~病室~
楓が大怪我をしてから数日が経過し、楓は困った事項があった。カナエと真菰が過保護過ぎるのだ。いや確かに、
「楓。あーん」
真菰がベットの隣に備え付けられている椅子に座り、右手が携えているお椀の中に入っていた患者食を蓮華で掬い、楓の口許に移動させる。
「……いや、自分で食えるから」
楓は「右腕は骨折してないんだし」と真菰に言ったが、真菰は「ダメだよっ、楓は患者なんだからっ」と言ってから頬を膨らませる。
「楓。真菰ちゃんのご飯を食べたら私の方ね」
真菰と挟むように座っているカナエも、お椀から蓮華で患者食を掬う。
この光景を見ていた善逸は「キィィイイイ――――ッッ!(汚い音声)楓さん羨まし過ぎ――――ッッ!(血涙)やっぱり、柱になればもてるのか!?そうなのか!?」って叫んでいた。
ともあれ、楓は覚悟を決め、真菰が口許に運んだご飯を食べ、咀嚼し飲み込んだ。
「おいしい?」
真菰は上目遣いで楓を見る。
「旨いぞ。てか、この飯、カナエさんと真菰が作ったのか?」
何と言うか、楓には懐かしい味なのだ。
「そうよ。楓のお母様の料理の味に近づけるように、真菰ちゃんと頑張ってるのよ」
楓は目を丸くする。
確かに楓は、口頭でどのような味だったのかを真菰とカナエに話したが、それが再現出来るとか予想外過ぎた。
「はい、あーん」
カナエがそう言ってから、楓はカナエが口許に持ってきた蓮華を口に運んで咀嚼する。
「どうかな?結構力作のつもりなんだけど」
カナエがそう呟き、楓はご飯を飲み込んでから口を開く。
「旨いよ。……やっぱ、懐かしい味がするなぁ」
楓は考え深く呟く。
まだ町に在住していた時、両親との暮らしを思い出したのだ。
「ど、どうしたの楓!?」
「だ、大丈夫?やっぱり、口に合わなかった?」
「だ、大丈夫だ。思い出からの涙だから」
そう。――思い出とご飯の味が、楓の涙線を刺激したのだ。
カナエと真菰は「そ、そっか」と安堵をする。
ともあれ、全ての飯を食べ終えた所で、楓が口を開く。内容は、猗窩座戦で目にした透き通った世界のことだ。
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「全てが透明に見えた。ってこと?」
真菰の問いに、楓は「ああ」と頷く。
「その世界に入った時、相手の動きの予測に、自身の攻撃、回避速度の上昇、相手の肺の動きや血管の流れ、筋肉の収縮が透けて鮮明に見えたんだ。――感覚としては、余分な物を全て削ぎ落とし、最小限の動作で最大限の力を出す感じだったな」
「……そっかぁ。でも私、そんな世界があるなんて初めて聞いたよ」
「俺もそうだしな。今になって思うと、あの世界に入るには条件があるんだと思う」
楓は「例えば、生と死の狭間でのみ“透き通る世界”の道を掴み取れ、死の間際でも正確な呼吸と動きを崩さないとかな」と、続けるのだった。
「正確な動きと呼吸かぁ。もしかしたら、楓が
カナエがそう言った。
そう。楓は空いた時間を見つけたら、剣技の確認の為道場で
「どうだろうな。でも、正確な動きの要素にはなったんじゃないか」
その時、診療室の方から声が響き渡る。
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『冨岡さん。前に姉さんに言われましたよね、“怪我をしたらすぐに見せてね”、と』
『……任務には支障はない。オレにとっては、鬼を一体でも倒すことが望ましい』
『鬼を倒すと言いましても、体が言うことを聞かなくなりましたら意味がありませんからね』
『……わかっている。だから、胡蝶に薬の依頼をした』
義勇は「薬を貰ったら任務に向かう」と、しのぶに仏頂面の面持ちで言うと、しのぶは額に青筋を浮かべる。
『……本当は、冨岡さんの怪我は入院が必要なんですよ。休むことも任務の一環です』
義勇は、むう。という表情を浮かべ「……入院は困る」と言うのだった。
そしてしのぶは、はあ~。と盛大に溜息を吐くのだった。
『わかりました。それでは、薬を傷口に塗ったら常中を維持して今日は安静にしていて下さい』
『…………承知した』
義勇はしぶしぶ頷くのだった。
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「義勇君としのぶ、またやってるのね」
「ね~。きっとしのぶは、言葉足らずの義勇さんを放っておけないんだよ」
「傍から見ても、冨岡さんとしのぶさんはお似合いだしな」
楓たちは、うんうん、と頷く。
ともあれ、これからの楓は困った事項があるのだ。――『風呂はどうやって入るか?』ということである。昨日までは、体を拭くことで済ませてきたが、二日連続は楓自身が厳しいのだ。
その話題が上がったのは、必然だったのかも知れない。
「ところで楓、今日はお風呂に入るんでしょう?」
「その怪我じゃ、一人じゃ無理よね」
「ひ、一人で大丈夫だ。問題ない」
楓はそう言ったが、医療に携わるカナエと真菰の前では無意味になる。
「本当に?お風呂に浸かったらダメな部位もあるんだよ」
「楓はきっと無茶しても浸かるでしょう?無理はダメよ」
真菰とカナエは「――一緒に入りましょう」と提案する。
まあ確かに、真菰とカナエは楓のお嫁さんなので、色々な意味で問題がないと言える。
「……――えーと。一緒に入らない選択肢は?」
「ないね」
「ないわね」
楓は嘆息した、これは絶対に勝てないと悟ったのだ。
「……はあ、襲われても文句は言うなよ」
「大丈夫だって、楓は理性のお化けだから」
「そうね。同じ部屋で寝ているのに襲って来ないのが良い例だわ」
楓は、音柱・宇髄天元に『栗花落、嫁の尻には敷かれるなよ』と言われていたが、既に敷かれていたのだった。
今回は、ぎゆしの要素を入れて見ました(^O^)
大正のコソコソ噂話。
しのぶさんは、蝶屋敷に居る時は“素”を出す(限られた一部の人の前)ことがあるんだよ。