~蝶屋敷、道場~
「うがあぁぁ!今日も負けた――!」
俺は額から汗を流し、道場の真ん中で大の字に寝転がっていた。そして、右手で持っているのは木刀。
拾われた日から、俺は護れる剣を教えて欲しいと、カナエさんに頼み込んだのだ。
「これでも私は『鬼殺隊の柱』ですから。簡単には負けないわよ」
――鬼殺隊。
それは、鬼を狩る人たちが所属する組織。
隊士は凡そ数百名。だが、千年以上の古の時代に発足し、今も尚活動し続ける政府非公認組織。
そして――柱。
柱とは、鬼殺隊での最高位の位であり、鬼殺隊の
カナエさんは『柱』であり、『花柱』の称号を戴いているそうだ。
「大丈夫。楓は最初の頃よりも、剣捌き動きは良くなっているわよ」
カナエさんも最初の稽古よりも徐々に強さを上げてるそうだ。でも、俺が勝てる未来が見えないんだが……。
ともあれ、俺は上体を起こし胡坐をかき、カナエさんも膝を落とす。
「楓は、剣の腕を上げて鬼殺隊に?」
「先のことは決めてないけど鬼を滅したい気持ちはある」
鬼殺隊の大凡は鬼に身内を殺されたと聞いた。彼らの原動力は復讐心で間違えはないだろう。
親が殺された、恋人が殺された、子供が殺された。しかし犯人は【鬼】という化け物だ。警察などは当てにならないなら、被害者が復讐に走るのは当然だ。だが、俺にはそういう感情は無いのだ。俺の場合は、人間の醜さの方が【鬼】よりも恐怖を感じる。
「――でも、今この瞬間も【鬼】によって悲劇は起きてるかも知れないんだよな」
「……そう、ね。私たちが駆け付けた時は手遅れ……という状況は当たり前、になりつつあるわ」
「……そうか。人手不足、という要素もあるんだな」
暫しの沈黙が流れ、俺が口を開く。
「俺はカナエさんたちの手助けになるなら――修羅の道を歩む覚悟はある」
でも、カナヲ怒らないよなぁ。と思う俺だった。
そして、言葉を紡ぐ。
「――鬼殺隊に入る」
「……そう」と、カナエさんは顔を俯けた。
でも、数秒後に顔を上げ、
「それじゃあ、呼吸を会得して貰います」
「呼吸?」
「そ。全集中の呼吸って言って、肺に空気を溜め、血の廻りを増し、一時的に身体強化して型を取り【鬼】と戦う。私は、そう解釈してるかな」
全集中の呼吸は、完全に会得するまではかなり厳しいものらしい。
「私が教えるのは――花の呼吸」
――花の呼吸は、水の呼吸から派生した呼吸。果たして、俺には適性があるかを聞いた所、カナエさんが言うには「大丈夫」ということ。剣を合わせた時、“花の呼吸”の適性を見抜いたらしい。
そして“花の呼吸”の型は、
弐ノ型 御影梅。
肆ノ型 紅花衣。
五ノ型 徒の勺薬。
陸ノ型 渦桃。
であり、攻守に優れた呼吸でもあるそうだ。
「でも、私は“育手”じゃないから、余り期待しないでね」
“育手”を一纏めに言えば、剣士を育てる人物のことである。
俺は立ち上がり、
「これからよろしくお願いします、師範」
そう言って一礼する。
カナエさんは苦笑し、
「いつも通りでいいわよ、疲れちゃうでしょ」
「そ、そうか。じ、じゃあ、これからよろしくな、カナエさん」
「任されました。――それじゃあ、全集中の呼吸をしながら、稽古の続きをしよっか」
「はい?一つ一つでは?」
「稽古は複数進行でいきます」
稽古は、常に全集中の呼吸を行いながらするそうだ。日に日に、難しさも増していくとも言っていた。――カナエさん、厳し過ぎない……。
カナエさん、スパルタですね(笑)
ではでは、次回(@^^)/~~~
追記。
楓君の剣技は、戊(階級5番目)くらいまではあります。まあ、カナエさんと比べたらお子様レベルだと思いますが。