――術式展開 破壊殺・羅針。
「鬼にならないなら殺す」
猗窩座は足元に雪結晶の陣を出現させると、凄まじい速度で楓と杏寿郎に迫る。
――炎の呼吸 壱ノ型 不知火。
――桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃――極。
型を繰り出し、杏寿郎が地上から迫り、楓は地を踏み込んで空に躍り出る。楓と杏寿郎は地と空から猗窩座の頸を狙ったのだ。
地を踏み跳び上がった猗窩座は、楓の一閃を拳で往なすと、着地した瞬間に杏寿郎の一撃を弾き飛ばす。その圧倒的な実力は、下弦の力量を遥かに上回る。
そして猗窩座は、興奮で頬を緩めながら地を踏み跳んだ。
「今まで殺してきた柱たちの中に、炎・桜はいなかったな。そして、オレの誘いに頷く者もいなかった。なぜだろうな?同じく武の道を極める者として理解しかねる。選ばれた者しか鬼にはなれないというのに。――素晴らしき才能を持つ者が醜く衰えてゆく。オレはつらい、耐えられない、死んでくれ杏寿郎、楓。若く強いまま」
――破壊殺・空式・乱。
――炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり。
――花の呼吸 弐ノ型 御影梅。
猗窩座が拳を虚空に打つと、打撃は直線的に杏寿郎と楓を襲う。
初弾の打撃は杏寿郎が炎の斬撃で相殺させ、遅れて襲う打撃は、楓が周囲に放った花の斬撃が相殺させる。――呼吸の二重防御だ。
――花の呼吸 五ノ型・改 徒の勺薬。
楓は花の十八連撃で猗窩座の急所を狙い放ったが、猗窩座は空中で身を捻り体勢を整え、花の斬撃を拳で弾き落とし着地する。――柔軟さ、強さ、反射速度。どれを取っても通常の鬼の比ではない。
「こんなにも美しい花の斬撃は初めてだぞ、楓!――やはり、お前は鬼になるべきだ!」
猗窩座は楽しそうに、嬉しそうに声を上げる。――まるでそれは、自身の好敵手を見つけたように。
楓は、その言葉を聞き額に青筋を浮かべる。
「――なるわけないだろッ」
楓は声を荒げ、刀を構えた。
――桜の呼吸 弐ノ型 千本桜。
刀を振るうと、無数の桜の斬撃が猗窩座の頭上から降り注ぐが、猗窩座は致命傷になる斬撃だけを拳で弾き飛ばす。
「鬼になれば、この斬撃の致命傷以外は掠り傷みたいなものだ」
猗窩座は「その証拠にほらな」と言って、瞬く間に傷が治る部位を指差す。――そう。楓の斬撃で傷付いた部位が、鬼の回復力で塞がっていたのだ。こうなっては、距離を取って攻防をしていたらジリ貧だ。――近距離で戦うしかない。
楓が杏寿郎と目を合わせると、杏寿郎も「承知」と視線で頷いていた。
楓と杏寿郎は猗窩座と間合いを詰め鋭い剣技を繰り出すが、猗窩座は喜々とした表情でそれを拳で往なすか、弾き落としている。
そして、猗窩座と一瞬一瞬の攻防は、少しでも反応が遅れれば致命傷になる。
「杏寿郎、楓、素晴らしい剣技だ!だが、鬼にならなければこの剣技も失われていくのだ!お前たちは悲しくないのか!」
「悲しい感情などない!オレの
そう言った杏寿郎の顔は、剣技の速度に慣れた猗窩座の拳が徐々に掠り、額、頬、左目が
「猗窩座、お前の物差しで見るな。俺たちは、自身の信念の為に腕を磨いてるんだ」
そう言った楓も、杏寿郎と同じく、額、頬から鮮血を流し、右脇腹の骨が折られていた。
――破壊殺・乱式。
――炎の呼吸 五ノ型 炎虎。
――花の呼吸 五ノ型・改 徒の勺薬。
猗窩座の放った拳、杏寿郎の轟炎、楓の美花が衝突し、凄まじい爆発音を放つ。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「生身を削る思いで戦ってとしても全て無駄なんだよ、杏寿郎、楓。――お前たちがオレに喰らわせた素晴らしい斬撃も、先程のように完治してしまった。だがお前たちはどうだ――」
猗窩座が目にするのは、左腕の骨が折れ、腕がだらりと垂れ下がり、右脇腹の骨が折れそこから血が滲み、額、頬は切り傷だらけで鮮血を流す楓。
そして、潰れた左目に、折れた肋骨、額、頬から鮮血を流す杏寿郎。
「鬼であれば、瞬きする間に治る。――そう、どう足掻いても人間では鬼に勝てない」
猗窩座は、楓と杏寿郎を見下すように見る。
だが楓は、右手で刀を構え口を開く。
「――猗窩座、お前は一体何様のつもりなんだ。鬼が強い、人は弱いとか、誰がそんな風に決めた?鬼が強い生き物なら、人間は強くなれる生き物だ。だから、鬼殺隊員は人間の身で鬼と戦えている。その事実が否定できない癖に、勝手なことばかり言うな」
楓は「惨めだぞ、お前」と続けると、猗窩座の額に青筋が浮かぶ。
「……そうか。楓、ならばお前は強い人間だと言うんだな?」
楓は「俺は強くなんかない」と言って頭を振る。
「俺は弱い人間だ。ただ強くあろうという想いで、懸命に上を目指しているだけだ」
楓の脳裏に過るのは、蝶屋敷に住まう皆だ。――彼女たちの助けがなければ、今ここに楓は居ないのだから。
そんな楓の言葉を、杏寿郎は静かに聞いていた。
そしてこう思った「自身より年下の子が、このような想いを抱いて鬼殺を行っていたなど、考えたこともなかった」、と。
その時、杏寿郎は有る光景を思い浮かべる。それは、床に伏せていた母の姿だ。母は、病に侵されようとも最期まで凛としていた。杏寿郎は、そんな母との会話を思い出したのだ。
ある日、日々の報告を母の部屋に訪れた時だ。母は唐突に『強き者』について問うてきたのだ。
そう、杏寿郎は強き者なのだ。しかし、当時の杏寿郎は言葉に詰まってしまった。当然だったのかも知れない、杏寿郎は、自身が強者だと漠然にしか受け止めていなかったのだ。
そんな杏寿郎に母は、凛とした眼差しでこう言ったのだ。
『強き者は、弱き人を助ける為です。――生まれついて多くの才に恵まれた者は、その力を世の人たちの為に使わねばなりません。天から賜りし力で、人を傷つけること、私腹を肥やすことは許されません。――弱き人を助けることは、強く生まれた者の責務です。責任を持って果たさなければならない使命なのです。――決して、忘れることなきように』
杏寿郎が母の想いを聞いて数日後に、母は天に昇った。
最後まで凛々しく、静かに息を引き取ったのだ。
そして楓の今の想いは、決して芽を摘ませたらいけない。――自身の使命として、責務として、個人の想いとして。
「(――母上。オレは今、次世代を担う子と共に戦っています。決して、この芽を摘ませたりはしません。それが、オレの使命です――)」
杏寿郎は刀を握り締め、
そして、杏寿郎は型を構える。
――炎の呼吸 奥義 玖ノ型・煉獄。
杏寿郎の覇気に一瞬押されたのか、猗窩座の反応が遅れた。次いで、凄まじい直線的な加速に爆風と土煙。
土煙りが晴れると、そこに映ったのは猗窩座の頸は斬れていないものの、両腕と体の
追撃を加えたいが、杏寿郎は技の反動で動くことが叶わない。そして、猗窩座が体の再生を完了させたら最後、動けない杏寿郎は、猗窩座の手によって殺されるだろう。
右腕だけを再生し終えた猗窩座は、片足だけを踏み込み、杏寿郎の腹目掛けて拳を振るった。
絶対絶命の炎柱、桜柱ですね。
今後どうなるんだろうか?
ではでは、次回(@^^)/~~~