~蝶屋敷、道場。早朝~
あれから数週間が経過し、楓は炭治郎たちに稽古をつけていた。
「ごはァっ!?」
突撃しながら振るって来た伊之助の日輪刀は、楓の木刀にあっさりと往なされて隙が出来た部位に一撃を叩き込まれると、伊之助は悶絶したように蹲る。
楓は流れる動きで屈み、迫る炭治郎を背に乗せるようにして転がし、床に叩き付ける。
「ぐわァっ!?」
そして、炭治郎の後ろに居た善逸は型を構えている。
――雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃。
――桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃――極。
善逸の居合いの一閃と木刀を左腰に回した楓の一閃が衝突したが、楓の木刀が善逸の日輪刀を弾き飛ばし、善逸に関節技を掛け床に落とす。
「ぐッっ!?」
善逸は速さで圧倒できると考えたのだが、その速さも楓の方が一枚も二枚も上だ。
楓は、床に落ちた炭治郎たちを見ながら口を開く。
「連携も巧く取れてるし、剣技も冴えてる。――及第点、だな」
楓は木刀の構えを解きそう呟く。
それに楓は『及第点』と言っているが、今の連携剣技ならば下弦には十分通用するものだったのだ。
なので炭治郎たちが、それを涼しい顔で往なした楓を見て「……柱ってやっぱり化け物だな」と内心で思ってしまったのは当然だったのかも知れない。
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午前中の稽古が一段落し、炭治郎が楓に質問をする。
「楓さんは、どうしてそんなに強いんですか?」
「いや、俺は強くないぞ。ただ強く在りたいと思ってるだけに過ぎない」
楓は自身が強いと思ったことは一度も無い。寧ろ、弱いと思っている。剣技の腕が幾らあっても、心の強さではカナエたちの方が圧倒的に強いはずだ。
「(……いやいや、楓さんは十分強いからね!?だって、上弦と二度も対峙して生き残ってるとか、前代未聞なんでしょ?)」
「(……悔しいが、今のオレじゃ蝶羽織りには敵わなねぇだろうな)」
善逸と伊之助は内心でそう呟いていたが、楓が知る由も無い。
それから数分休んだ所で、楓が「さあ、稽古の続きをしようか」と呟くと、炭治郎たちは顔を青くする。
その内容は――二時間の長距離走から始まり、肺を鍛える呼吸法を訓練してから、自身の呼吸の型を二時間舞い、それからまた剣技の切れを確認する稽古だ。
それまさに地獄なような稽古になり、反骨精神を抱く伊之助も何度も失神を繰り返し、稽古に前向きの炭治郎も余りの過酷さに嘔吐を繰り返し、善逸に限っては稽古時の記憶が飛ぶのだ。
「あの楓さん。今日はカナヲが居ないんですけど、いいんですか?」
それは炭治郎の純粋な質問だ。
確かに、継子であるカナヲも参加した方がいいのだが、カナヲは任務でこの場には居ないのだ。
「カナヲは任務から帰ったら、俺と
ちなみに、呼吸を使った実戦稽古である。
これを聞いた炭治郎たちは「……
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~夜、大部屋~
炭治郎たちの稽古を終えた楓は、蝶屋敷で夜食を摂り、就寝の支度をして自身の布団の上に座っていた。
「いつも思うけど、炭治郎君たちは楓の継子じゃないのよ」
カナエは「稽古厳し過ぎないかしら」と楓に指摘し、楓は「厳しいか?」と疑問符を浮かべる。楓とカナエが修行した期間、この稽古に近い内容が組み込まれていたはずなんだが。
そのことを話していたら、楓の隣に座っていた真菰が「楓が最終選別に無傷で受かった理由がわかってきたかも」と思いながら苦笑した。
「そういえば楓、傷の具合はどう?」
真菰が楓の右腕を擦りながら問い掛ける。
それに楓は――真菰が擦る右手に自身の右手を重ねる。
「問題ないぞ。まあでも、完全に完治するまであと数週間はかかりそうだけど」
楓は「完全完治まで任務は無理だな」と付け足す。
楓の隣に座るカナエは、楓の右肩に顔をコテンと預けた。
「それまでは過度な動きはしないこと、いいわね」
「大丈夫だって」
でもカナエと真菰は、楓の「大丈夫」は余り信用していない。
楓はどれだけ無理をしていても「大丈夫」と言って、怪我を放置してきた経験があるからだ。
「楓。完治したら愛を頂戴ね」
真菰の発言に楓は「わ、わかった」と返すのだった。――楓は未だに、愛情関連の耐性がないのだ。
するとカナエが、楓にとっては爆弾発言になる言葉を呟く。
「そうね。――そろそろ一人は欲しいわね」
「そうなれば私は引退かなぁ」
真菰は便乗するように呟く。
「……いや、俺まだ十代だからね」
でも、
それから、楓、真菰、カナエは顔を見合わせ笑い合ったのだった。
物語は次回動かしそうです。
炭治郎たちとの稽古時の楓君は木刀であった為、一撃ならば当ててもOKとなっています。炭治郎たちが勝つ条件は、武器落しか、寸止めですね。
ちなみに、善逸は短時間だけなら眠っている時の力が出せます。
稽古に関しては楓自身も参加で、怪我の包帯は完全に取れてますね。
大正のコソコソ噂話。
楓の継子であるカナヲは、あの二倍(質)の稽古で気力を保ってこなしているんだよ。