昼食を摂り終え部屋に戻ると、楓は化粧鏡の前に座る。これから、
化粧道具を用意したカナエが楓の顔を化粧品で保温し、スポンジを使用し下地を満遍なく塗っていき、パフを使用しファンデーションで顔全体を整える。
通常ならこれで終了にするんだが、今日は楓をうんとおめかしすると決めているのだ。なので、両目の睫毛をビューラーで上方に整えマスカラを塗ると、楓の瞳がパッチリする。
「……私、女として負けた気分だわ」
「……楓、綺麗すぎだよ」
「……俺はどう対応したらいいのか困るんだが」
カナエと真菰の言葉に、楓は眉を下げる。
まあ確かに、女性に男性が「可愛いね、綺麗だよ」と言われても、反応に困るのは明らかであった。
ともあれ、着物を着付けることになり、楓はその場で立ち上がり着物を着付けていくのだが、その慣れた手付きにカナエと真菰は目を丸くする。
楓に取って着物の着付けは、遊郭で女装をした際に身に付いてしまっていたのだ。
「私、百合なったとしても、女装した楓に告白する自信あるなぁ」
「私も同感ね。今の楓なら、女性も虜にできるじゃないかしら」
「……そこまで聞くと、今から蝶屋敷を出歩くのが恐怖なんだけど」
ともあれ、真菰とカナエが「声質も変えてね」呟いたので、楓は鈴を転がしたような声質に変える。
「真菰、カナエ。これでいいかしら」
「凄い凄いっ!楓、本当に女の子になったみたい!」
真菰は気分が高揚している。
まあ、楓は内心は色々と複雑な気分なんだが。
「これなら、街に出向いても露見する心配はないんじゃないかしら」
カナエがそう言ってから、楓たちは部屋を出て、楓がしのぶに家を空けることを伝えに診療所に向かうのだった。
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~蝶屋敷、診療所~
楓たちが診療所に移動すると、備え付けられて机の椅子に座り、しのぶが熱心に本に視線を落していた。――おそらく、医学に関する書物だろう。
「しのぶさん」
しのぶは目を丸くし、笑みを浮かべる。
「可愛くなりましたね、楓」
やはり家族だ。
しのぶは、楓の
「まあうん。色々と複雑なんだけど」
しのぶは「そうでしょうね」と言ってから苦笑した。
ともあれ、楓が今日一日家を空けることを伝える。
「姉さんと真菰も家を空ける。ということでいいんですね?」
「うん。出掛けるついでに、
「わかりました。姉さんと真菰をお願いします」
「任せろ。二人の安全は保障する」
「ふふ。でも、楓も自身の心配をして下さいね。今の容姿だと、男に口説かれる危険がありますから」
楓は「まさかぁ」と呟くが、客観的に見れば有り得ない話でも無いのだ。
楓は診療所を後にし、下駄に履き替えてから門の前で待つ、カナエ、真菰と合流し街へ向かった。
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~街~
街に到着する頃には、夕陽が落ちる時間帯になっていた。
街は明かりが灯り、煌びやかな雰囲気を纏うようになる。
「夜、街に顔を出すのは初めてじゃない?」
「確かに、いつもは明るい時間帯に買い出しを済ませちゃうしなぁ」
真菰の問いに、楓がそう答える。
「あそこに行きましょう」と言ってから、カナエが楓と真菰の片手を握り目的の屋台に近付く。――その屋台とは、金魚掬いである。
屋台に備え付けられている長細い水槽の中には、赤、黒色の金魚たちが泳いでいる。
「
「あ、はい。じゃあ、お願いします。――カナエと真菰もいいわよね?」
楓が親仁の問いに、鈴のような声で答える。
それから、楓がカナエと真菰にそう聞くと「いいよ」と呟き、頷く。
金を払い、楓たちは左手にお椀を、右手にポイを持ち、水中にポイ沈め金魚を掬おうとするが、これが中々巧くいかない。――楓だけは、三回目の挑戦である。すると楓が、『全集中の呼吸』を始めるではないか。
「か、楓。金魚掬いで『全集中の呼吸』はダメだよ」
「そ、そうね。私たちも協力するから、正規に掬いましょうね」
「……わかった」
楓は、むう。と頬を膨らませる。それから、楓、真菰、カナエで顔が付きそうな距離で金魚を見定める。――狙いを定めてポイを水中から上げ、素早くお椀に寄せると一匹だけだが掬うことに成功したのだった。
「や、やった」
「ふふ。良かったわね」
「やったね、楓っ」
そう言ってから、楓たちは笑みを浮かべる。そして、男性共の視線は釘付けである。……まあ、そんなことは露知らずの楓たちだが。
「じゃあお嬢ちゃんたち、一匹ずつでいいかい?」
「あ、はい。大丈夫です」
楓が鈴声でそう言ってから、楓たちのお椀から金魚を掬い、金魚を袋の中に移し手渡してくれる。
袋を受け取ってから楓たちは立ち上がり、この場から離れたのだった。
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金魚掬いが終わると、楓たちは射的や輪投げ、ヨーヨー釣りと、楽しい時間を過ごした。
そして現在、楓たちは花火が見渡せる丘で足を崩し座っていた。
「楽しかったね」
「こんなに楽しいのは、久しぶりかしら」
「俺もかなぁ。最近は、上弦討伐や警備で時間が取れなかったからなぁ」
その時、
――――ドーーーーン!!
と音が響き、赤、青、緑、オレンジと、様々な色の花火が夜空に綺麗な花を咲かせた。
「綺麗だね」
「そうね」
「だなぁ」
月並みの言葉しか出てこなかったが、この景色を言い表すには十分な言葉だ。
最後の花火が打ち上がったのを見てから、楓たちは腰を上げ、蝶屋敷に帰路に付いたのだった。――その間は、手を繋ぐことは忘れずに。
楓たちは護身用として、日輪刀の短剣を隠し持ってますね。
てか、化粧関係はわからないことだらけなので、間違っていたら脳内変換でお願いしますm(__)m
大正のコソコソ噂話。
カナエと真菰が席を一時的に離した間に、楓は男性二人組にナンパされていたんだよ。蝶屋敷で炭治郎たちに見つかった時も、女性と勘違いをされてたんだ。