それと、時が結構飛ぶので、その辺はご了承を。
「――置き去りにしてごめんね、炭治郎……」
闇の中で、母さんが呟いた。
――そして、オレは意識を覚醒させる。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「うぅ……」
オレはぐぐもった声を上げる。オレは意識を失っていたのか?一体どうして?
オレは頭の回らない中、辺りを見回すと、すぐ隣に意識を失った禰豆子が横たわっていた。禰豆子は、口に竹製の枷を噛んでいて、家に置いてあった羽織に包まれていること以外変わったことはない。
「――起きたか」
オレが声を発した方に顔を向けると、蝶羽織りを羽織った青年がオレを見ていた。
……そうか。この人は禰豆子を殺さないでくれたのか。
「……はい。オレはこれからどうすれば良いでしょう?」
「お前たちはまず、狭霧山の麓に住む、鱗滝左近次という老人を頼るんだ。――水柱、桜柱に言われて来た。と言えばお前に鬼殺の道を教えてくれる」
「鬼殺の道?」
「文字通り、鬼を殺す道だ。だが、修行は厳しいものになるだろう」
「……でも、その道を行けば、禰豆子を人間に戻せる手掛かりが掴めるんですか?」
蝶羽織りの人は「確証はないけどな」と呟く。でもそうか、可能性はゼロじゃないんだ。
――オレは決めた。例えどんなに困難な道になっても、どんなに辛いことに打ちのめされても、絶対逃げることはしない。禰豆子を人間に戻して見せる。
そんなことを思っていたオレを見て、蝶羽織りの人は「真っ直ぐな目だな」と言って苦笑していた。
「それと、妹を日光の下に晒すなよ、鬼は死ぬからな」
そう言うと、蝶羽織りの人は瞬間移動したようにこの場から消えた。
オレは立ち上がり屈んでから、眠っている禰豆子を背に乗せる。まずは、母さんたちを埋葬しないと。――こうして、オレの鬼殺の道が始まるのだ。
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~一年半後。蝶屋敷、居間~
「――楓は柱なのに、鬼を見逃して、もしもの時は腹を切るってどういうことか説明できるかしら?」
「――鱗滝さんと義勇さんもなんて聞いてないよ、私。ちゃんと説明してね?」
着物姿のカナエさんと真菰は俺の前に立ち、両腕を組んでそう呟き、俺は対面で正座をしながら冷汗が止まらない。……てか、カナエさんと真菰の背に、阿修羅像が浮かんでいるように錯覚するんだが。ちなみに俺も着物姿です、はい。
「えーとですね。黙秘権――」
俺の『黙秘権を行使する』という言葉を最後まで紡ぐことができなかった。いやだって、カナエさんと真菰の「んッ!」っていう怒気?が、怖すぎたからだ。
余談だが、カナエさんはリハビリで、少しの間なら“全集中の呼吸”の使用が可能だ。さすが元柱だなぁ。と俺は思った。
「わ、わかった。一から説明するな」
俺はあの日の出来事を鮮明に語った。
カナエさんと真菰は、俺の話を聞き逃さないように、耳を傾けて聞いてくれた。
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「……なるほどね。それを見て、冨岡君と楓は賭けて見たくなったのね」
「それに、鬼が人間を護るなんて聞いたことないもんね」
カナエさんと真菰は、正座をしてる俺と対面に座り呟く。
俺はびくびくしながら「そ、そうだろ?」と、同意を求めるように呟く。……何か俺、カナエさんと真菰に、尻に敷かれてるように思えるんだが、気のせいだよね?
「炭治郎、だっけ。その子は今、狭霧山に?」
「ああ。鬼殺隊に入隊する為に、鱗滝さんと共に修行を行ってるはずだ」
最終選別に送り出す修行期間は、大凡二年が目安だ。きっと今頃は、最後の修行、といった所だろう。
「じゃあ、私の弟弟子になるんだねっ」
嬉しそうに呟く真菰。
ちなみに、真菰の階級は
「それじゃあ、三人で鱗滝さんの元を訪ねましょう、私、鬼の禰豆子と兄の炭治郎を見てみたいし」
「名案だね、カナエ。私も久しぶりに顔を見せられるし、一石二鳥だよ」
「ま、待って待って。俺抜きで話が進んでない?」
「……楓は反対なの?」
「……私たち、久しぶりのお出掛になるんだよ」
上目遣いで、俺を見つめる真菰とカナエさん。
だが俺は、最後の言い訳を試みる。
「ちょ、蝶屋敷はどうするんだよ?」
「アオイたちだけで回ってるのだから、私たちが居なくても平気なはずだけど」
「……やっぱり、楓は私たちとお出掛するのは反対なの?」
「ぐっ」と息を詰める俺。どうやら退路は塞がれていたらしい。なので、俺の返答は一つしかない。
「わ、わかった。今度の非番の日を合わせて、狭霧山に行こう」
こうして俺、真菰、カナエさんは、今度の非番の日を合わせて狭霧山に向かうことに決まったのだ。
既に尻に敷かれてる楓君(笑)
ちなみに、腹切りの手紙については、鱗滝(義勇)さんとの定期連絡の鴉を発見されバレました。なので、禰豆子は目を覚ましている設定です。