妓夫太郎の頸を刎ねた楓だが、途端体がぐらつき平衡感覚が危うくなる。――血塗られた猛毒が徐々に体を蝕み始め、皮膚が爛れているのだ。耐毒を身に付けているとしても、この毒の濃度は命に関わる。
「栗花落、よくやった」
そう言ったのは、楓に歩み寄った天元だ。
だが天元の徐々に毒に蝕まれ、皮膚が爛れている。
「ありがとうございます」
刀を納刀してから、楓は一礼する。
楓は「でも」と言葉を続ける。
「俺たち死ぬんでしょうか?この毒の濃度は、通常の解毒剤では効果ありませんよ」
「オレもド派手に同意だ。このままじゃ、オレたちは死ぬな」
そう言ってから天元が同調する。
――そう。呼吸で毒の巡りを遅らせても、蝶屋敷に到着し、治療を受けるまで間に合わない。だがさすが柱と言った所だろうか、天元と楓には動揺が見られない。
その時、禰豆子を背負いながら炭治郎が走り寄る。炭治郎も進化した堕姫の攻撃により、所々に殺傷があり、額からは血が流れていた。そして――進化した堕姫の帯には毒が付与されていたらしい。
「楓さんっ、宇髄さんっ!――禰豆子、頼んだ!」
炭治郎はそう言ってから禰豆子を背から下ろした。
禰豆子は「ウー!」と鳴いてから、楓と天元の片手を握ると血気術で燃やす。
すると、爛れた皮膚は色を取り戻し、毒を消し去ったのだ。
「――……こりゃ一体どういうことだ?毒が消えた」
「多分、禰豆子の血気術が毒を飛ばしたんじゃないですか」
楓が平静に状況を把握する。
「……こんなこと有り得るのかよ、混乱するぜ」
「禰豆子は人を護れる鬼ですから。人間を回復させる血気術を発現していてもおかしくないです――てか助かったぞ、禰豆子」
楓が禰豆子の頭を左掌でグリグリ撫でると、禰豆子は「ウー!」と鳴いて、猫のように目を細めた。
楓は周囲を見回してから口を開く。
「俺は今から、上弦の陸の頸を確認してきます」
「お、オレも行きます。頸を見るまでは安心できませんから」
それから天元は嫁たちと合流しに、炭治郎、楓は上弦の陸の頸を探しに向かった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
声の発生源まで楓たちが歩み寄ると、そこには頸だけになった上弦の陸の姿。
「なんで助けてくれなかったの!?アタシ頑張ったのにさああ!」
「オレは柱を相手にしてたんだぞ!今までもお前は選り好みした女共を監禁してただけだろうがあ!柱と戦っていたのは、ほぼオレだけだあ!」
「柱が二人も来るなんて思わなかったんだもん!今までは一人だったのに!それに、耳飾りの小僧たちが強過ぎたんだよ!」
「言い訳すんじゃねぇ!仮にも上弦だって名乗るんならなあ!下っ端くらい倒せるだろうがあ!」
堕姫と妓夫太郎は、ハァ、ハァと息を荒げていた。
そして堕姫が口を開く。
「――大体アンタみたいに醜い奴がアタシの兄妹わけないわ!」
堕姫の怒号に妓夫太郎はハラハラとした表情で見つめていた。
妓夫太郎に取って、妹の堕姫がこれ程まで取り乱すのを始めて見たのだろう。
「アンタなんかとはきっと血も繋がってないわよ!だって、全然似てないもの!この役立たず!強いことしか取り柄が無いのに、負けたら何の価値もないわ!出来損ないの奴よ!」
憤慨した妓夫太郎は、普段思っていないことを口にする。
「ふざけんじゃねぇぞ!お前一人だったらとっくに死んでる!どれだけオレに助けられた!?出来損ないはお前だろうが!弱い癖に上弦なんか名乗りやがって、お前みたいな奴を今まで庇ってきたことが心底悔やまれるぜ!――お前さえいなけりゃオレの人生もっと違ってた!お前なんて、生まれて――」
「――嘘だよ」
炭治郎は妓夫太郎の傍で片膝を突け、右手を妓夫太郎の口許に寄せ言葉を遮る。
「本当はそんなこと思ってないよ、全部嘘だよ。喧嘩しないで仲良くしよう、この世でたった二人の兄妹なんだから」
「そうだな。お前らのしたことは許されるものじゃない。お前らは罪を償う必要もある。――でも、お前たちにも悲しい過去があり、人間と決別したいことがあったんだろう。――人間と共存する道は有り得なかったんだろう。……だがお前らは鬼であり兄妹だ、なら最期まで笑い合ってくれ」
楓の瞳からは慈悲の念が汲み取れた。
そして、炭治郎と楓の言葉に、堕姫は涙を流しながら先程の言葉を撤回する。
「……お兄、ちゃん……弱くて、ごめん……なさい」
この言葉を最後に、堕姫はバサと消滅する。
「――梅!」
妓夫太郎が言った『梅』が、堕姫の人間だった時の名前なのだろう。
そして妓夫太郎は、声を震わせる。
「お、オレ……梅に……なんてことを……」
「大丈夫だ。お前らは兄妹なんだろ?兄妹なら、喧嘩して仲直りするくらい心配ない」
「うん。たった二人の兄妹なんだから、何度でもやり直せるよ」
楓、炭治郎がそう呟く。
そして妓夫太郎が思い出すのは、人間だった頃『梅』と過ごした日々だ。
『お兄ちゃん……寒い……』
『大丈夫だ、オレがついてる。オレたち二人なら最強だしな』
雨の日も雪の日も、それを凌ぐ家がなく、兄妹は身を寄り添って温め合う。
『いただきます!』
『腹一杯食えよ』
『うん!』
溜めた金で飯を買い、兄妹で分け合って食べる。
『お兄ちゃん大好き』
『ああ、オレも梅が大好きだぞ』
どんなに貧しくても、兄妹で笑い合った時。
そしてこれが、妓夫太郎が思い出した記憶。
「……そうだと、いいなぁ」
妓夫太郎は、両瞳から涙を流し声は穏やかだった。――妓夫太郎は、堕姫の後を追うように消滅する。
楓たちに走り寄ったのは炭治郎だけで、善逸たちは解毒をして待機してた設定になってますね。