~蝶屋敷、居間~
俺は現在、蝶と花の着物を身に纏う二人の少女に正座をさせられていた。
その二人の少女は俺の前に立ち、腰脇に左右の手を当て『怒ってます』という表情である。
「柱に就任し僅かな期間で、お館様のお屋敷を破壊するとはどういうことなの?」
「手合わせをするな。と言わないけど、限度ってものがあるんじゃないかな?」
「……すいません。反省してます」
俺は真菰とカナエさんの問いに、精神誠意を込めて頭を下げる。
臨時会議終了後、修繕費の話になり『風柱』・『桜柱』で半分ずつ持つことになったのだ。
修繕費は蝶屋敷に請求され、俺の
「楓って、こんなに戦闘狂だったかしら?」
「どうだろう?でも、内心で燻ってる物はあるんじゃないかな?」
真菰に「どうなの、楓?」と聞かれ、俺は「……はい、そうです」と答えるのだった。……何か俺、浮気が露見した旦那な気分なんだが。まあ、結婚したことないけど。てか、しのぶさんとカナヲ、面白そうににこにこ見てないで助けてくれ。
「まあいいわ。楓は、これから非番なんでしょ?」
「私も非番だし、三人でお買い物をしに行こうよ」
「……今から行くの?俺、休みたいんだが」
真菰とカナエさんは「へぇ~」と言いながら、俺を見る。……なんかあれだ、逆らえない雰囲気なんだが。
「わ、わかった。街に行こう」
「うんうん。じゃあ、カナエ。新しい着物を新調しようよ」
「そうね、真菰ちゃん。前に話してものね。じゃ、エスコートをよろしくね、楓」
「お、おう」
そう言ってから安堵の吐く俺。つか、柱の威厳皆無なんだが。
ともあれ、俺たちは身支度を整え、街に向かうのだった。
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~下街~
身支度を整えた俺たちは、横に並んで歩く。
「で、二人はどんな着物を買おうとしてるんだ?」
「うーん。私は向日葵柄の着物が見たいなぁ。売ってたら嬉しんだけど」
「私は紫陽花柄かしら」
ふむ。真菰が向日葵で、カナエさんが紫陽花。
俺は内心で想像してみたが、かなり似合うと思った。てか、元が美人だし、二人に似合わない服はないよな。と思う俺である。
街の中を見て回っていたら、女性が集まっている店を見つける。きっと、目的の店なのだろう。
「……着物屋、あそこだよな?」
「混雑してるねぇ」
「最近、できたばかりらしいわよ」
俺、真菰、カナエさんと呟く。
てか、俺も入るの?という疑問が浮上する。明らかに場違いで居心地が悪い気がするんだが。
「離れて待ってるから、二人で行って来いよ」
「いや、楓も一緒に入るんだよ。やっぱり、男性からの意見って必要だと思うんだ」
真菰は俺の右袖を掴み「逃がさないからね」という視線を向ける。
カナエさんも「さ、行きましょう」と言って、強引?に俺を引っ張るのだった。
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~着物店~
店の内部に入ると、店内には様々な着物が陳列されていた。
「見て見て、着物だけじゃなく浴衣もあるよ!」
「本当ねっ。試着して見るのもいいかもね」
「……頼むから、少し落ち着いてくれ」
俺は二人の呟きに、げんなりしながら答える。
そう、周りの女性たちから微笑ましい視線が注がれているのだ。でも、殺伐とした“鬼殺隊”という組織に籍を置いているのだ。はしゃぐのは何となくわかる。
「お客様。そんなに気になるなら、試着してもよろしいですよ」
「本当ですかっ」と呟く、真菰とカナエさん。
「俺のことは気にしなくていいぞ。ゆっくり見て来い」
俺がそう言うと、真菰とカナエは、目的の着物を持っておばさんについて行った。
やはり、男性が一人で残ると女性客の視線が先程より強くなる。これ、ある種の拷問だろ。と思いながら、俺は他の着物に目をやり、時間を潰す。
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「お兄さん、こっちにおいで」
時間を潰していると、着付けを手伝っていたおばさんが顔を見せる。
真菰とカナエさんの着付けが終わったのだろう。なので、俺はおばさんの隣を歩く。
「あの子たちは別嬪さんだねぇ。お兄さんの本命はどっちなんだい?」
「いや、本命とかないですから。てか、そういう関係じゃないんですけど」
「そうかそうか。お兄さんは、二人に囲んでもらうんだね」
「このご時世それは拙いでしょ、おばさん」
そんな会話をしながら、真菰とカナエさんが居る部屋に案内され、おばさんが襖を開けた。
そこには、薄く化粧を施し、着物を着つけた真菰とカナエさんの姿。……てか、女性は化粧で化けると聞いていたが、これは化けすぎでしょ。俺の予想だが、街を歩いていたら、10人中8人が振り返る容姿である。
「ほら旦那さん。どうだい彼女たち?」
いや、旦那じゃないから。と、内心で呟く俺。
それにしても、向日葵と紫陽花の浴衣がもの凄く合っていて、一輪の花のようである。
「あー、うん。別嬪さんだな。似合ってる似合ってる」
真菰とカナエさんは「照れ隠しかな?」と呟き、クスっと笑う。
「他にも着て見るか?」聞いたのだが、真菰とカナエさんは、この着物で満足したようだ。ともあれ、俺が一時退出してから真菰たちは着替え、化粧を落とすらしい。
――閑話休題。
決定した着物を包装してもらい、真菰とカナエさんがそれを受け取ってから、俺がおばさんに代金を払う。
「じゃあ、おばさん。ありがとうございました」
「気に入って貰えてよかったよ。お兄さんも、彼女たちを大切にな」
「命に変えても護るんで安心して下さい」
おばさんは「そうかそうか」と言ってにこにこと微笑んだ。
それから着物店を出て、一息つける店に入る。
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~とある店~
テーブル席に座り、俺が口を開く。
「気分転換はできたか?」
「うん。新しい着物も手に入ったし、満足だよ」
「むふふ~」と笑う真菰。
「そうね。これからも頑張れそうだわ」
カナエさんがそう呟く。
そうだよな、蝶屋敷は怪我人が搬送されてくる重大拠点でもある。基本、ゆっくりできる時間はない。
「楓は柱になったから、今まで以上に忙しくなるんでしょう?」
「私が柱を担っていた時は、警備地区も広くなるし、基本忙しかったわ」
柱の任務は常に死と隣り合わせだ。十二鬼月と対面することになってもおかしくない。
「だろうな。まあ、無理がないように頑張るよ。それに、簡単には死なないから心配するな」
俺だけで上弦に遭遇するのだけは勘弁して欲しけど。でも、きっと逃げることはないだろう。
「じゃあ、約束しよう。鬼舞辻を倒しても、生き残るって」
「そうね。約束しましょう、絶対生き残るって」
「そうだな。約束だ」
真菰、カナエさん、俺と呟き。――そう、約束をしたのだった。
これで、原作前は終了ですね(たぶん)。
しのぶさんとカナヲちゃんは、ぎゆしの、炭カナ設定なので、あまり出てきませんでした。
てか楓君。将来、真菰ちゃんとカナエさんを囲まれ?そうですよね(笑)
ではでは、次回(@^^)/~~~