修行開始から二年、俺は“全集中・常中”、花の呼吸の型、剣技、心の強さを習得することが出来た。そして今は、真剣での鍛錬中である。
俺は踏み込み、型を繰り出す。
――花の呼吸 五ノ型 徒の勺薬。
――花の呼吸 弐ノ型 御影梅。
俺が九連撃の斬撃を放つが、カナエさんは周囲を包む斬撃を放ち相殺させる。それに、殺気を込め鍛錬しているので実戦に近い。
――花の呼吸 五ノ型 徒の勺薬。
カナエさんが九連撃を放つ。
それは、俺が放った“徒の勺薬”と比べると技の質が格段に違った。斬撃は、肩、胴、足、腕、手の甲。隙ができる部位を容赦無く襲ってくる。
――花の呼吸 陸ノ型 渦桃。
だが、俺は体を捻りながら渦状の斬撃を放ち、襲ってくる斬撃を相殺する。
そして、お互いは距離を取り、刀を構え直す。
「うーん。及第点、かしら」
「……え?今の攻防で及第点?」
俺は目を丸くする。
今の攻防は、他者から見てもかなりの駆け引きだったはずだ。……カナエさん、『柱』を基準にして無いよね?そうだよね?
ともあれ、俺とカナエさんは刀を下ろし、鞘に納める。
「そうよ。――でも、楓は一人前の剣士よ。胸を張って」
カナエさんは「あと」と言葉を続ける。
「楓。私に隠しごとをしてるでしょぉ~」
カナエさんも「白状しなさい」って言ってるし。
「花の呼吸を
派生したと言っても、俺には“花の呼吸”が最適であり、呼吸が合わないから切り替える。ということはない。偶々派生しただけである。
「――桜の呼吸。楓の名前にぴったりね!型はもうあるのかしら?」
「壱、弐、終ノ型がある」
でも、終ノ型は諸刃の剣だ。
型を創った俺が言うのも何だが、爆発的な破壊力がある分反動も強い。それに、無暗に繰り出すのは危険過ぎる。
このことをカナエさんに話すと「なるほど」と頷いた。
「それじゃあ最後に、壱、弐ノ型を見せて貰えるかしら?」
「わかった」
俺は刀の柄に手を添える。
そして、型を創り出し、
――桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃。
俺は瞬間的に動き、目の前の木を斬ってから納刀する。
振り返ると、カナエさんがパチパチパチと、両手を叩いていた。
「壱ノ型は、雷の霹靂一閃に類似する部分があるわね」
「花の呼吸には、鬼の頸を斬るだけに特化した型はないからね」とも、カナエさんは言っていた。まあ俺も、一閃できたらカッコイイなぁ。と思って、創った型でもある。
それから俺は、刀を抜いて前方にある無数の木々に目を向ける。
――桜の呼吸 弐ノ型 千本桜。
千本桜は“花の呼吸 五ノ型 徒の勺薬”の改良版だ。
“徒の勺薬”は、前方に九連撃を放つ技だが、“千本桜”は全方位を囲むような無数の斬撃で相手を斬り裂く。多数対一ならば範囲技で有効だが、一対一になるならば攻撃範囲を絞った“徒の勺薬”の方が有効だろう。
そして、俺は木々が粉々になったのを見て納刀し、カナエさんは俺の前に立った。
「うん。良いものを見せて貰ったよ」
カナエさんは、にっこりと微笑んだ。
「――最終選別を受ける許可をします」
「でも」と言葉を続ける。
「危なくなったなら逃げて、決して無茶はしないで。――人は、死んでしまったら、そこでお終いだから」
「心配すんな。カナヲを悲しませたくないしな」
カナエさんは頬を膨らませ、
「そこは、私としのぶもでしょ」
俺は「わかってるって」と言って苦笑する。
こうして、一時的に俺の修行が終了したのだった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
蝶屋敷に帰り、飯を食べてから俺とカナヲは縁側に座って月を眺めていた。
「カナヲ。俺は、明日から最終選別を受けてくる」
「……帰ってくる?」
カナヲは不安そうな瞳で俺を見た。
俺は「必ず帰る」と言い、右手をカナヲの頭にポンと乗せる。
「……わ、私もいつかは一緒に戦える、かな?」
俺は目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべる。
「きっと戦える。でもその為には、自身に合う呼吸を見に付ける必要があるな」
「……たぶん私、“花の呼吸”だと思う。前に、呼吸の適性について調べた」
「なるほど。カナエさんに頼んでみるか。でも、義兄妹で“花の呼吸”か」
「……うん。お揃い」
「そうだな」と言って、俺はカナヲの髪をクシャクシャと撫でた。
そして、俺が明日の早朝に向かうのは――藤襲山。最終選別が行われる舞台である。
楓君たちが修行(実戦鍛錬)していた所は、蝶屋敷から離れた丘の上です。
呼吸を派生させましたが、一閃は入れたかったのでぶち込みました。霹靂一閃、カッコイイもんね!
ではでは、次回(@^^)/~~~
追記。
修行中は、カナエさんは隊服で、楓君は動きやすい着物姿です。
お互いの真剣は、日輪刀と考えて下さい。
派生については、鍛錬中をカナエさんに見られた感じです。