帰省
「……なあ真菰。俺、帰っていいかな」
俺がそう呟く。
今俺と真菰は、鱗滝さんに顔を見せる為、故卿である狭霧山に向かっているのだ。なんで俺が一緒に居るかと言うと、鱗滝さんからの手紙で『楓も一緒に顔を見せに来なさい、話したいことがある』ということだ。
「ダメだよ。もう、鱗滝さんに鴉を飛ばしちゃったんだから、観念してっ」
真菰は、頬を膨らませて呟く。
俺、鱗滝さんから半殺しにされないよね。客観的に見れば、俺が鱗滝さんの元から真菰を引き抜いた。ということでもあるんだし。
「大丈夫だよ、楓っ。きっと、近況報告だけだと思うし」
真菰はそう言うが、俺は「きっとそれだけじゃないよなぁ……」と内心で呟く。
そんなことを話しながら山を登っていると、ある小屋が目に入る。――鱗滝さんが住まう小屋だ。
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小屋まで歩みを進め扉を開けると、炭火の近場に座る鱗滝さんが、俺を突き刺すように見ていた。……いや、天狗の面で顔が隠れてるから、俺の勘なんだけど
「ただいま~!鱗滝さん!」
「お邪魔します、鱗滝さん」
「真菰、帰ったか……――待っていたぞ、楓」
……後半になるに連れ、鱗滝さんの声が低くなったんだけど、俺の気のせいだよね?
ともあれ、俺と真菰は靴を脱いでから、段差を上がり、鱗滝さんの元へ向かった。
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「――真菰は、蝶屋敷で上手くやってるのか」
「はい。それに、彼女の手腕には驚かされます」
正座をして、鱗滝さんと対面で座る俺がそう言ってから、鱗滝さんは「そうか」と頷く。
真菰は、蝶屋敷の戦力の一つだ。彼女が居ると居ないでは、助けられる命の数も違ってくると見ていい。最初の頃は「覚えることが沢山あるよ」と、若干涙目であったが。
「楓は柱に就任したと、真菰の文にあった。お館様からは何柱の称号を戴いたんだ?」
「やはり花柱か?」と、鱗滝さんは続けた。
「――いえ、桜柱の名を戴きました」
“花”ではなく“桜”の称号になったのは、おそらく俺の派生の為だろう。
そして、鱗滝さんの気配が変わる。
「――だが、柱に就任したからと言って、真菰を預けられると決まったわけではない」
俺は「……避けて通れなかったか」と思いながら内心で溜息を吐く。いや、覚悟はしていたけどさ。
「楓よ。もし真菰が病床に伏せた時、お前はどうする?」
「そうなった場合、俺の最優先事項は真菰の看病。となるでしょう」
俺は間髪入れずに答える。
鱗滝さんは面を食らったよう見えたが、俺の気のせいか?
「……それは、全てを投げ打ってもか?」
「
「地位や名誉も捨てると?」
「――捨てますね。彼女の安全が第一ですから」
――その時、声が上がる。
「う、鱗滝さんも楓もストップっ!私、かなり恥ずかしいよ……」
鱗滝さんの両膝の上に座っていた真菰は、顔を茹でダコのように真っ赤にしていた。まあ、本人の前でする話じゃない気がするし。
でも、鱗滝さんは弟子は、異形の鬼の存在もあり、最終選別から帰って来なかった方が圧倒的に多い。
そして、真菰の前に指導を施して二人の弟子、その二人は、鱗滝さんの弟子の中でも抜きん出た才能を有していたと聞いたが――その片割れは、最終選別で帰らぬ人となってしまった。だからこそ、鱗滝さんは真菰を最終選別に送り出すことを渋っていたと。後に真菰の口から俺は聞いた。
なので俺は、鱗滝さんが過保護になる理由も解る気がする。
「真菰よ。儂にとっては重要なことなのだ、分ってくれ」
鱗滝さんの言葉に、真菰は「うぅぅ」と小さくなり若干涙目である。
ともあれ、鱗滝さんは言葉を続ける。
「及第点、としておこう」
「……及第点、ですか?」
「そうだ。儂は、完全に許したわけではない」
鱗滝さんはそう呟く。
きっと、今の状況を暫く様子見。ということなのだろう。
「わかりました。完全に認めてもらえるように精進します」
「期待してるぞ、楓」
そう言って、鱗滝さんが面の中で笑った気配がした。
この日は、鱗滝さんと近況報告をし、昼食を御馳走になった。帰り際に「――いつでも帰って来なさい、歓迎する」と言ってもらえた。
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~帰り道、道中~
「俺一応、鱗滝さんに認められた、のか?」
「でも、及第点だしなぁ」と、俺は付け加える。
真菰は笑みを浮かべ、
「大丈夫大丈夫。時が経過すれば、完全に認めてくれるって」
「そうだな」
俺もそう呟き、今日のやり取りを振り返る。ともあれ、俺と真菰は、今日の出来事を話しながら蝶屋敷を目指して帰路に着く。
このようして、俺と真菰、鱗滝さんとの会合が幕を閉じたのだった。
楓君と真菰ちゃんですが、着物姿で、腰には(隠して)日輪刀を下げています。
てか、鱗滝さんと楓君の会話を聞いていた真菰ちゃん、かなり恥ずかしかっただろうなぁ。
ではでは、次回(@^^)/~~~