鬼滅の刃~花と桜~   作:舞翼

38 / 69
思い

 ~病室~

 

 楓が大怪我をしてから数日が経過し、楓は困った事項があった。カナエと真菰が過保護過ぎるのだ。いや確かに、上弦(下弦)と対峙して大怪我を負った経験は数え切れない程あるけど。

 

「楓。あーん」

 

 真菰がベットの隣に備え付けられている椅子に座り、右手が携えているお椀の中に入っていた患者食を蓮華で掬い、楓の口許に移動させる。

 

「……いや、自分で食えるから」

 

 楓は「右腕は骨折してないんだし」と真菰に言ったが、真菰は「ダメだよっ、楓は患者なんだからっ」と言ってから頬を膨らませる。

 

「楓。真菰ちゃんのご飯を食べたら私の方ね」

 

 真菰と挟むように座っているカナエも、お椀から蓮華で患者食を掬う。

 この光景を見ていた善逸は「キィィイイイ――――ッッ!(汚い音声)楓さん羨まし過ぎ――――ッッ!(血涙)やっぱり、柱になればもてるのか!?そうなのか!?」って叫んでいた。

 ともあれ、楓は覚悟を決め、真菰が口許に運んだご飯を食べ、咀嚼し飲み込んだ。

 

「おいしい?」

 

 真菰は上目遣いで楓を見る。

 

「旨いぞ。てか、この飯、カナエさんと真菰が作ったのか?」

 

 何と言うか、楓には懐かしい味なのだ。

 

「そうよ。楓のお母様の料理の味に近づけるように、真菰ちゃんと頑張ってるのよ」

 

 楓は目を丸くする。

 確かに楓は、口頭でどのような味だったのかを真菰とカナエに話したが、それが再現出来るとか予想外過ぎた。

 

「はい、あーん」

 

 カナエがそう言ってから、楓はカナエが口許に持ってきた蓮華を口に運んで咀嚼する。

 

「どうかな?結構力作のつもりなんだけど」

 

 カナエがそう呟き、楓はご飯を飲み込んでから口を開く。

 

「旨いよ。……やっぱ、懐かしい味がするなぁ」

 

 楓は考え深く呟く。

 まだ町に在住していた時、両親との暮らしを思い出したのだ。

 

「ど、どうしたの楓!?」

 

「だ、大丈夫?やっぱり、口に合わなかった?」

 

「だ、大丈夫だ。思い出からの涙だから」

 

 そう。――思い出とご飯の味が、楓の涙線を刺激したのだ。

 カナエと真菰は「そ、そっか」と安堵をする。

 ともあれ、全ての飯を食べ終えた所で、楓が口を開く。内容は、猗窩座戦で目にした透き通った世界のことだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「全てが透明に見えた。ってこと?」

 

 真菰の問いに、楓は「ああ」と頷く。

 

「その世界に入った時、相手の動きの予測に、自身の攻撃、回避速度の上昇、相手の肺の動きや血管の流れ、筋肉の収縮が透けて鮮明に見えたんだ。――感覚としては、余分な物を全て削ぎ落とし、最小限の動作で最大限の力を出す感じだったな」

 

「……そっかぁ。でも私、そんな世界があるなんて初めて聞いたよ」

 

「俺もそうだしな。今になって思うと、あの世界に入るには条件があるんだと思う」

 

 楓は「例えば、生と死の狭間でのみ“透き通る世界”の道を掴み取れ、死の間際でも正確な呼吸と動きを崩さないとかな」と、続けるのだった。

 

「正確な動きと呼吸かぁ。もしかしたら、楓が型を舞っていた(・・・・・・・)ことに繋がるのかしら?」

 

 カナエがそう言った。

 そう。楓は空いた時間を見つけたら、剣技の確認の為道場で()の呼吸の型を舞っていたのだ。

 

「どうだろうな。でも、正確な動きの要素にはなったんじゃないか」

 

 その時、診療室の方から声が響き渡る。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

『冨岡さん。前に姉さんに言われましたよね、“怪我をしたらすぐに見せてね”、と』

 

『……任務には支障はない。オレにとっては、鬼を一体でも倒すことが望ましい』

 

『鬼を倒すと言いましても、体が言うことを聞かなくなりましたら意味がありませんからね』

 

『……わかっている。だから、胡蝶に薬の依頼をした』

 

 義勇は「薬を貰ったら任務に向かう」と、しのぶに仏頂面の面持ちで言うと、しのぶは額に青筋を浮かべる。

 

『……本当は、冨岡さんの怪我は入院が必要なんですよ。休むことも任務の一環です』

 

 義勇は、むう。という表情を浮かべ「……入院は困る」と言うのだった。

 そしてしのぶは、はあ~。と盛大に溜息を吐くのだった。

 

『わかりました。それでは、薬を傷口に塗ったら常中を維持して今日は安静にしていて下さい』

 

『…………承知した』

 

 義勇はしぶしぶ頷くのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「義勇君としのぶ、またやってるのね」

 

「ね~。きっとしのぶは、言葉足らずの義勇さんを放っておけないんだよ」

 

「傍から見ても、冨岡さんとしのぶさんはお似合いだしな」

 

 楓たちは、うんうん、と頷く。

 ともあれ、これからの楓は困った事項があるのだ。――『風呂はどうやって入るか?』ということである。昨日までは、体を拭くことで済ませてきたが、二日連続は楓自身が厳しいのだ。

 その話題が上がったのは、必然だったのかも知れない。

 

「ところで楓、今日はお風呂に入るんでしょう?」

 

「その怪我じゃ、一人じゃ無理よね」

 

「ひ、一人で大丈夫だ。問題ない」

 

 楓はそう言ったが、医療に携わるカナエと真菰の前では無意味になる。

 

「本当に?お風呂に浸かったらダメな部位もあるんだよ」

 

「楓はきっと無茶しても浸かるでしょう?無理はダメよ」

 

 真菰とカナエは「――一緒に入りましょう」と提案する。

 まあ確かに、真菰とカナエは楓のお嫁さんなので、色々な意味で問題がないと言える。

 

「……――えーと。一緒に入らない選択肢は?」

 

「ないね」

 

「ないわね」

 

 楓は嘆息した、これは絶対に勝てないと悟ったのだ。

 

「……はあ、襲われても文句は言うなよ」

 

「大丈夫だって、楓は理性のお化けだから」

 

「そうね。同じ部屋で寝ているのに襲って来ないのが良い例だわ」

 

 楓は、音柱・宇髄天元に『栗花落、嫁の尻には敷かれるなよ』と言われていたが、既に敷かれていたのだった。




今回は、ぎゆしの要素を入れて見ました(^O^)

大正のコソコソ噂話。
しのぶさんは、蝶屋敷に居る時は“素”を出す(限られた一部の人の前)ことがあるんだよ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。