「着いたわ、起きれる?」
目を擦ると、目の前には大きな屋敷が点在していた。――屋敷の名を、蝶屋敷。というらしい。てか俺、黒髪の女性におぶられてるよね?これって、傍から見たら恥ずかし過ぎる。ともあれ、俺は女性の背から下り、地面に両足を付ける。
「とりあえず、妹さんをお風呂に入れて来るわ。貴方はどうする?」
「そうだなぁ。縁側に座っていいか?」
「わかったわ。じゃ、何かあったら呼んでね」
そう言って、妹を連れて女性たちは屋敷に上がっていった。ちなみに、刀はその場で返却して貰った。
縁側で月を見ながら座っていると、お風呂に入って綺麗になった妹が世話を焼かれている。
「ダメだわ、姉さん!この子全然反応もないし、まるで自分の意思がないみたい!」
「ん~。大丈夫、きっとどうにかなるわ。それに、この子は可愛いもの」
「姉さん!楽観視しすぎよ!」
姉妹(おそらく)の1人が「だよね?」と呟き、俺は「大丈夫だろ」と返した。
「まだ聞いてなかったけど、貴方のお名前は?」
「……“
この名前だけが、両親が残してくれたものだ。
「そう。楓、妹さんのお名前は?」
「……無いんだ、妹の名前はない。俺は、名前をつけてあげられる存在でも無かったしな」
「そんな……」と、姉妹の1人が妹を抱きしめる。きっと姉妹は、良い親の元で育てられたのだろう。でも、俺と妹は外れを引いてしまったけど。
暫しの沈黙が流れ「胡蝶カナエ」と呼ばれた女性の笑い声が洩れる。
「うふふ。決まったわよ、この子の名前。――カナヲ。『栗花落カナヲ』なんてどうかしら?」
「………………」
妹は反応をしない。いや、声は聞こえているがどう判断していいのか解らないのだろう。
だがきっと、胡蝶姉妹ならカナヲのことを愛情を注いで育ててくれるだろう。今、そう確信した。
「妹の顔を見れたことだし、俺はそろそろ行くよ」
「ど、どこに行くのよ!?」
「胡蝶しのぶ」と呼ばれる女性が声を荒げた。
「俺にもわからない。でも俺は、ここに居るべきじゃない人間だ」
「じ、じゃあ、カナヲのことを残していくの!?それに、子供が1人で生きていけると思ってるの!?それに貴方、傷だらけじゃない!?」
「何とかなるだろ、死にはしないと思うし」
まあ、あの化け物を前にしたら死ぬかも知れないけど。
カナエさんに聞いた所、あれは人に肉を食らう【鬼】と言われる化け物らしい。倒す為には日輪刀と言われる刀か、日光の光だけらしい。
「それにカナヲは、胡蝶姉妹と居た方が幸せに暮らせる。仮初の“兄”が傍に居るわけにはいかないしな――お前は幸せに暮らせ、カナヲ」
俺が立ち上がろうとすると――聞いたことがない可愛らしい声が上がる。
「…………お、お兄ちゃん!」
俺は目を丸くする。いやだって、初めて声を聞いて“兄”と呼ばれたんだから。さっきは、意思がなかったこの子がだぞ。
そしてカナヲは俺に寄り添い、袖を、くい。と引っ張るようにして俺を引き止める。
「…………行かないで」
「い、いや、俺はお前の“兄”失格だろ。一緒に居るべきじゃない、胡蝶姉妹に世話になれ」
ふるふると首を振るカナヲ。
「絶対行かせないから」って視線で訴えかけるように見られてるのは、俺の気のせいだよね?だよね?
「うふふ。楓、諦めなさい、カナヲは絶対に引かないわよ」
「どうせ、1人も2人も変わらないわ。カナヲの為にも残りなさい」
「い、いや、でも俺は…………………………―――わ、わかった。世話になる」
胡蝶姉妹とカナヲの言葉により、俺は折れたのだった。
「そうと決まったら、楓はお風呂ね。背中を流してあげましょうか?」
「カナエさん、冗談は止めてね。男にその言葉は麻薬に近いから」
「ふふ、そうかしら。冗談ではなかったのだけど」
数分で、家族の位が決まったように感じる。3姉妹>俺。という感じに。
はあ。と俺は溜息を吐き刀を立て掛け、立ち上がって風呂場へ向かった。――――このようにして『栗花落楓』の新たな人生が始まる。
基本の文字数は、こんな感じでいきたいと思います(たぶん)
では、次回(@^^)/~~~
追記。
楓君。鬼と戦闘後なのに普通に会話をするとか、胆が据わってますね(笑)
楓君は、助けて貰ったことにとても感謝もしています。