鬼滅の刃~花と桜~   作:舞翼

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信じる心

 楓が瞳を開けると、ある家の門の前に立ち尽くしてした。

 

「……俺の家、か?」

 

 楓の呟きが、風と共に消え去っていく。

 そう。楓が目にしたのは――楓が以前(・・)、両親と暮らしていた家だったのだ。

 そして次の瞬間、楓は目を丸くする。

 

「――ほら楓、早くお家に入りなさい。風邪を引いてしまうわよ」

 

 そう言ったのは、楓が幼い時に町の流行り病で亡くなった母だ。――そう。母が家の玄関の扉の前に立って、こちらを向き手を振っていたのだ。

 母の隣に居る()も、

 

「楓。今日は、母さんの揚げ豆腐(・・・・)らしいぞ」

 

 楓の父は、笑みを浮かべてそう言った。――その笑顔は、楓の笑みと瓜二つだ。

 楓は「そうか」と納得した。楓の両親は既に他界している筈だし、楓本人は、この町為に身売りをされているのだ。――だからこれは、夢だと。

 でも、脱出方法は?血気術だとすれば、日の光を浴びるのが手っ取り早いのだが、ここは夢の中である為、その方法を取ることが出来ない。

 ――その時、ボウッ、と楓の体が燃え、鬼殺隊の隊服に腰に下げている日輪刀が映る。

 同時に、楓は意識が浮上するのを感じた。――現実世界への帰還だ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 魘夢から手渡された縄を介して楓の心に浸入した少年は、右手に携える杭で夢の空間の切り裂き、外側にある核の世界に浸入する。

 浸入した少年は息を詰めた。――そこには大きな桜の木(・・・)が鎮座しており、その木が揺れるのに合わせて桜が綺麗に舞っていたのだ。

 頭上には真っ青な空が広がり、一面は草木に茂っており、温かな空間に満ちたここは楓の無意識領域だ。そして、桜の木の前に浮かんでいる宝石のような桜色の結晶は精神の核だ。

 

「……僕は、こんなにも綺麗な景色を」

 

 破壊しようとした。と、言葉を最後まで発することが出来ず、暗闇の中へ暗転していく。

 その中で少年は無意識に、楓の心の一部が胸の中に浸入させてしまった。――温かい、温かい心を。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 楓が瞳を開けると、そこには眠らされた仲間たちに、気を失ってる子供たち。

 

「楓さん、目を覚ましたんですね」

 

 良かった。と炭治郎は安堵の息を吐く。

 炭治郎に話を聞くと、この夢は鬼の血気術だという。血気術の発動条件は、切符を切った時に遠隔で掛かった可能性が高いということ。

 そして、今楓が右手首に掛かっていた縄を介して、協力者に眠っている人物の夢の中に浸入し、精神の核を破壊されて意識を刈り取る算段だったはず。ということらしい。

 

「助かったよ、炭治郎。……全く、柱が鬼の血気術にかかるなんて情けないな」

 

 楓が立ち上がりながらそう言う。

 楓は、ピクリ。と片眉を動かして、鬼の気配を察知する。

 

「……鬼は先頭車両か?」

 

「たぶんそうです。オレの鼻も、先頭車両の方から嫌な匂いを察知してます」

 

 楓と炭治郎は頷くと、炭治郎が禰豆子に皆を起こしてくれるように頼み、楓と炭治郎は窓の外から上がるように体を反転させ、車両上を駆けて行く。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 先頭車両に到着すると、先頭の車両の上に佇んでいた魘夢は気安く声を掛ける。

 

「あれぇ、起きたの。おはよう、まだ寝てて良かったのに」

 

 ひらひらと手を振る魘夢の姿に、炭治郎が眉を寄せ、楓が魘夢に話し掛ける。

 

「……なぜお前は、関係の無い人たちを巻き込んだ?」

 

「聞いてないの?あの子たちはもう先がない。だから、オレが夢を見せる約束をしたんだ」

 

「……それから、精神を破壊してから喰う、ということか」

 

 魘夢は「そうそう、夢心地だろう」と笑う。

 それを聞いた炭治郎は、青筋を浮かべ日輪刀を抜く。

 

「お前!人の想いに漬け込むな!」

 

 ――水の呼吸 拾ノ型 生々流転。

 

 炭治郎の周りに青き龍の姿が漂うようになり、炭治郎は走り出す。

 それは勢いを付けると大きくなり、魘夢に牙を向ける。

 

「気が早いなぁ」

 

 魘夢は、炭治郎に向けて左手の甲を差し出す。

 

 ――血気術 強制昏倒催眠の囁き。

 

 楓は、魘夢の左手の甲についてた口が開く前に、

 

 ――桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃。

 

 楓が抜刀した刀を横に傾けて加速し、一閃で魘夢に左腕を斬り飛ばしたのだ。

 頸を取れたら一番良かったが、死角になっていた為左腕を斬り飛ばすのが限界だった。だが――攻撃はまだ残っている。

 

「オレたちの想いを、利用するなアァアアァッ!」

 

 炭治郎の刀が魘夢の頸を飛ばすが、斬った手応えが無い。

 頸だけになった魘夢は口を開く。

 

「あの方が、“柱”に加えて“耳飾りの君”を殺せって言った気持ち、凄くわかったよ。存在自体が何かこう、とにかく癪に障って来る感じ」

 

 炭治郎は「死なない」と呟きながら目を丸くする。

 

「うふふふ。素敵だねその顔、そういう顔を見たかったんだよ。――でもそうだよね、なぜ頸を斬ったのに死なないのか。それはね、それがもう本体では無くなっていたからだよ。今喋っているこれもそうさ、頭の形をしているだけで頭じゃない。君たちがすやすやと眠っている間に、オレはこの汽車と融合した!」

 

 魘夢は、楓と炭治郎を見ながらニタニタと笑う。

 

「この汽車全てが、オレの血肉であり骨となった。つまり、この汽車の乗客二百人余りがオレの体を更に強化する餌。そして人質。ねぇ、守りきれる?君たちだけで、この汽車から端から端までうじゃうじゃとしている人間全てを――オレに“おあずけ”させられるかなぁ?」

 

 魘夢は「うふふ」と言って、列車の屋根に溶け込んで消える。

 魘夢の言葉に弾かれるように、楓と炭治郎は列車内へ戻った。そこで目にしたのは、天井や椅子の端から肉塊なようなものが盛り上がり、乗客を包み込もうと蠢いているのだ。

 

 ――花の呼吸 五ノ型・() 徒の勺薬。

 

 楓が放った十八連撃(・・・・)が肉塊に直撃し、肉塊を灰に還す。

 

 ――水の呼吸 参ノ型 流流舞い。

 

 炭治郎は水流に身を任せて流れるように、狭い通路や座席の間を移動しながら肉塊を斬り灰に還す。――この型を放っただけでこの車両の肉塊は消え去ったが、時期に再生するだろう。

 そこへ、後方車両から誰かがやって来る気配を捉える。この気配は、杏寿郎のものだ。

 杏寿郎の到着と同時に車両が揺れ、目の前には杏寿郎の姿。

 

「ここまで来るまでに斬撃を入れて来たので鬼の再生にも時間がかかると思うが、余裕はない、手短に話す。この汽車は八両編成だ!なので、栗花落とオレで四両づつ守る。竈門少年たちは、鬼の頸を探せ!」

 

 杏寿郎の言葉は簡潔だった。

 それから、楓は刀を握り直し口を開く。

 

「炭治郎。車両の乗客は、煉獄さんと俺に任せろ。炭治郎は、善逸たちと協力して鬼の頸を落とせ」

 

「わかりました。まずは、善逸たちと合流します」

 

「うむ!急所を探りながら戦おう、君たちも気合いを入れろ!」

 

 そう強く言うと、杏寿郎は凄まじい勢いで後方車両に向かい、炭治郎は善逸たちと合流する為走り出し、楓は納刀し、右掌を添える。

 

 ――桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃。

 

 凄まじい勢いで前方に加速し、姿が見えなくなる。

 そう、一人では出来ないことは仲間がいれば出来る。そう信じて各自は行動を起こしたのだ。




楓君と炭治郎が魘夢(仮)を倒してから降り立った車両の位置は、四両目でした。
下弦の壱は簡単に滅せそうですね。……刺されるのは回避出来ないかもですが。

ではでは、次回(@^^)/~~~

追記。
楓君の好物は揚げ豆腐でした。
真菰ちゃんが揚げた揚げ豆腐が別格なのは、亡き母の味+真菰ちゃんの料理の味。おそらくここからきてるんでしょうね。

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