俺は隠の方に蝶屋敷の門の前に下ろしてもらうと、もう一人の隠の方から松葉杖を受け取り、立ち上がり松葉杖を突く。
「オレたちはここで失礼する」
「はい。ありがとうございました」
俺が頭を下げると、隠の方は手を振りこの場を後にする。
「あっ、楓様。お帰りなさい!」
「お帰りなさーい!」
「柱合会議、お疲れ様でしたぁ!」
そう言ったのは、門の前で待っていてくれた“なほ”たちだ。
だが、いつにも増して嬉しそうな気が?
「何か、嬉しいことでもあったのか?」
俺がそう言って首を傾げると、なほが――衝撃的言葉を発する。
「楓様!――――カナエ様が、目を覚ましたんです!」
朗らかな声でそう言った。
俺は一瞬思考を停止させたが、その場で
その時、
「……楓様。右足を
「楓様は、今怪我のことは忘れ去ってるんだよ、きっと」
「楓様とカナエ様、2人には特別なものを感じるしね!」
“なほたち”がそう言っていたらしいが、俺の耳には入らなかった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「カナエさん!」
目を覚ましベット上で上体を起こし窓の外の花を眺めていたら、ガラガラと勢いよく扉が開いてから閉まり、包帯が巻かれた楓が姿を現す。それにしても酷い怪我だ。私を護る為、かなり無茶をしたのだろう。
私は微笑みながら、楓を見る。
「おはよう、楓」
「ああ、おはよう」
楓は、私の隣に腰を下ろす。
今までの経緯を聞くと、私は皆の頑張りに泣きそうになる。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「そう、柱合会議でそんなことが……」
「ああ。お館様も心配してた」
楓は意を決したように――、
「カナエさんは肺がやられて、もう戦えないんだよな……」
「そう、ね。私は、もう戦えないわ」
私はもう戦えない。肺胞を何割か破壊され機能が低下し、今まで扱ってきた“花の呼吸”の使用ができなくなった。日常生活に支障はないと思うが、戦えない私は刀を置くことになるだろう。――でも、私には“後継者”が居る。
「でも、楓が私の剣を受け継いでくれたから後悔はないわ」
「ああ。花の呼吸は俺にとっては誇りだ。次の代まで、しっかり受け継げさせるから心配するな」
「楓、ありがとう」
私は楓に微笑む。
「……――でももう、私の夢は叶えられそうにないわね」
――私の夢。鬼を斬らずに救う方法。
いつだったか、しのぶには「姉さん、そんなの夢物語よ」って言われたことがあったけ。私たち姉妹を助けたくれた悲鳴嶼さんも「正気の沙汰ではない」とも言われた。
理解されないことは重々承知だ。でも、私は諦め切れられない。――鬼も、嘗ては人だったんだから。そして、哀しい生き物なんだから。きっと、解り合える道があると思った。
「……鬼と仲良くする夢。だったか?」
私は頷く。
「――――カナエさんの想いは、俺
「俺も?」
「そうだな。しのぶさんも受け継ぐと決めてる。でもその為にしのぶさんは、“胡蝶しのぶ”を殺し“胡蝶カナエ”を演じているよ。――自分を殺して他人に成りきるのは、想像以上に神経を擦り減らすから、やっぱ無理して見えるよ」
「俺では、その覚悟に水を差せない」と楓は悲しい顔をする。
「そう。しのぶがそんなことを」
「ああ。押し付けになっちゃうかも知れないけど、カナエさん。どうか“胡蝶しのぶ”を殺させないであげてくれ」
「――わかったわ。近直、しのぶと話してみる。心配しないで、きっと大丈夫だから」
私は両手の平で、パン、と手を叩く。
「暗い話はここで終わり!――それはそうと楓、怪我は大丈夫なの?」
右腕は安静になっているようだが、右足は無理に動かしているようにも見える。
でも楓は「へ?」としていた。
「――――ッ!?!?や、やばい、かなり痛い……」
楓が言うには、右足は骨折しているらしい。なので、楓はベットの上に右足を伸ばした。
「ふふ。そんなになっても、私に会いたかったのね」
私は冗談交じりにそう言うが――、
「そりゃそうだろ。カナエさんは、俺たちの命の恩人で――――
…………楓、きっと無意識ね。タラシの才能があるんじゃないかしら。
「――私も
「そうだな。でもさすがに、ひと月は安静かもなぁ。右腕の筋も、完治まで時間がかかりそうだし」
「終ノ型の代償、だったかしら?」
「まあな。
「終ノ型は誰にも教えないけどな、危ないし」と、楓は苦笑。
その時、アオイが扉をノックして、私たちの返事を聞いてから「失礼します」と姿を現す。
「楓様、お客様です。
「え?マジで。……や、やばい、説教されるのかな」
楓は顔を青くして「大丈夫だよね?そうだよね?」と呟く。
えーと確か、真菰という方は、楓の同期の子だったかしら。
「じ、じゃあ、俺は行くな。カナエさん、お大事に」
楓が扉を出るとアオイが「楓様、松葉杖です」と杖を受け取っていた。
そして、入れか変わるように――、
「――姉、さん」
「――しのぶ」
自然と視線が合い、菫色の瞳の目許に涙が浮かんでいた。
ああ、確かに。しのぶは無理をしてるように見えた。そして、扉が閉まる瞬間に楓が「じゃ、お願いな」と呟いていた。ええ、わかったわ楓。後は、私に任せて頂戴。
骨折しているに、それに気づかない楓君(笑)
てか、楓君とカナエさん。何気に告白をしているって(^_^;)まあ、楓君は無意識なんでしょうが。
ではでは、次回(@^^)/~~~
追記。
楓君は柱合会議の直後、鎮静剤の効果が切れてしまいました。