを見るのは初めてかもしれない。

 

 

「今度会う時に特訓メニュー作っておくからさ、それで納得してくれ?」

 

「わかりました!」

 

 

あぁ、絶対嘘だろうなぁ……

 

 

「そうだ弟よ、最近の調子はどうだ?」

 

「どうって?」

 

「魔法の鍛錬だよ、あれから上達したかな~っと思いましてな。」

 

「別に……」

 

「ふーん。」

 

 

―――

 

――

 

 

 

朝食を食べながら、そんな少し古い記憶を思い出していた。

――今日の食パンは少し硬い。

 

 

「見よ、これぞありがたーい特訓メニューであるぞ!」

 

「ははっ、ありがたき幸せ!」

 

 

朝からバカ二人が何かやっているようだ。

って、あの約束覚えてたんだ。

 

珍しい……

 

 

正直言うと、僕は兄さんが嫌いなのだ。

何が嫌いかと言われれば難しいが、根本的に苦手意識を持っている。

自分とを比較してしまうという部分もあるのだが、これは僕自身の問題でもある箇所だ。

しかしこれから毎日顔を合わせるとなると頭が痛くなる。

 

早々と朝食を食べ終え、僕は食堂を後にした。

またトラブルが起きなきゃいいけど……


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